私は長年、影響を受けやすい若者がスポーツ観戦中に、テレビ局が「罪深い」商品の広告を許容することを批判してきた。
スポーツと広告
私が覚えている限り、アメフトのタッチダウン、野球のホームラン、その他の偉業は、ビールの広告と結びついてきた。数年前から、アルコール飲料業界はさらに積極的になり、強いお酒の広告も始めた。
オンライン賭博の合法化に伴い、スポーツ観戦はいまや、賭博の元締めの年次総会を見ているようなものになっている。
そして、暗号資産(仮想通貨)だ。ここ数年で、デジタル資産企業は、数多くの有名人と広告契約を結んできた。悪名高きテラを含めた数々のブロックチェーンプロトコルが、アメリカのスタジアムやアリーナで広告をしてきた。政府はこのような目に余る問題行為に待ったをかけるべきだ。むしろ、もっと前に禁止するべきだったのだ。
テレビのスポーツ中継中に広告が許可されていない「罪深き」製品の1つがタバコだ。しかしそれは、テレビ局、スポーツマーケティング責任者、チーム、リーグが、「オールド・ゴールド」というタバコにちなんで、ホームランを「オールド・ゴールディ」という名で呼び続けることを拒んだからではない。政府がテレビでのタバコの広告を禁止したからだ。
私がアンチスポーツ的だと感じる人もいるかもしれない。それは的外れだ。私は、いくつかのメディアの倒産によってPRの世界に転身するまで、長年新聞社や通信社でスポーツライター・エディターを務めてきたのだから。
アメリカのPR会社で10年間務めた後、私は国際的な大手PR会社バーソン・マーステラ(Burson-Marsteller)に採用された。私の仕事は、マサチューセッツ州フォックスボロにあるジレット・スタジアムのファン投票プログラムの改革や、オリンピック、企業顧客相手の様々なスポーツマーケティングプロジェクトなどであった。ソウル五輪組織委員会の米スポークスマンに任命され、1988年の夏のオリンピックでは、問題解決者として働いた。
バーソン・マーステラに在職中、私は頻繁に、スポーツマーケティングに起用するアスリートの選定にあたった。私はアンチスポーツでも、アンチアスリートでもない。どんなエンターテイナーもスポーツスターも、できるだけのお金を稼ぐべきだと私は考えている。しかし、そこには問題もある。
広告に出ている姿を思い出せない有名アスリートを見つけるのはほぼ困難だ。あまりに多くの製品の広告をしているアスリートもいて、どのアスリートがどの製品の宣伝をしているのかを覚えるのに、早見表が必要なくらいだ。
そしてここにきて、アスリートはますます、リスクの高い暗号資産プロジェクトやプロダクトを宣伝するようになっている。有力アスリートが集めることのできる信頼や羨望の感情を考慮すれば、これは無責任な在り方だ。他の人たちがお金を失うのに手を貸したいほどに、お金というのは良いものだろうか?
アスリートによる宣伝の危険性
有名アスリートによる広告は、消費者に真剣に捉えられるべきではないが、政府や規制当局は、アスリートによる暗号資産の宣伝を禁止するべきである。
1月にヤフー・ファイナンスが発表した記事は、「暗号資産の人気はここ数年爆発的に増え、有名人が宣伝に一役買っている。しかし、暗号資産分野での犯罪行為が急増するに伴って、インフルエンサーの宣伝が、犠牲の大きいデジタル資産詐欺に投資家たちを誘い込んでしまう可能性も高まっている」と報じた。
金融関連メディア、マーケット・リアリスト(Market Realist)は5月、「暗号資産取引所は、スポーツ業界で自らのプロダクトを宣伝する方法を見つけ、それを最大限に活用している。暗号資産取引所は、スポーツチームやプレイヤーに何十億ドルも投資している」と伝えた。
チームやリーグ、アスリートが暗号資産を宣伝することは禁止するべきだと私が考えるのは、それがおおむね規制を受けていない投資アドバイスに当たるからである。
政府に規制を受けて金融アドバイスを与えるプロの投資アドバイザーが存在しており、連邦取引委員会(FTC)やその他の政府機関は、ホームランを打ったり、タッチダウンのパスを投げられるからというだけで、アスリートに公共の電波で金融アドバイスを与えることを許すべきではない。
リーグやチームも恥知らずだと、私は感じている。スポーツ観戦中に子供や、影響を受けやすい大人が見る広告としては、ビールやお酒、ギャンブルの広告よりも暗号資産の広告の方が悪影響だとも考えている。
暗号資産投資というギャンブルで、一家が破産することもあるだろう。他の金融資産と同じように、連邦政府、州政府レベルで規制されるまでは、その大半が詐欺となり得るのである。
実際、イエレン米財務長官は、暗号資産の蔓延を監視し、詐欺的な取引や違法な取引を撃退するためには、さらなる政府による規制が必要だと語っている。
有名アスリートが、しっかりと理解した上で公に暗号資産を宣伝していると考えているなら、ブルックリン橋を販売すると言って人々を騙した詐欺師ジョージ・パーカーを信じてしまっているようなものだ。
アーサー・ソロモン(Arthur Solomon)氏は、大手PR会社バーソン・マーステラ(Burson-Marsteller)の元シニアVP・シニアカウンセラー。ソウル五輪組織委員会のスポークスマンも務めていた。
|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:Regulators Should Ban Crypto Advertising in Sports