ドル支配にとって最も好都合だったことは、暗号資産、特にステーブルコインの出現だ。1560億ドル(約21兆円)規模のステーブルコイン市場は、ほぼドル建てになっている。ステーブルコインが国際貿易で使用されるにつれて、世界経済におけるドル覇権は強化されていった。
中国にとって、世界経済におけるドル支配は常に頭痛の種。事実上、アメリカが世界を支配していることを意味するからだ。中国有数の通信機器メーカーであるファーウェイに対する規制、イランに対する輸出規制などが思い浮かぶ。
国外市場での取引専用に発行された「オフショア人民元(CNH)」を裏付けとしたステーブルコインというアイデアは、こうした状況を打破できるだろうか。理論的には面白いが、人民元の利用を拡大することは難しいだろう。
資本規制とステーブルコイン
中国では資本規制によって、企業は外貨を5万ドルしか購入できない。そのため、国外に多額の資本を送る手段として、テザー(USDT)やUSDコイン(USDC)への需要がある。
資本規制は国際ビジネスを難しくするが、中国は人民元の安定性を優先し、資本規制を中国人民銀行(PBoC)の財政政策の柱としている。規制によって、米ドル、ユーロ、カナダドル、日本円が受けているような市場の圧力から切り離されているため、人民元はより安定的な通貨となっている。
だがこれは、中国は世界第2位の経済大国であるにもかかわらず、人民元のシェアはその地位に比例していないことを意味する。世界の決済における人民元のシェアは、2%程度に過ぎない。
一方、中国政府は人民元の資本規制を維持したまま、海外資本にアクセスできる方法を模索している。2010年、中国政府はまずは香港で、その後、シンガポールとルクセンブルグでオフショア人民元を発行し、「点心債」(中国の資本規制外で海外資本を集めるために中国企業が発行する債券)市場を切り開こうとした。
だがオフショア人民元は通貨と呼べるものではなく、点心債の購入・取引以外に使い道はない。
オフショア人民元に裏付けられたステーブルコインを作ることは難しいだろう。点心債市場の時価総額は800億ドル強で、これはピーク時のUSDTの時価総額にほぼ相当する。USDTやUSDCに対抗し得るステーブルコインを発行するには、発行量が足りなくなる可能性がある。
これはオフショア人民元に限った問題ではなく、シンガポールドルに裏付けられたステーブルコインを発行する試みも供給量の問題にぶつかっている。
|翻訳:coindesk JAPAN
|編集:増田隆幸
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|原文:First Mover Asia: A Chinese Alternative to Dollar-Based Stablecoins? Widening the Use of the CNH Presents Challenges; BTC Remains Above $20K