パリで先日開催されたイーサリアム・コミュニティ・カンファレンスにおいて、イーサリアムの共同創業者ヴィタリック・ブテリン氏は、大型アップグレード「 Merge(マージ)」後のイーサリアムに期待することを語った。そしてブテリン氏はカンファレンスの最後には、マージが完了しても、イーサリアムは約55%しか完了しないと明かした。
マージとは、現行のプルーフ・オブ・ワーク(PoW)のイーサリアムメインネットプロコトルが、プルーフ・オブ・ステーク(PoS)ブロックチェーンシステムのビーコンチェーン(Beacon Chain)と融合し、PoSとして続いていくことを意味する。
マージ後の世界で、イーサリアムはどうなるのだろうか?多くの人たちはマージを、イーサリアムネットワークの最後の締めくくりと考えてきた。しかしブテリン氏によれば、イーサリアムは今後、「the Surge、the Verge、the Purge、the Splurge」に取り組んでいくことになる。
イーサリアムのメインネットのローンチ記念日は7月30日。マージ後のイーサリアムについて考えるのにはぴったりの時だろう。
.@VitalikButerin claims that #Ethereum will be able to to process "100,000 transactions per second", following the completion of 5 key phases:
— Miles Deutscher (@milesdeutscher) July 22, 2022
• The Merge
• The Surge
• The Verge
• The Purge
• The Splurge
A quick breakdown of what each stage means for $ETH. 👇 pic.twitter.com/FnaWww8mHZ
「Surge」を通じたスケーリング
「Surge」とは、レイヤー2や、シャーディングやロールアップなどを可能にすることで、ネットワークをよりスケーラブルにするシステムを導入することを意味する。イーサリアムネットワーク上で、ユーザーが一段と簡単に動けるようになるのだ。
シャーディング
Surgeの段階においては、シャーディングの導入が見込まれている。シャーディングとは、イーサリアムのネットワーク全体を「シャード」と呼ばれる小さな部分に分割すること。ネットワークのスケーラビリティを高めることが狙いである。
つまり、同じブロックチェーン内のデータを分割し、事実上複数のミニブロックチェーンを作るのだ。プロトコルがPoSに移行すれば、はるかに簡単に実現可能となる。イーサリアムはPoS移行後に、64の接続されたデータベースからなる、シャーディングされたシステムの構築を目指すことになる。
シャーディングとは、コンピューターサイエンスにおけるコンセプトで、より多くのデータに対応できるようにアプリケーションをスケーリングするものだ。シャーディングをイーサリアムで導入できれば、各ユーザーは変更の全体ではなく一部を、データベースに保管することができるようになる。
マージ後の世界についての議論においては、ダンクシャーディングも関心を集めている。ブテリン氏はパリのカンファレンス会場で具体的にこのコンセプトに言及することはなかったが、イーサリアム支持者たちは、イーサリアムをよりスケーラブルなものにするための方法として、このプロトタイプに期待している。
ダンクシャーディングは、ネットワークをシャードに分割するという部分は同じだが、取引増加のためにシャードを使う代わりに、データのグループのスペースを拡大するために、シャードを活用する。これによってイーサリアムは、より多くのデータを処理することが可能になる。
パリからの報道によって、イーサリアムがシャーディングを検討していることに注目が集まったが、シャーディングはイーサリアムが2013年に登場して以来、ずっと検討されてきたアイディアだ。導入の見込みは2023年である。
ロールアップ
イーサリアム開発者たちはまた、ロールアップの導入によってもスケーリングの力を高めようと考えている。
ロールアップはイーサリアムのベースレイヤー(レイヤー1)の外で取引を実行し、取引データをレイヤー1ブロックチェーンへと記録することで、イーサリアムのメインチェーンのセキュリティ上の強みを活用できる。
多くの人が、ロールアップはまだまだ先のことと述べてきたが、zkSyncやポリゴンのzkEVMなど、より新しいプロジェクトのスタートが、イーサリアムの次なる段階となるロールアップが、思っていたよりも間近に迫っていることを示唆している。
現在、ロールアップには2つのタイプが存在する。1つは、規定期間にわたって取引が有効であると想定し、レイヤー2ネットワーク上で実行してから、レイヤー1へと取引を引き渡すオプティミスティック(Optimistic)ロールアップ。もう1つは、取引をオフチェーンで実行し、検証の証明をレイヤー1ネットワークに提出するゼロ知識証明ロールアップ(ZKロールアップ)だ。
全体としては、ZKロールアップの方が、取引の承認・却下のための時間枠を設定する代わりに、取引が有効であるという証明を提供しなければいけないため、演算という面では、オプティミスティックロールアップよりも強みを持っている。
しばらくの間は、オプティミスティックロールアップがイーサリアムスケーリングのための理想的なソリューションのように思われていたが、ZKロールアップが登場しようとしていること、シャーディングが2023年に始まることに伴い、イーサリアムをよりスケーラブルにするための余地はまだまだ多く存在する。
Verge
次なる段階では、こちらもスケーラビリティの問題に取り組む「Verkleツリー」が導入される。ブテリン氏によれば、Verkleツリーは、「はるかに小さな証明サイズを可能にするマークル証明の強力なアップグレード」である。
いわゆる「Verge」では、保管を最適化し、ノードサイズを縮小する。究極的にこれによって、イーサリアムが一段とスケーラブルになるのだ。
マークルツリーとは、情報のブロックを長いコードの鎖へと変換することで、信頼できる暗号化を生むことを狙う。最新の情報ブロック(葉)が、グループにまとめられて、枝を構成する。それが今度は、マークルルートと呼ばれる、過去のすべての情報を含む一連の数をトレースする。この方法は最初、ビットコインブロックチェーン上で試され、その後イーサリアムでも検討されてきた。
つまりVerkleツリーによって、データの一部の短い証明を示すことで、大量のデータを保管することが可能になる。その証明は今度は、ツリーのルートだけを持つ誰かによって検証されるのだ。このプロセスによって、証明ははるかに効率的なものとなる。
Verkleツリーはいまだに新しいアイディアで、他の暗号化ソリューションほど幅広く知られても、使われてもいない。「 Surge」はシャーディングとロールアップに取り組む一方で、「Verge」の方は、ネットワークがスケーラビリティと証明にどう取り組むかに関わるものなのだ。
Purge + Splurge
「Purge」は、スペアの過去データを縮小することを目指す。過去のデータの量を減らすことで、新しいPoSコンセンサスメカニズムのもとで、バリデーターにとってブロックチェーン検証のプロセスがより効率的なものとなる。
これによって、ネットワークの混雑が最小限に抑えられ、ブロックチェーン上ではるかに多くの取引が処理できるようになる。ブテリン氏によれば、この段階が終わる頃には、イーサリアムは1秒に10万件の取引を処理できるようになるはずだ。
これらすべての段階が完了すると、ブテリン氏が「楽しいもの」と形容する「Splurge」の出番だ。ネットワークがスムーズに運用されるようにし、それまでのプロトコルアップデートが問題を引き起こさないようにすることを目指すのが「Splurge」である。イーサリアムを一段をスケーラブルなものにするという困難な作業が、これで完了することになる。
この究極のステージは、まだ遠い先のこと。あらゆるテクノロジーの進展と同じように、そこまでの道のりには、問題も当然見込まれる。マージ完了までに、当初の見込みよりもはるかに長く時間がかかっていることを考えれば、「Splurge」がついに実現した暁には、お祝いの時となるだろう。
|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:Ethereum After the Merge: What Comes Next?