テスラは今月に決算発表を行い、バランスシート上で保有していたビットコイン(BTC)の75%を売却したことを明らかにした。2021年1月に初の購入を発表したBTCから、テスラはわずかな利益を上げたようだ。
売却の影響は限定的
テスラが15億ドル相当のビットコインを初めて購入したという発表は、当時大ニュースとなり、発表後の1カ月でBTC価格が60%以上値上がりする原動力となった。
しかし、テスラが保有するBTCを売却したというニュースの方は、BTC価格、あるいは市場センチメントにそれに匹敵するようなマイナスの影響はもたらなかったようだ。むしろビットコインは、テスラが売却を発表して以降、前日比では少し値上がりしたほどだ。
その値上がりの原因を、テスラによるBTC売却の発表の仕方にあると見る人もいるかもしれない。先日の四半期決算発表の中でマスク氏は、売却は「ビットコインに対する評決と捉えられるべきではない」と強調し、経済低迷の可能性に備えて米ドルを確保するのが主な目的だったと伝えた。
しかし、ジャーナリストとして認めにくくはあるが、大半の人々は、見出ししか読まない。そしてその見出しは「テスラがビットコインを売却」なのだ。その見出しを市場が軽くあしらったことは、BTC、マスク氏、テスラについて何を意味するのだろうか?
テスラのビットコイン購入の発表は明らかに、盛り上がりの高まりの最中になされたもので、多数の新規暗号資産投機家たちが、有名テックビリオネアの動きに簡単に流される可能性があった頃だ。
大規模な暗号資産クレジットバブルの崩壊と、ビットコイン価格の約60%の値下がりを経て、現在残った保有者たちはおそらく、ビットコインのファンダメンタルズに強いコミットメントを持った人たちで、1人のリッチな男の選択をそれほど気にかけないだろう。
さらに、今年の長期的な値下がりにも関わらず、ビットコインをはじめとする暗号資産全般は、18カ月前とはまったく違う状況にあるのだ。2年における暗号資産の盛り上がりによって、過剰なほどの詐欺やガラクタのようなプロジェクトも生まれたが、劇的な進展、認識と普及の驚くほどの進歩も生まれた。
例えば、エルサルバドルは国家財政の問題は抱えているが、それでも重要なビットコインの法廷国家採用という実験を進めている。保証はないが、市場はいまや、少なくとも一時的な底値を見つけたようであり、テスラによる売却の発表は、生まれつつある強気のナラティブと戦っている。
影響力の低下
しかし、もう1つの大きな要素は、ビットコイン購入から18カ月経つ中で変化したマスク氏とテスラへの世論である。それは主に、悪い方への変化であった。
マスク氏は長年、衝動的であることを指摘され、少なくとも2018年には自滅的な性格は明らとなっていた。その年にマスク氏は、タイの洞窟から少年を救助したダイバーを「児童強姦魔」と呼び、テスラを「一株420ドル」で非公開企業にするというツイートをめぐって、米証券取引委員会(SEC)から多額の罰金を課された。
2018年には、マスク氏はまだ、シリコンバレーのヒーローから世界的な有力人物へと進化を遂げている途中だった。テスラの株価は2020年に爆発的に高騰し、2021年1月には、少なくとも書類の上では、世界で最もリッチな人物となっていったのだ。
それはつまり、ここ18カ月のマスク氏の不手際は、2018年の一連の失態よりもより幅広く見つめられていたということ。周知の失態は数多くあったが、その中でもとりわけ、スペースXの社員へのセクハラ疑惑、まったく異なる企業の従業員との間に秘密裏に子供をもうけていたことなどが際立っている。
暗号資産に関して言えば、マスク氏は何年もドージコイン(DOGE)についてツイートしてきた。はじめから荒らし行為のようなものだったのかもしれないが、DOGEが今年、予想通り暴落した時には、2億8500万ドルのマスク氏を相手取った訴訟にまで発展した。
さらに加えて、ツイッターを買収しようとする奇妙に準備不足な計画と、痛ましいほどに薄っぺらな言い訳での計画撤回の試みもあった。
同時に、マスク氏の事業に実際に注意を傾けている人なら、「完全自動運転」車の実現を失敗し続けていること、大手自動車メーカー各社が大いに電気自動車業界に参入しているにも関わらず、大いに盛り上がった電動ピックアップトラック「サイバートラック」の発売が遅れていることに気づいているかもしれない。テスラ株は、市場の大半と同様に、2020年の値上がりの大部分を失ってしまったのだ。
全体としてみれば、マスク氏は今でも、テスラの株主や「グリーンテック」のファンの間では威光を維持できるかもしれない。しかし、そのほかの多くの人にとっては、資本主義の過剰さの滑稽な化身でしかなく、彼をリッチにした社会に対して責任を負わず、自らが庶民に与える被害に無関心な人物と思われている。
とりわけ暗号資産の専門家にとっては、マスク氏のバカらしく破壊的なドージコインの宣伝は、彼がビットコインを理解しないか、あまり気にしていないということをはっきりとさせた。
自由になる現金を手に入れるという建前とは関係なく、テスラによるビットコイン売却は、一部の人たちがすでに昔から知っていたことを裏付けるだけだ。マスク氏は、暗号資産について助言を求めるべき人ではない。単に特別声が大きく衝動的で、信頼できないファンに過ぎないのだ。
|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:mundissima / Shutterstock.com
|原文:Does Crypto Still Care About Elon Musk?