大手暗号資産(仮想通貨)ヘッジファンドのスリー・アローズ・キャピタル(Three Arrows Capital)が破産申請を行なったのは、10日ほど前のこと。そして今や、暗号資産レンディングを手がけるセルシウス(Clesius)とボイジャー・デジタル(Voyager Digital)も、再建計画をまとめる状態となっている。
これは、追い詰められた状況にある会社のすることだ。ボイジャーに至っては、米連邦破産法11条、いわゆる「チャプター11」を申請した。ちなみにこれは、「マシな方の破産」だ。
暗号資産が伝統的金融の世界における失敗を、超高速で繰り返すのに躍起になっていることが、証明された形だ。さらに、暗号資産金融サービスを手がけるBlockchain.comも、スリー・アローズへの貸付から、2億7000万ドルの損失を出そうとしている。
他にも暗号資産にとって、あまり良くないことがいくつか起こっているが、すべては大丈夫になるだろう。その理由を説明していきたい。
経済の雲行きが怪しい
米国債のイールドカーブ(利回り曲線)が先週、逆転した。イールドカーブの逆転はしばしば、景気後退を警告するサインとして扱われる。つまり表面的には、あまり良くないのだ。
しかし、具体的には、何を意味するのだろう?
簡単に言うと、米連邦政府は、政府支出をまかなうために投資家に国債を販売する。その国債は、一定の期間、投資家に利子をもたらし、その一定期間が終わると、元の額が投資家に返却される。国債がローンのように聞こえたならば、それは実際そうだからだ。
国債から投資家が見込む利回りは、ローンの期間が長いほど多くなる。それは当然だ。自分のお金がより長期間ロックアップされるのだから、そのリスクに対して、より高い利回りがもらえる、ということだ。x軸を償還までの期間、縦軸を利回りとすると、普通は対数的に増えていくカーブが出来上がる。
しかし、このイールドカーブが、今回のように逆転することがある。つまり現在、10年国債の利回りが、2年国債の利回りより低くなっているのだ。理論的に、これは投資家がより長期の金利が下がるのを見込んでいることを意味する。
現実的には、(一般的には10年国債の利回りである)「リスクフリー金利」を上回った金利での貸付によって利益を上げる銀行が、貸付を渋ることを意味する。これが、経済活動の停滞につながるのだ。
債券ベースの通貨システムの仕組みとは、こういうものなのだ。
さらに、7月の0.75%の利上げは現時点では、すでに決定事項と言ってしまって良いだろう。米連邦公開市場委員会(FOMC)の6月の議事録によれば、委員のほぼ全員が、0.75%の利上げに賛成。会議後の会見でパウエル議長は、0.75%は「異例に大きな上げ幅」と言っていた。
2カ月連続となれば、もうかなり当たり前になってしまっている感じもするが、それは私の感じ方に過ぎない。7月27日のFOMCに大きな注目が集まっている。
苦戦するマイナー
価格低迷を受けて苦戦を強いられるマイニング企業がまもなく、運営費捻出のためにバランスシート上に保有するビットコイン(BTC)を売却して、降参の姿勢を示すかも知れないとの見方が、広がっていた。
そして実際、コア・サイエンティフィック(Core Scientific)は6月、7000以上のBTCを売却。コア・サイエンティフィックは2022年を通して業績が芳しくなかったため、手持ちの資産に手をつけなければならなかったのも、驚きではない。
マイナーは最後の砦と考えられているため、マイナーの降伏は「破滅へ向けたデススパイラル」の始まりと考えられているが、実際にはそうなっていない。
コア・サイエンティフィックのCEOマイク・レビット(Mike Levitt)氏は、同社は計画を実行することに重点を置いており、ビットコイン売却は、健全なバランスシート維持のために過ぎなかったと語り、投資家を安心させようとした。
収支報告は8月に予定されているため、コア・サイエンティフィックはそもそも、資産を売却したことすら公表する必要はなかったのだ。私たちは、その透明性を称賛するべきだろう。
暗号資産貸付業者は低調
最後に、レバレッジは皆に打撃を与え続けている。テラの崩壊が、スリー・アローズ・キャピタルの破産につながり、そして今私たちは、暗号資産貸付業者の危機を目の当たりにしている。
ブロックファイ(BlockFi)は、暗号資産取引所FTXから、2億1500万ドルのアーンアウトという形で、計画的な救済を受けた。セルシウスは事業を一時停止し、再建計画を発表。ボイジャーは、破産申請という形を選択した。
アーンアウト:一括ではなく、一定の条件を満たすことなどを条件に分割で買収対価を支払うM&Aの形態。
さらに8日には、Blockchain.comがスリー・アローズ・キャピタルへの貸付から、2億7000万ドルの損失を出す可能性があることが発覚。厳しい状況が続いている。
これらの貸付業者すべてにおいて、事態はまだ展開している最中だ。一般的に言って、すべて「好ましくない」状況ではあるが、最悪の事態は過ぎ去ったと言って良いだろう。
FTXと超利他的CEOのサム・バンクマン-フリード氏の名前が、スリー・アローズ破産の余波を受けて苦しむ企業にまつわるあらゆる話題に登場しており、暗号資産の救世主となっているようだ。
注目ポイント
一般的に言うと、イールドカーブの逆転も、利上げも、マイナーによるビットコイン売却も、複数の暗号資産貸付業者の破綻もすべて、好ましいものではない。
この先最も注目なのは、このような厳しい局面で、ビットコインや暗号資産に何が起こるのかという点だ。暗号資産の世界が厳しいだけではなく、マクロ市場も、景気後退のサインを見せている。
ビットコインは景気後退から生まれたが、実際にそれを経験したことはない。これは控えめに言っても、面白い展開になるはずだ。ありがたいことに(もしくは不幸なことに)、伝統的金融の世界でかつて働いていた私が慣れ親しんでいるよりも、事態はスピーディーに展開している。
すべての根底にある困難なマクロ経済状況の中で、ビットコインがどのような動きをするのか、目が離せない状況だ。
そんな中、先週のビットコイン価格はこれだった。
大丈夫になるということだろうか?乞うご期待だ。
|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:Crypto Is Trying Out Traditional Finance’s Failures in Hyperspeed, but It’s Going to Be Fine