リセッションでもWeb3投資にアクセル──インフラ開発は止まらない【NFT.NYC】

【ニューヨーク】──リセッション(景気後退)は避けられないとの見方がアメリカの経済界でいっそう強まる中、Web3の実現に向けたブロックチェーンを基盤とするインフラ開発と同領域におけるベンチャー投資は、引き続き活発化しそうだ。

6月20日に始まった世界最大のNFTイベント「NFT.NYC 2022」は23日に幕を閉じた。出席した投資家や弁護士、ブロックチェーン開発の企業トップなどからは、楽観的ともとれる見方が聞かれた。

「Web3領域へのベンチャー投資に対するインパクトは、限定的となる可能性が高い。しかし、それ以外の領域で活動するスタートアップへの資金の流れは、当然、スローダウンしていくだろう」と述べるのは、ニューヨークの法律事務所フェンウィック&ウエスト(Fenwick&West)で、ブロックチェーン・スタートアップを専門とするデューイ・ホー弁護士。

NYでWeb3にフォーカスする弁護士

(写真:ニューヨーク・セントラルパークから見えるビル群)

ホー弁護士は、「アメリカの大手ベンチャーキャピタルは数カ月の間、数十億ドル規模の資金を調達してきた。そのファンドの多くを短期的にWeb3領域に投下されるだろう」と述べた上で、「VCにとって、リセッションは比較的に有利な投資フェーズと言える。有望視されているWeb3企業であっても、その企業評価額はアグレッシブなレベルが算定されることはなくなる」と、coindesk JAPANの取材の中で語った。

事実、米大手VCのアンドリーセン・ホロウィッツ(a16z)は5月、45億ドル規模の新たな暗号資産・ブロックチェーン投資ファンドを設立したと発表。a16zは同月に「State of Crypto(暗号資産の現状)」と題するレポートを発表し、「Web3革命は始まったばかりだ」との主張を展開している。

また、ホー弁護士は、「投資家サイドは、従来のメトリクスをより重視した投資判断を行うことになると思う。そのメトリクスとは、(スタートアップの)チーム力、(プロダクトの)普及率、財務状況だ」とコメントした。

フェンウィック&ウエストは、暗号資産取引サービス大手のコインベース(Coinbase)が株式上場を行った際のリーガルアドバイザーを務めた。

トロントのベンチャーキャピタリス

(写真:ニューヨークの5番街で見かけたWeb3をテーマにした展示場)

カナダ・トロントを拠点に、ベンチャーキャピタリストとして活動するビルダー・キャピタル(Builder Capital)のマット・スパタロ氏は、「シードラウンドとプレ・シードラウンドで投資を行う上で、これからの投資環境は追い風となるだろう(投資家サイドにとっては)割安感があるのは事実だ」と語る。

「Web3の実現には、ある程度の時間がかかる。未来を見据えたWeb3のインフラプロダクトの強さと、それをリードする強い起業家・創業者との出会いは、私にとっては魅力的だ」とスパタロ氏。

スパタロ氏は、3~5年の投資スパンを軸に、Web3のインフラに関連するスタートアップを投資ターゲットに置いている。同氏のファンドはこれまでに、イーサリアムのレイヤー2チェーン「StarkNet」上で構築されたNFTマーケットプレイスの「ASPECT」に投資を行ったという。

スパタロ氏は、ブロックチェーンを軸にしたプロダクトの開発を行った後にベンチャーキャピタリストにピボットした。同氏は、注目しているブロックチェーンとして、レイヤー2のStarkNetに加えて、ソラナ(Solana)、NEAR、アバランチ(Avalanche)をあげた。

ラジオシティのステージに立ったCEO

(写真:ラジオシティ・ミュージックホールのステージに立つMoonPayのCEO)

ムーンペイ(MoonPay)は、暗号資産の購入やNFTの発行を簡素化したインフラを開発している企業だ。同社は今回のNFT.NYC 2022のスポンサー企業の1社で、その企業ロゴがイベント会場のあちらこちらで目立っていた。

共同創業者でCEOのイヴァン・ソト-ライト(Ivan Soto-Wright)氏は21日、90年の歴史があるラジオシティ・ミュージックホールのステージに立ち、今一番重要なことは、暗号資産の価格下落に一喜一憂することではなく、Web3に到達するためのインフラを築く上げることだと述べた。

また、高値で取引されるコレクティブルズのNFTが、一部の暗号資産コミュニティで注目されている中、ソト-ライト氏は、NFTの世界は生まれたばかりで、一般に普及していくためには、NFTの発行に伴うスマートコントラクトを簡単に選ぶことができて、シンプルに発行・取引できるインフラを構築する必要があると訴えた。

ゲームに大変革が起きると語るCEO

(写真:ポリゴン・スタジオがニューヨークに開設したサテライトイベント施設の中)

イーサリアムのレイヤー2、ポリゴン(Polygon)が昨年7月に設立したポリゴン・スタジオ(Polygon Studios)も今週、その存在感をニューヨークで強めていた。

YouTubeのゲーム部門責任者を務めた後、ポリゴン・スタジオのCEOに就任したライアン・ワイアット(Ryan Wyatt)氏は、ブロックチェーンゲームが世界のゲーム市場を大きく変えていくと考えている。

同じく21日の朝、ラジオシティのステージに立ったワイアット氏は、従来のゲームに世界中の人々は何十億ドルものお金を費やしてきたが、ゲームの中で何かを所有するという概念や、何かの権利を得るという概念が存在してこなかったと指摘。

近未来、ブロックチェーンは、これまでのゲームの世界を大きく変えていくことになると、ワイアット氏は強調する。その変化を促すことのできる優れたブロックチェーンゲームの開発と、それが可能にする新しい経験を生み出していくことが今求められていると強調した。

今週、スイスのチューリッヒでは、イギリスの中央銀行副総裁のジョン・カンリフ氏が、興味深い発言をした。ブルームバーグが報じているが、カンリフ副総裁は、過去数カ月における暗号資産価格の暴落・低迷について、こうコメントした。

「インターネットバブルの崩壊に似ているのではないだろうか。当時は5兆ドルが吹き飛び、多くの企業が消えた。しかし、テクノロジーが消えることはなかった。その10年後、生き残ったアマゾンやeBayは、世界を圧倒する存在となった」

Web3を作り上げるための開発が止まることはない。ただ、世界のお金の流れが大きく変わろうしているなか、多くのスタートアップが消え、真の技術と社会を変えるプロダクトを開発できる企業が生き残っていくことは間違いない。

|取材・編集・撮影:佐藤茂
|トップ画像:ラジオシティで行われたイベントセッション