伝統的企業において、報酬水準を決定する時は普通、従業員と管理職の間で話し合いがもたれる。一方の自律分散型組織(DAO)の中でも、報酬決定の輪は、かなり小さなものとなってしまうこともあり得る。
開かれた形でコミュニティに貢献する人(コントリビューター)たち全員が報酬を決定する方法があったとしたら、どうだろう?
Coorinape登場
DeFi大手ヤーン・ファイナンス(Yearn Finance)の助成金プログラムから生まれた、DAO向け報酬分配用プラットフォーム「コーディネイプ(Coordinape)」の旗艦プロダクトはギフト・サークル。
「分散型で遡及的に報酬を与える方法であり、重要なのは、報酬の決定が要だということ」と、コーディネイプの共同創設者Tracheopteryxは語った。
「労働の未来は、企業の世界でお馴染みとなっているトップダウンの硬直的な仕組みから自由になる必要がある」とTracheopteryxは語る。「人々が集まって思考するためのより良い方法を生み出す必要がある。コーディネイプはそこに取り組んでいるのだ。コーディネイプがとりわけ力を入れている分野の1つが、報酬だ」
まず、ユーザーはプロジェクトのギフト・サークルのメンバーを確定し、コントリビューターたち向けの報酬予算を伴ったグループを設定する。そしてコントリビューターたちは作業期間中に、サークル内でチームメイトに贈与する「GIVE」トークンの数を決定するのだ。
各GIVEトークンは、全報酬予算の中から受け取る報酬に占める割合と呼応する。例えば、あるコントリビューターが、サークル内のチームメートから全GIVEトークンの10%を受け取った場合、そのコントリビューターは、全報酬額の10%を受け取ることになる、といった具合だ。
コーディネイプの共同創設者ザック・アンダーソン(Zack Anderson)氏によれば、GIVEには金銭的報酬が結びついているため、評価を示すパワフルなツールとなる。GIVEトークンが、あるコントリビューターはプロジェクトにこれだけ貢献したのだから、これだけの報酬を受け取るべきだ、と示すサインになるのだ。
コントリビューターがGIVEを送る時には、誰が報酬を受け取るべきか、受け取るべきでないかをそれぞれが決定していると、コーディネイプの共同創設者Zemmは語った。コントリビューターの仕事は、プロジェクトに取り組むことに加えて、自分の経験から考えて、誰が報酬を受け取るべきかを決定することなのだ。
報酬に関する議論
コーディネイプのギフト・サークルの基盤になっているのは、実際に仕事に取り組むコントリビューターたちの方が、トップにいる単独の人間よりも報酬について良くわかっているはずだ、という考えだ。
贈答というやり方では、その頑張りが最も目に見えやすい人、自分の貢献について積極的に発言する人が報酬を受けてしまいがちになるが、ギフト・サークルでは、誰が何に値するのかについての議論が促される。これは「分配よりもずっと価値がある」と、アンダーソン氏は考えている。
ギフト・サークルにおいて、コントリビューターたちがGIVEをどのように分配するか戦略を立てる際に、「何に価値があるのか?」、「私の期待に鑑みて、あなたの働きぶりはどうなのか?」といった疑問が当然浮かんでくる。
コーディネイプでは、報酬を中心とした議論が活発に展開されるようにに、よりはっきりとした道筋を作り上げようとしているのだ。そのような議論をすることで、コントリビューターは自分と、そして仲間と、意義ある貢献とはどんなものなのか、誰かの働きは「確かなアウトプットなのか、前進を伴わないただの感情」なのかについて話し合うことができると、アンダーソン氏は語る。
「自分たちの発言に重要性を持たせ、自分たちが重点的に取り組みたいと言っていることに実際に重点が置かれるようにするにはどうしたら良いのか?」とアンダーソン氏は問いかける。
コーディネイプによればその答えが、ギフト・サークルなのだ。「誰がどれだけの資金を受け取るべきかの意思決定を、隅々にまで押し広げる」ものだと、暗号資産関連の情報提供を手がけるバンクレス・ネーション(Bankless Nation)の共同創設者デビッド・ホフマン(David Hoffman)氏は説明した。
コーディネイプは現在、バンクレス、PoolTogether、DAOhausなど、約300のDAOに使われている。バンクレスDAOはコーディネイプを使って、シーズン毎の予算全体の15%に当たる450万のBANKトークンをコントリビューター向け報酬として分配している。
サークルマップ
コントリビューターが仲間にGIVEを送ると、メンバー間のすべてのやりとりを表示するインタラクティブマップが生成される。
サークルマップのそれぞれの線は、2人のコントリビューター間のGIVEトークンのやり取りを示す。報酬分配を可視化するこのマップを使えば、サークルのメンバーなら誰でも、仲間がどのようにGIVEを分配したのか、それぞれがどれくらいのGIVEを受け取ったのかを確認できる。
サークルマップは、コミュニティにとって、そしてお互いにとっての価値がどこで生まれているとサークルのメンバーが考えているのかを示すという点で、究極的には透明性を促すのだ。
その結果として、コントリビューターたちは仲間にとって極めてエキサイティングな方向へ向かっている時、そうではない時を理解するのがより簡単になる。
コーディネイプの哲学
多くのプロジェクト、チーム、企業、そしてDAOが、トップダウン方式で報酬を決定し、リーダーとスタッフの間に、敵対関係が生まれている。
社会で働く大量の人たちを、トップの少数の人間がコントロールするというのは、構造的にも認知的にも限られたやり方である。意思決定の権力が少数の人間に限定されても、彼らにできることは限られているからだと、Tracheopteryxは語った。
現在の世界で支配的となっているこのような企業的やり方は、集団的知性を損ない、とりわけ報酬に関して、効果的な人間間の協調を妨げると、Tracheopteryxは考えているのだ。
最高に慈悲深く寛容なリーダーがトップにいて意思決定を行ったとしても、その報酬決定の力はたかが知れている。「適切な」報酬を決定するには、一個人や少数の人間の範囲を超えた多くの要素を検討する必要があるからだ。
「適切な」報酬のためには、仲間の収入と比較して正当な額を支払われたいというコミュニティ内で見られる感情を理解するだけでなく、心理的な安心を感じたいという気持ちを理解することも必要だ。
「適切な報酬には、単に数字だけでない多くの事柄が絡んでくるのだ」と、Tracheopteryxは説明した。
コーディネイプにとって大切なのは、「誰が何を受け取るのかを決める力を持つのは誰か?」という点だ。現在、このような力を持つのはほんのわずかな人たちだけなので、コーディネイプではその数を増やそうとしている。
報酬にまつわる意思決定が、より公平な方法で行われたとしたら、「文化として私たちが抱える問題の大きな部分を解決できる」と、Tracheopteryxは考えているのだ。
CoVaults
コーディネイプのツールの範囲は現在、サークル内のコントリビューターの報酬を決定するところまでだ。実際の報酬提供は、オフチェーンで発生する。
具体的に言うと、期間終了後にその結果をコーディネイプがCSV形式のファイルに変換する。これには、サークル内の各コントリビューターが受け取ったGIVEトークンの割合がリスト形式で表示されている。ユーザーはCSVを書き出して、オフチェーンで報酬の支払いを実行できるのだ。
しかし、コーディネイプでは年内に、CoVaultsという初のスマートコントラクトプロダクトをローンチする予定だ。Zemmによれば、これは「ここ1年間開発してきた、人々が金庫に資産を預け入れ、その資産がサークル内でどのように分配されるかを管理することができるカスタムメイドのエスクロー(第三者預託)コントラクト」である。
ERC-20トークンを金庫にエスクローして、オンチェーンでの分配を自動で実行したい場合、オーナーが作成、管理するファクトリ型(スマートコントラクトをテンプレートから生成できる)コントラクト「CoVaults」を使って、それが可能になるのだ。
オンチェーンで分配するおかげで、コントリビューターはプロジェクトの報酬向けのリソースが金庫に置かれていることを知り、その資金が期間終了後にシームレスに分配されると信頼することができる。さらに、ヤーン・ファイナンスとの統合を通じて、CoVaultsのユーザーには、預け入れた資産で利回りを獲得するオプションもある。
シンプルさを強調するアンダーソン氏は、「CoVaultsによって、預け入れを行い、サークルを立ち上げ、期間を設定し、シームレスに資産を分配するという作業を、すべて一か所で完結できるという、はるかに完成されたユーザーエクスペリエンスを享受できる」と語った。
TracheopteryxによればCoVaultsは、完全に自律的な労働を可能にするインフラ構築に向けた大切な構成要素になる。
困難に直面して
「現在私たちは、地球の歴史において極めて大切な時を迎えている」と、アンダーソン氏は語る。「グローバル規模で協調が必要な、本当に困難な問題を多く抱えているのだ」と。
コーディネイプによれば、DAOはまだまだぎこちなさの残る不器用な幼児期にあるが、問題解決に役立つソリューションの1つになれるかも知れない。DAOが成功するためには多くのことが必要だが、その1つは、貢献度に応じて人々が公正に見返りを得ることだ。
自然で自由に流れる報酬システムを作ろうと模索するコーディネイプは、人間が協調するための新しい方法を生み出そうとしている。TracheopteryxはSF作家ウィリアム・ギブスンの言葉を引用して、「未来はすでにここにある。ただ均等に行き渡っていないだけ」と語った。
|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:Coordinape Is Decentralizing Compensation Decision-Making