分散型自律組織(DAO)として組織されたNFT(ノン・ファンジブル・トークン)コミュニティで、何千ものメンバーが貢献をして報酬を受け取り、補助金をもらったり、開発をしたりしている場合、メンバーは新しい形態の仕事に携わっていることになるのだろうか?
彼らが共通の利害を持っていたとしたらどうだろう?
NFTの盛り上がりが弱まる中で、直感では理解しにくいように聞こえる話ではあるが、デジタルコミュニティの成功は、アテンション(関心や注目)と管理よりも、一体感や価値観にかかっているのだ。これらは、ウェブ3が得意とするもので、コミュニティ主導の要素でもある。
アテンション市場からインスティテューションへ
現行バージョンのウェブは、地理的制約に縛られないデジタルコミュニティやその他の形態の社会組織を育んだ。とりわけ、ソーシャルメディアプラットフォームは、アテンション(関心や注目)市場と、それぞれの人に合わせた情報を提供したり、それぞれが必要としている人たちを結びつけるようなアルゴリズムを通じて、考え方、関心、目標を共にする人たちとつながる力を拡大した。
しかし、ツイッターやフェイスブックなどの既存のテックプラットフォームは、取りまとめという点ではダンバー数を越えたところまで私たちの関係を拡大させたが、協力においてはまだまだだ。
さらに、「プラットフォーム資本主義者」たちが、私たちのアテンションやデータから利益を生み出し、その利益を個人やグループに還元する代わりに自分達のものにしている在り方も忘れてはならない。
ダンバー数:人間が安定的な社会関係を維持できるとされる人数の認知的な上限。一般的には150人ほどとされる。
スマートコントラクトを発明したニック・サボ(Nick Szabo)氏は、社会的スケーラビリティについても興味深い考えを持っていた。サボ氏によれば、社会的スケーラビリティとは、「誰が、そしてどれくらい多くの人間がしっかりと参加できるかに制約を加えるような(中略)人間の心が持つ欠点を乗り越える」ための、インスティテューションの能力である。
インスティテューション:複数の人が繰り返し参加する関係、あるいは共有の試み。参加者の行動を制限したり、促進する慣習、ルール、その他の特性を持つ。
社会的スケーラビリティとは、「インスティテューションの参加者の多様性や数、さらにはその関係性が拡大するにつれて、参加者がインスティテューションや仲間の参加者について考え、反応できる方法や範囲」を拡大する力のことであると、サボ氏は考えているのだ。DAOが社会的スケーラビリティにうまく対処できれば、インターネット時代における大きなステップとなるかもしれない。
暗号資産、NFT、DAOは、私たちが社会的スケーラビリティをさらに深めることを可能にする。デジタルコミュニティが自らを自律的に定義し、真の独立した経済力を持ったデジタルインスティテューションになれるようにしてくれるのだ。
コミュニティは今や、独自通貨、協調のための独自のルール、さらには独自の労働形態を生み出す能力を持っている。これらの要素をコードとしてはっきりと定義することで、自らの価値も定義することになるのだ。
何が変化しているのか?
オンラインでの仕事や経済活動の大半はいまだに、販売する製品、さらには従うべき社会的規範や法律を持った、実体を伴う組織によってオフラインで管理されている。オンラインでのやり取りは、企業の実世界での経済活動にとっての付加的な協調レイヤーのようなものなのだ。
さらに、人々の集団間でのオンラインのやり取りはいまだに、中央集権型企業やプラットフォームが仲介している。ウェブには読み出しと書き込みの能力しかなく、経済的やり取りの幅は限定されているため、オンラインエコノミーは、実世界のエコノミーの鏡のようなものなのだ。ただし、実世界のエコノミーをただ映し出すものというよりは、ますますそれを拡張したもののようになってきてはいる。
デジタルコミュニティが、外部情報を受け取り、分類し、伝達するだけの能力を越えて、Web3がもたらす分散型の所有権、価値の創造や移動という新しい力へとつながるツールを活用できれば、このような状況は変化する。これらの技術的変化は、極めて重要なもので、仕事や協調の経済に、まったく新しいデザインの余地をもたらすのだ。
このような新しいタイプのインスティテューションが、利害関係者の間に生まれ、オンライン固有ものとして存在することになるだろう。
ブランディングから一体感へ
この新しいインスティテューションが、最終的にどのようなものになるのか、何がうまくいくかについては、憶測の余地がある。潜在的可能性は素晴らしいものだが、今のところは未完成だ。現状の限界点を越えて社会的スケーラビリティを高めるためには、模索と革新が必要だ。
オンラインでの組織化や、現行のWeb3文化に関して、伝統的企業のブランディングが効果的でないことは明らかだ。実際、有機的に関わっていくデジタルコミュニティからは、嘲笑の的になることもしばしばだ。その代わりに好まられるのは、ミーム文化。そしてさらに重要なのは、プロジェクトの価値観やイデオロギーとの一体感だ。
将来的には、才能ある人材や人的資本は、単に製品や企業ではなく、新しいインスティテューションの持つアイディア、価値観、長所のまわりに集まってくるだろう。多くのWeb3コミュニティ、革新的ブロックチェーンプロトコルやNFTプロジェクトにとってはすでに、共通のミッションというのが、人々を惹きつける最も強力な要因となっているのだ。
開発者としてWeb3の未来を信じるならば、一体感や関心を中心として労働力が組織されるような、社会的暮らしや仕事にとっての新しいプラットフォームとして、そのような集まりが形成されていくことになるだろう。
例えば、NFTプロジェクト。最大規模のNFTコミュニティは、価値の創造と、コレクション品を中心とした経済構築を続けるために、すでに関与している多様で熱心な人々を活かす大きな潜在力を持っている。
NFTプロジェクトは、他の形態のクリエイティブな生産活動へと手を広げ、暗号資産の枠を越えた影響力の高いエコシステムやブランドになるだろうか?NFTグループが、将来的に大規模な「雇用主」となることができるだろうか?答えはまだわからない。
ブランディングよりも一体感という考えは、仕事の在り方を変えている。Web3コミュニティやインスティテューションは今、この先の仕事の在り方をあらかじめ決めてしまえる特別なチャンスに恵まれているのだ。
さらにこの先、開発や発展を楽にしてくれるような基盤となるWeb3レイヤーから恩恵を受けることもできるかもしれない。 コミュニティから成るコミュニティとでも呼べるものが、生まれるかもしれないのだ。
タラ・フン(Tara Fung)氏は、NFTエコシステムのためのプロトコル、Co:Createの共同創業者である。
|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:From an Attention Economy to a Values-Driven Economy