米インフレ減速でもビットコインはブレイクアウト失敗【bitbankレポート】

7月のビットコイン(BTC)対円は、200万円台後半での揉み合いの末、水準をわずかに上げ300万円を回復した。

相場上昇の背景には、以下の3点があげられる。

①セントルイス連銀ブラード総裁と、米連邦準備制度理事会(FRB)ウォーラー理事が、6月の消費者物価指数(CPI)が記録的な水準に上昇したにも関わらず、7月の米連邦公開市場委員会(FOMC)での利上げ幅引き上げ(75bp→100bp)を否定したこと。
②ミシガン大学消費者マインド調査で長期インフレ期待が3%台を割り込み2.8%となったこと。
③9月からのFRBの利上げペースが減速する可能性が見えてきたこと。

8月に入っても相場は300万円台を概ね維持しており、高値揉み合いを演じている。ただ、7月のCPIは市場予想を上回る減速となったものの、FOMCメンバーから胸を撫で下ろすような発言はなく、むしろインフレ沈静化の確証はまだないと言うスタンスが目立つ。

相場もCPI発表を機に上値を試したが、330万円周辺の抵抗帯でまたも反落した。

7月には利上げサイクルの折り返し地点が着々と見えてきた印象だったが、この先も9月のFOMCまでインフレ統計やFRBメンバーの発言に注視し、利上げ幅のヒントを探る状況が続くと指摘され、ある意味で振り出しに戻されたムードとも言える。

早速、8月19日未明には一つ目のハードルが待ち構えている。7月FOMCの議事要旨だ。7月のCPI及び卸売物価指数(PPI)の減速を受けても積極的な政策引き締めに依然として意欲的な姿勢を示しているだけに、7月の会合ではハト派的な議論があったことはあまり期待できない。

あくまで継続的なインフレ沈静化の確証が掴めない限り、利上げ幅の縮小は期待できないとは言え、7月の個人消費支出(PCE)や8月のCPIと言った追加のインフレ統計を前に、BTC相場には重石となる公算が高いと指摘される。

ただ、利上げによる住宅市場の冷え込みや失業保険新規申請件数の増加、国内総生産(GDP)のマイナス成長といった景気後退のサインもある中、FRBがこれ以上利上げのアクセルを踏み込む余地もそれほど残されていないと指摘され、ワーストケースは100bp利上げから75bpに引き下がったか。

また、26日に発表されるPCEは、CPIとPPIの流れを汲んで減速する公算は高いと言える。その際に注目したいのが、ダラス連銀が算出するトリム平均PCEインフレ率だ。

同指数はPCEを構成する項目の中から上下に変動率の高い物を除外した数値となっており、中長期的な物価のトレンドを捉えることに適している。つまり、トリム平均PCEインフレ率が低下すれば、平均回帰の原理で通常のPCEも低下傾向に入る可能性が高くなるということだ。

(米個人消費支出<前年同月比>、トリム平均PCEインフレ率チャート/FREDよりbitbank作成)

以上に鑑みれば、8月中旬のBTC相場はFOMC議事要旨を巡り下値リスクも想定されるものの、インフレ統計の低下、引いてはFRBの利上げペース緩和観測も随所で働くと期待され底も堅そうだ。

他方、テクニカルの側面では、BTCは329万円を走る日足一目均衡表の雲上限を背に安値を切り上げており、ブレイクアウトできれば強い買いシグナルとなる三役好転を示現する見通しとなっている。実現すれば今年の4月ぶりとなり、テクニカル的にはトレンド転換を示唆するため注目しておきたい。


長谷川友哉:ビットバンク(bitbank)マーケット・アナリスト──英大学院修了後、金融機関出身者からなるベンチャーでFinTech業界と仮想通貨市場のアナリストとして従事。2019年よりビットバンク株式会社にてマーケットアナリスト。国内主要金融メディアへのコメント提供、海外メディアへの寄稿実績多数。


|編集・構成:佐藤茂
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