テラのようなプロコトルから暗号資産(仮想通貨)関連のレンディングプラットフォーム、さらにはヘッジファンドまで広がる一連の破綻、デフォルト、流動性危機を受けて、損失を出したユーザーや投資家らが法に訴えようとする最初の兆候が見えてきた。
しかし、そのような訴訟にはいくつかの難問が伴う。とりわけレンディングプロトコルは、自らのサービスの性質を形容するのに、わざと曖昧な表現をしてきたため、顧客の資産に関して、これらの企業がどのような責任を負うかが、明確ではない。
詐欺を立証する
「その点について、まだ判断は下されていない」と、マイアミにある法律事務所LKLSGに所属する証券専門の弁護士マルセロ・ディアス-コルテス(Marcelo Diaz-Cortes)氏は語った。
ディアス-コルテス弁護士は、今問題となっている各種暗号資産プロジェクトと、現在自らが訴訟に関わっている、明らかな詐欺事件を対比して説明してくれた。
その一例が、Argyle Coin。ダイアモンドで裏付けられているとされていたが、実際にはポンジスキームであることが判明した。「わかりやすい詐欺だった。本当は存在していなかったのだ」
しかし、5月に劇的に暴落した「アルゴリズム型ステーブルコイン」TerraUSD(UST)の場合は、そうではない。トークン設計は深い欠陥を抱えていて、専門家は暴落を予測していたが、その仕組みは透明性を持っておおむね正確に説明されていたようだ。
「どのような仕組みになっていたのか、秘密にされている訳ではなかった」と、ディアス-コルテス弁護士。「本当に宣伝された通りに機能していたのなら、裁判所、陪審員に(詐欺と納得させるのは)簡単ではない」
だからと言って、事件性がない訳ではない。ディアス-コルテス弁護士によれば、一般的な証券訴訟においては、「問題となっている企業の従業員、あるいは宣伝していた人が、少しでも余分な知識を持っていたのにそれを公表しなかった場合」に、詐欺と判定されることもあるのだ。
例えば、裁判所では、創業者のドー・クォン(Do Kwon)氏やテラフォーム・ラボ(Terraform Labs)が、USTを資産で裏付けたトークンへと移行させることについて語った発言や、トークンが2021年5月にペッグを維持できなくなったときに、秘密裏に第三者に救済されていたという噂などを、検証するかもしれない。これらの要素は、公に向けられていた発表とは異なり、チームがトークンは宣伝された通りに機能しないことを知っていたと示唆することになるからだ。
テラの生みの親たちから直接賠償を求めようとする人たちにとってのもう1つの朗報は、事業の中心地であった韓国において、捜査が進んでいる点だ。そのような捜査は通常、完了するまで内密に進められるが、原告団にとっては有力な武器となり得る。
「間違いなく、訴状に含めるような要素だ」と、ディアス-コルテス弁護士も語り、「ほら、政府が何かを嗅ぎつけている。政府が行動を起こしている、と。(中略)裁判の場では、何か怪しいことが起こっている状況証拠として提示することになる」と指摘した。
多額の損失を被ったUST保有者の一部は、法的措置にかける力を取引所に向けている。例えば、USTを販売し、原告団によれば、「安全」だと説明した取引所のバイナンスUSを標的にした集団訴訟が進行中だ。
ディアス-コルテス弁護士は、取引所を相手取ったそのような訴訟は、取引所やトークンを宣伝していた組織が「(リスクに)さらされる可能性について、完全に率直ではなかった」場合には、主張に根拠があるかもしれないと考えている。
テラの被害者で研究者のFatmanを含む、バイナンスUSを相手取った裁判の原告団は、レンディングプロトコルのアンカー(Anchor)など、LUNAとUSTトークンを使う多くのアプリを生み出したテラフォーム・ラボに対する訴訟も行うと語った。
その訴訟の可能性は、テラの事例で根本となっている大切なポイントを浮き彫りにしている。「分散化」という言葉に頼りつつも、テラは少人数の内輪グループに管理されていた、という点だ。それ自体が、詐称や詐欺という主張のさらなる根拠となり得る。
セルシウスは銀行か?
「レンディングプラットフォーム」セルシウス(Celsius)も同様に、誇張された宣伝をしていたとして非難される可能性がある。セルシウスは、分散型金融(DeFi)を謳いながら、DeFiへの仲介業者として機能したに過ぎない完全なる中央集権型組織なのだ。デフォルトの前触れともなり得る、顧客資産引き出しの凍結以降、訴訟の格好の標的になっている。
弱々しいが、最初に見られた訴訟の兆候の1つは、資産をセルシウスに凍結された後、YouTubeインフルエンサーのBitBoyが出した、集団訴訟を検討中という発表だった。
しかし、発表からわずか数日後には、BitBoyが何年も詐欺的プロジェクトを宣伝するために直接報酬を受け取ってきたのと同じように、セルシウス宣伝のためにも報酬をもらっていたことが発覚。BitBoyは前言を撤回した。極めて便利な表現「自らのわなに陥って」の典型だろう。残念だ。
それでも、もっと適任な人たちが、セルシウスに狙いを定めて訴訟を起こすのは間違いない。問題は、セルシウスや似たような「レンディングプラットフォーム」が、明確な分類や規制を避けてきた点にある。
高い利回りを求めるユーザーたちはしばしば、規制や消費者保護が欠如しているにも関わらず、これらのプラットフォームを暗号資産銀行として利用してきたのだ。
実際、レンディングプラットフォーム、ブロックファイ(BlockFi)で利子を生むアカウントに対して取られた最近の規制当局による措置では、そのサービスは未登録の証券とされた。ブロックファイそのものは、セルシウスと同じような財政上の問題を抱えてはいないため、民事訴訟の標的にはならないかもしれない。
しかし、裁判所でセルシウスや似たようなプラットフォームが、銀行サービスを提供するのではなく、証券を販売していたと判断されれば、ユーザーにとっては打撃となり得る。証券を買うことは、特定の値段でそれを換金できる権利を意味しないからだ。
もう1つの法律上の疑問は、セルシウスが顧客に渡す利子を獲得するために、顧客の資産で実際に何をしたのかという点だ。セルシウスは2021年初め頃から、顧客の資産を流動性の高いDeFi「イールドファーム」で使うなど、ますますリスクの高い戦略を採用し始め、後にはテラのアンカープロトコルもその投資先に含まれていた。
セルシウスは、テラの暴落以前にアンカーから資産を引き出していたようだが、全般的な投資戦略が裁判で焦点となるかもしれない。
ちなみに従来の銀行法のもとでは、顧客の預金で利子を生むために使われるローンやその他の戦略を公表する義務はない。
「(銀行は)顧客に対し、特別な注意義務を負わない。求められた時に、預金を返せば良いだけなのだ」と、ディアス-コルテス氏は説明し、「『資産をこのように使うべきではなかった』として、問題を提起することはできない」と続けた。
さらに、銀行がその義務を果たせるかどうかは「白黒はっきりした単純なこと」で、資産を再担保にしたからといって「必ずしも詐欺ではない」と、ディアス-コルテス弁護士は語った。
しかし、そのような考えも、ある程度までしか当てはまらない。顧客の資産を使って「何か無謀で詐欺的、無責任なことをしたかどうかが問題になる」とディアス-コルテス弁護士は指摘。「何を知っていたのか、舞台裏で何が起こっていたのかが、焦点となる」のだ。
もしくは原告団は、セルシウスは銀行ではなく、顧客の代わりに投資を行うブローカーだったと主張するかもしれない。
「暗号資産を預け入れるアカウントという点では、(銀行とブローカーの)要素を少しずつ併せ持っている」と、ディアス-コルテス弁護士は語り、「10ドルを預け入れて、10ドルが戻ってくることを見込んではいない。利子(を稼ぐ)ために、預け入れていたのだ」と続けた。
ディアス-コルテス弁護士によれば、そうなると、詐欺に当てはまるものの基準が低くなるかもしれない。「ブローカーのアカウントの場合、安全な投資として宣伝されていたのに、その義務に違反したという主張が時々見受けられる」からだ。
|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:The Case for Suing Celsius, Terraform Labs