暗号資産(仮想通貨)について少しでも知っていて、ニュースをチェックする人なら、暗号資産マイニングについて聞いたことがあるだろう。
暗号資産マイニングについて知っているなら、ビットコインが環境負荷の高いプルーフ・オブ・ワーク(PoW)というメカニズムに依存しており、イーサリアムがPoWから環境負荷の低いプルーフ・オブ・ステーク(PoS)へと移行しようとしていることを、聞いたことがあるだろう。
PoWとPoSはどちらが良いのか?その答えについて議論する記事の大半は、あまりに技術的か、あまりにバイアスがかかってしまっている。投資家としては、投資についての判断を下すために、事実とトレードオフが知りたい。
そこで、「投資家のためのPoWとPoS入門決定版」をお届けしよう。この話題については、本が書けてしまうほどなので、技術的な詳細については、省略することにする。まずは、少し脇道に逸れたお話を。それでも、関係ある話であることは約束する。
親愛なる読者の皆さんには驚きかもしれないが、投資とソフトウェアエンジニアリングはあまり変わらない。根本的に、投資はトレードオフなのだ。それはソフトウェアエンジニアリングも同じである。
投資においては、一定の資本があり、その資本を何らかの形で分配する。Aに投資すると決めたら、その資本をBにも投資することはできない。BではなくAに投資することを選ぶ時には、リターンの見込みやリスクプロフィールなどを考慮に入れることになる。
ソフトウェアエンジニアリングにおいては、特定の行動を見せ、特定の構造を持ったプロダクトがある。エンジニアは特定の形で振る舞う何かを設計し、コードの構造を決定する。その構造における決断が、将来的に調整するのがどれほど簡単かを左右する。
暗号資産は、(コストのかさむ)第三者に依存することなく、ネットワークを運営することを目指す。そのためネットワーク参加者には、重要事項について決断し、コンセンサスに至る方法が必要なのだ。
そこで、コンセンサスメカニズムの登場である。コンセンサスメカニズムは多く存在するが、その中でもとりわけ重要なのが、PoWとPoSだ。
この2つの間には、トレードオフが存在する。しかし、コンセンサスメカニズムについて知っておくべき最も重要なことは、ネットワークへの攻撃者(競合、政府、富裕な個人の集団など)を寄せ付けないためにレジリエンスが必要という点だ。
それではまずは(ビットコインの文脈で)PoWを擁護し、次に(イーサリアムの文脈で)PoSを擁護し、最後に2者のトレードオフの一部を紹介していこう。
プルーフ・オブ・ワーク
PoWを説明するのに、多くのひどい例え話が使われる。私のものはこうだ。
宝くじがある。当選するためには、当選くじを買う必要がある。くじを買うためには、宝くじ購入を行うコンピューターが必要だ。より多くのコンピューターを持っていれば、より多くの宝くじを買うことができる。
買ったくじが当選番号と一致すれば、あなたの勝ち。つまりより多くのコンピューターを持っていれば、当選する可能性も高まるのだ。
PoWを採用するビットコインにおいては、(PoW宝くじ購入者である)マイナーは、当選番号を推測するために、専用のコンピューターを利用する。これらのコンピューターには、推測を行うマイクロチップが搭載されていて、電気で動く。正しい番号を導き出すには、コンピューターを動かすしかない。
PoWには、メリットとデメリットがある。PoWは、分散型コンセンサスを生み、スパムを阻むためのレジリエントな方法である。ビットコインでは2009年の誕生以来、分散型でボーダーレスなオープン決済ネットワークをトラストレスに運営するために、PoWを使っている。
ビットコインのPoWメカニズムは、ビットコインの価値が6セントだった時も、6万ドルだった時も、同じようにうまく機能している。重要なのは、PoWは機能するという点であり、しかもとても良く機能するのだ。
それでもPoWコンセンサスメカニズムは、ハードウェアへの負荷が高く、需要の多いマイクロプロセッサに依存している。その結果として、サプライチェーンに混乱が生じている場合には、PoWへの投資には時間がかかる。
一貫して電力とスペースが必要となるため、十分なスペースと安価な電力の手に入る場にマイニングが集中する傾向がある。つまり、マイナーが事業を展開する場が、例えば中国の四川省などに一極集中してしまう可能性があるのだ。
PoWは、フレームワークに応じては、両刃の剣となる。PoWは電力を使う。ビットコインの電力使用が価値あるものなのか、適切な電力を使っているのかについてここで議論することはしないが、電力を使うことは確かだ。
PoWは無駄になってしまう電力を活用し、送電網を安定させ、地元経済を促進することもできるが、ビットコインマイニングが、時代遅れとなっていた化石燃料電力発電所を再活性化させた例もある。
プルーフ・オブ・ステーク
PoSを説明するのにも、多くのひどい例え話が使われる。私のものはこうだ。
宝くじがある。当選するためには、くじを買う必要がある。くじを買うことを許可されるためには、選ばれる必要がある。選ばれるためには、一定のお金を宝くじに差し出す必要がある。
より多くのお金を差し出すほど、選ばれる可能性が高まる。くじを買うのに選ばれれば、あなたのくじは自動的に当選番号と一致し、当選することができる。つまり、差し出すお金が多いほど、当選する可能性が高まるのだ。
PoSへの移行が予定されているイーサリアムでは、(PoS宝くじ購入者である)バリデーターは、ステーキングした資産の額に応じて、ランダムに当選者として選ばれる。より頻繁に選ばれるためには、より多くの資産をステーキングする必要がある。
PoSにも、メリットとデメリットがある。
分散型コンセンサスを築くための効果的な手段である。PoWほど実地で試されたものはないが、PoSを数年間使って成功を収めている暗号資産は複数存在する。
イーサリアムの世界においては、バリデーターになるのには非常にコストがかかる。バリデーターとなって宝くじに参加するためには、32ETH(約6万ドル相当)を差し出す必要がある。
確かに、ステーキングされる資産のプールにより少ない額のETHを差し出すという方法もあるが、それでは同じことにはならない。初期コストが高いということは、バリデーションに参加するのが富裕層だけという、「リッチな人たちのブロックチェーン」という結果をもたらす可能性もある。
PoSは、フレームワークに応じては、両刃の剣となる。資本を使うのだ。ある意味では、これは強みである。十分な資産を持っていれば誰でも、どこにいても、バリデーターになることができるのだから。PoWと同じように、地理的に集中するリスクはない。PoSに必要なのは資本だけであるため、参入障壁はより低いのだ。
トレードオフ
前述の通り、これは本が1冊書けるほどの内容だ。以下に示すPoWとPoSのトレードオフは、すべてを網羅している訳ではない。
PoWの方がレジリエンスが高いため、PoSネットワークを攻撃する方が簡単である。ブロックチェーン専門家のアンドレアス・アントノプロス(Andereas Antonopoulos)氏が指摘した通り、PoWネットワークを攻撃するのに必要なのは「適切な時に、適切な場所で、適切なインセンティブを持って電力とハードウェアを合わせる」ことだが、それはますます実行が難しくなっている。
PoSの場合は、お金さえあれば良いのだ。PoSでのイーサリアムの名誉のために言っておくと、PoSイーサリアムを攻撃するのにはたくさんの資金が必要だが、それでも必要な調整や協調した行動は、PoWへの攻撃ほどではない。
それでも、PoSの方が理論的にはよりアクセスしやすい。必要なのは資本だけだからだ。確かに、イーサリアムの場合はかなりの資本が必要だが、前述の通り、参入障壁となるような協調や調整は、PoSには存在しない。
同じように、PoSの方がPoWよりも機動性がある。PoWには電力が必要なため、政府はマイナーが事業を行っている場所を突き止め、個々の事業をシャットダウンすることもできる。
閉鎖されたPoW事業を別の場所に移動させるのには、多くの労力が必要だ。これは、中国が昨年、ビットコインマイニングを禁止した時に実際に見られたことであり、ネットワークアクティビティは一時的に低下した。それに比べればPoSマイニング事業の移動は、簡単である。
最後に触れておきたいのは、PoSは多くの電力を使わないが、PoWは使うという点だ。これについては、私自身は重要ではないと考えているので、詳述はしない。
あなたが、環境問題だけを重視する投資家ならば、PoWは検討にも値しないかもしれない。PoWにはメリットがあり、私は長年にわたって、ビットコインマイニングを擁護してきたが、結局のところ、あなたにどのように考えるべきだとか、何をするべきだとか指示することはできない。
|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:The Investor’s Definitive Guide to Proof-of-Work and Proof-of-Stake (Abridged)