リスク多数も底堅いビットコイン──グズつく展開いつまで?【bitbankレポート】

500万円から400万円周辺まで一段安となっていたビットコイン(BTC)対円相場は、6月に入ると再び一段安を演じ、200万円台中盤まで下げ足を速めた。

トリガーとなったイベントとしては主に2つある。

①5月の米消費者物価指数が前月から上昇し、50ベーシスポイント(bp)利上げの効果が十分に発揮されなかったことでよりタイトな政策引き締めの織り込みが加速したこと。
②テラショックの影響で、stETHがイーサ(ETH)からディペッグした事によるCelsiusのインソルベンシーリスク浮上と、顧客資産出金停止を受けた市場の混乱だ。

ただ、不幸中の幸いにも、市場が6月の米連邦公開市場委員会(FOMC)での政策金利誘導目標75bp引き上げを急速に織り込んだこともあり、6月のFOMC会合では75bp利上げと、年末時点の政策金利の着地予想が1.9%から3.4%と大幅に引き上げられたにも関わらず、BTC相場には大きな打撃とはならなかった。

その後、市場はリセッションの可能性を織り込み始め、一時は利上げサイクル終了が前倒しになるとの見方から、米株やBTCは戻りを試したのも束の間、FRBがリセッションよりも物価上昇抑制に焦点を置いていることが徐々に明らかになったことや、米経済指標の下振れが続いたこともあり、再び上値を重くしている。

3AC(Three Arrows Capital)、BlockFi、Celsiusなど、暗号資産(仮想通貨)関連企業が窮地に陥るほか、マイニングを巡る需給バランスの改善も見られず、市況の好転はまだ先と言えよう。

マイナーから取引所へのBTC送金は、5〜6月で約7,500BTCと増加し、6月は10カ月移動平均を上回っており、相場に実需筋の売り圧力が掛かっていることを示唆している(第1図)。

マイナーの淘汰が進み採掘難易度が低下すれば、需給関係は改善されるが、それには相場の暴落が一番手っ取り早い。事実、マイナーの大量なカピチュレーションが起きると相場は大底をついて反発してきており、このままだと相場はグズつく展開が続きそうだ。

(図1:BTC対円、マイナーから取引所への月間BTC送金量/bitbank.cc、Glassnodeより作成)

ただ、下落トレンドが半年以上続き、足元では売り疲れの様子も伺える。含み益のあるBTCの割合を示すPercent Supply in Profit(PSP)は、売られ過ぎを示す50%割れ目前となっており、下げ余地を示唆する一方で相場の大底が近いことも示唆している。

流通するBTCの40%弱が塩漬けか消失していると仮定すれば、現物BTCの売り圧力はそれほど残っていないと推測できる(塩漬け勢は現在よりも下値で買っている可能性が高く、売る可能性も低い)。

(図2:BTC対円、Percent Supply in Profitチャート/bitbank.cc、Glassnodeより作成)

つまり、BTCはこの先、下値余地を残しつつ膠着相場となる可能性があるということだが、先月も指摘の通り、これから値が崩れればテクニカル的にもオンチェーン的にもアク抜けとなり、むしろ反転の切っ掛けとなろう。

もちろん、大局的なトレンドや確度の高い上昇トレンドを形成するには、利上げサイクルの出口が見えてきてからと思われるが、下落トレンドのこれ以上の長期化は避けられると見ている。

こうした状況で発表された6月の米消費者物価指数(CPI)は前年同月比で9.1%%と5月の8.6%から上昇した。エネルギーと食品を除いたコアCPI指数は5.9%と、5月の6.0%から低下したものの、市場予想の5.7%を上回る結果となった。

ただ、BTC相場は6月のCPIで大きく崩れることはなく、むしろ底堅く推移した。

背景としては2つの事象があげられる:

①6月の物価統計がショッキングな結果になることを幾分市場が織り込んでいたこと。
②物価上昇を牽引してきたエネルギー価格が、6月後半からのリセッション懸念台頭で急落していること。

つまり、市場は米国の物価上昇が今度こそピークアウトする可能性を視野に入れ出したと言える。

もっとも、現段階では依然としてその確証が掴めているわけではなく、引き続き米経済のリセッション入りや利上げ幅拡大と言ったリスクファクターを考慮する必要があり、BTCに関してはやはり身動きの取りづらい市況が続きそうだ。


長谷川友哉:ビットバンク(bitbank)マーケット・アナリスト──英大学院修了後、金融機関出身者からなるベンチャーでFinTech業界と仮想通貨市場のアナリストとして従事。2019年よりビットバンク株式会社にてマーケットアナリスト。国内主要金融メディアへのコメント提供、海外メディアへの寄稿実績多数。


|編集・構成:佐藤茂
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