米総合格闘技ヘビー級チャンピオンのフランシス・ガヌー(Francis Ngannou)氏は昨年、リング上よりもNFT(ノン・ファンジブル・トークン=非代替性トークン)から多くのお金を稼いだ。
UFCは、大いに期待された再試合の第2ラウンドで元ヘビー級チャンピオンのスタイプ・ミオシック(Stipe Miocic)氏をノックアウトしたことに対して、58万ドルをガヌー氏に支払ったと報じられている。
2人が戦ったのは、2021年3月27日。その勝利の直後、ガヌー氏はNFTサイト、メイカープレイス(MakerPlace)上で初のNFTコレクションを販売し、売上金は58万1000ドルを超えた。
総合格闘技はアメリカで最も急速に成長しているスポーツで、世界でも最も急速に成長しているスポーツの1つだ。賞金を賭けた戦いは何千年も前から存在してきたが、今のような形の総合格闘技は、1993年11月のUFCにさかのぼる。
異なる格闘技界の8人が戦わされて、どの格闘技が1番かを競ったのだ。その時のルールはわずか3つ。目つぶし、噛みつき、急所への攻撃の禁止だ。
総合格闘技はそれ以来、しっかりと規制された数十億ドル規模の業界へと進化した。世界クラスのアスリートやオリンピック経験者たちが、様々な格闘技のテクニックを使ってお互いに競い合うのだ。進化する中でも1つ変わっていないことがあるとすれば、それは激しさと凶暴さだ。
身長193cm、体重120kgの筋肉だらけの巨体を誇るガヌー氏は、そのようなどう猛さのために作られたような体つきだ。ガヌー氏はスピード、力、正確さにもとづいてパンチのパワーを計測する装置PowerKubeで、驚きの12万9161という過去最高記録を叩き出している。
UFCの代表ダナ・ホワイト(Dana White)氏は、「できる限り速度を出したフォード社製のエスコートにぶつかられるのと同じ力だ」と説明した。
総合格闘技チャンピオンまでの道のり
ガヌー氏の初めての仕事は、カメルーンの小さな村での砂の採掘だった。その時彼はわずか10歳。彼の祖母は、ガヌー氏を面倒を見る余裕がなかったため、他に選択肢はなかった。10代後半まで、砂の採掘場で働いた。そしてある日、友達がマイク・タイソンの試合の動画をユーチューブで見せてくれたのだ。
その動画を見たガヌー氏は、ひらめきを受けて、ボクシングが運命だと決意した。ボクシングのトレーニングを始め、フランスでプロのボクサーとしてのキャリアを追うことにしたのだ。
ヨーロッパに行くために、ガヌー氏はサハラ砂漠を越えなければならなかった。パリの街角でホームレスに陥るところまで行ったが、その後に偶然、総合格闘技のジムを見つけた。ジムのオーナーは、ボクシングの代わりに総合格闘技を試すようガヌー氏を説得し、後はご存知の通りだ。
ガヌー氏のチームは、カメルーンの砂の採掘場からUFCまでの軌跡を、NFTの形で記録したいと考えた。何百万人ものファンが、2021年3月27日の試合を見ることはわかっていた。そこでNFTアーティストBossLogicに白羽の矢を立て、「March to the Throne(栄冠への行進)」と名づけたアートコレクションの作成を依頼した。
このコレクションは、独占版と限定版の2つの作品から構成されている。独占版の方には、サイン済みのUFCグローブと、ガヌー氏が子供の時に働いていた採掘場の砂がついてくる。
ガヌー氏のチームは、ガヌー氏がタイトル戦に勝った場合にだけNFTコレクションを販売することで、ファンにとってコレクションをより魅力的なものにすることを決断。そして彼は、圧倒的な勝利を収めたのだ。
その重要な勝利から、ガヌー氏は先駆者の道を駆け抜けた。初のカメルーン人UFCチャンピオン、独自NFTを発行する初のUFCファイター。ガヌー氏のマネージャーで、自身も暗号資産に熱心なマルケル・マーティン(Marquel Martin)氏が、2021年にガヌー氏にNFTを紹介した。
「とにかく私を信じるように伝えた」と、マーティン氏は語り、ガヌー氏はその時から乗り気だったと続けた。
ガヌー氏は今年、これまでで最も激しいノックアウトを描写したNFTを掲げた自身の写真を投稿。そのNFTは、NFCとNFTスタートアップ、ダッパー・ラボ(Dapper Labs)のコラボコレクション「UFC Strike」の一部だ。
このコレクションでは、最も印象的なノックアウトの歴史を持つファイターたちが取り上げられ、NFT売上の50%がファイターに支払われる。恐るべきノックアウトの魔術師ガヌー氏はすでに、このコレクションに2つの作品が含まれている。コレクション全体は、発売日に売り切れとなった。
暗号資産と総合格闘技:最高のコンビ?
ダッパー・ラボとUFCのパートナーシップは、暗号資産と総合格闘技のコラボレーションに向けたより大きなトレンドの一部である。UFCイベントのスポンサーとなった初の暗号資産組織は、ライトコイン財団(Litecoin Foundation)。2018年12月、リンクにライトコインのロゴを掲載する見返りに、広告料を支払ったのだ。
それ以来、他にもいくつかのスポンサーシップが展開されている。しかし、総合格闘技の世界で最も大きな暗号資産業界からのスポンサーシップは、UFCと人気暗号資産取引所Crypto.com間の、10年間1億7500万ドルの契約だ。この契約は昨年7月に発表され、ファイターのアパレルやコンテンツにわたって、Crypto.comが独占的なブランディング権を獲得した。
総合格闘技は、世界で最もタフなスポーツだ。信じられないほどのレジリエンスが必要とされる。だからこそガヌー氏の暗号資産への情熱は、現在の弱気相場にも関わらず、確固として揺るがないのかもしれない。
ガヌー氏はCoinDeskとのインタビューの中で、「まだ(NFTについて)学んでいるところだ。長年あたためてきた大きな計画もあり、ワクワクしている」と語った。
ガヌー氏の暗号資産関連の知識は、NFTだけに留まらない。ビットコイン(BTC)とイーサ(ETH)での支払いを受け付けているし、ビットコインについての考えは、驚くほど哲学的だ。
「今は値下がりしているが、ビットコインがベストだと思う。デジタルゴールドのようなものだ。アフリカの一部の国家(の現地法定通貨)よりも、優れたオプションだと思う」と、ガヌー氏は語った。
|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Cassiano Correia / Shutterstock.com
|原文:How a UFC Heavyweight Champion Became a Crypto Trailblazer