8月11日、アルゼンチン政府が7月のインフレ率が20年ぶりの高水準となる7.4%に達したと発表する中、何千人もの人が首都ブエノスアイレスで開かれたイーサリアムカンファレンス「ETHLatam」に集まった。
好調な出足も不思議ではなかった。イーサリアム財団のアヤ・ミヤグチ氏によれば、ブエノスアイレスは世界でも有数のイーサリアムコミュニティを抱えているのだ。
「この場所におけるハッカソンや暗号資産関連の集まりから、この美しいコミュニティを構成するチームや個人が登場してきた」と、ミヤグチ氏は開幕の挨拶で述べた。ブエノスアイレスで開かれたイベントは、ラテンアメリカ各地で開かれる7つのイーサリアムカンファレンスの第1弾。10月28日のパナマが締めくくりとなる。
アルゼンチンで2019年に暗号資産ブームが始まって以来、ETHLatamは初めてのメインストリームな国際的暗号資産イベントとなる。アルゼンチンでは、何百万人もの新規暗号資産ユーザーが生まれ、暗号資産の普及度は世界でもトップ10に入るほどだ。
We didn’t just pick Bogota. We picked LatAm! Excited about all these #Ethereum events from here to Devcon and more. Haste pronto Buenos Aires ✈️ @ethlatam pic.twitter.com/YiO62Njsdj
— Aya Miyaguchi (ayamiya.eth) (@AyaMiyagotchi) 2022年8月9日
「アヤ・ミヤグチ:
ボゴタだけではなく、ラテンアメリカ全体で開催!今後のイーサリアムイベントや開発者カンファレンス(Devcon)にワクワクしている。ブエノアイレスで会いましょう」
参加者の中には、ブエノスアイレス市長のオラシオ・ロドリゲス・ラレタ(Horacio Rodriguez Larret)氏の姿も。彼は暗号資産を金融システムに取り入れる実験を行い、来年はアルゼンチン大統領選挙に出馬する予定だ。ラレタ市長は4月には、暗号資産での税金支払いを認めると発表した。
さらに、ブエノスアイレスの革新・デジタル変容担当秘書官のディエゴ・フェルナンデス(Diego Fernández)氏は11日、ブエノスアイレスが2023年、イーサリアムバリデーションのノードを配備する計画があると発表。この取り組みは「検討と規制のためのもの」であり、300万人の市民を抱える市が暗号資産に関する「順応性のある規制を構築」するのに役立つと説明した。
成功すれば、ブエノスアイレスはイーサリアムノードを配備した世界でも初めての都市の1つとなる。さらに、ブロックチェーン基盤のデジタルアイデンティティプラットフォーム「TangoID」のローンチも世界に先駆けて計画中で、2023年1月に、市民が自らの個人データを管理できるようになる。
イーサリアムの共同創業者ヴィタリック・ブテリン氏は13日、ビデオ出演を行い、スペイン語で大型アップデート「Merge(マージ)」を説明。崩壊したテラ(Terra)のトークンLUNAや、アムステルダムで逮捕されたトルネード・キャッシュの開発者など、それ以外にも多岐にわたる話題について語った。
ブテリン氏とアルゼンチンの間の強い結びつきは、新しいものではない。ブテリン氏は2021年12月に同国を訪れ、多くの人たちと会談。満員となった1200人の聴衆向けに講演も行った。
金融危機に暗号資産で応戦
2019年半ば以来、アルゼンチンでは金融危機が続き、高いインフレと通貨安に苦しんでいる。アルゼンチンペソは2019年8月から今年の7月までで、1ドル=40ペソから1ドル=350ペソまで値下がりした。
アルゼンチンは、衝撃的なほどの経済的混乱に慣れてしまっている。例えば2001年のいわゆる「corralito」では、政府が預金者たちの預金を没収した。若い世代は、政府による不適切な政治に両親が苦しむ姿を目の当たりにしており、暗号資産の人気の高まりも当然だ。
現在、アルゼンチン政府による外貨制限により、商業銀行でひと月に200ドル以上の外貨を買うことは禁じられているが、仲介業者を介して外貨を手にしたり、暗号資産取引所を通じてステーブルコインを購入することはできる。
アルゼンチンにおいては、暗号資産が伝統的証券市場に勝っている。アルゼンチンの証券取引所によれば、2022年第1四半期時点で、証券会社でアルゼンチン市民が開設しているアカウントの数は57万5000。一方、現地の暗号資産取引所レモン(Lemon)だけでも、130万人以上のユーザーを抱えている。
レモンやブエンビット(Buenbit)、ベロ(Belo)などの地元暗号資産取引所がここ1年半でローンチしたデビットカードの利用の増加が、アルゼンチンにおける暗号資産ブームの一因を説明している。
デビッドカードのおかげで、暗号資産取引がユーザーフレンドリーなものとなり、キャッシュバックも受け取れる。取引高で世界最大の暗号資産取引所バイナンス(Binance)も、8月にこのブームに加わった。
先進国市場の2倍の暗号資産利回りによって、多くのユーザーはアルゼンチンペソでの利子を避けて、ダイ(DAI)やUSDコイン(USDC)などの米ドル連動型ステーブルコインでリターンを選んでいる。
アルゼンチン市民はさらに、金融市場が取引を終了した後の金曜午後や週末にかけての政府の発表に対してヘッジをするために暗号資産を使うことすら覚えた。
経済危機によって経済相のマルティン・グスマン(Martin Guzmá)氏が退任した7月の土曜日には、アルゼンチン市民が購入したステーブルコインの数が、通常の週末の2〜3倍に。証券市場が月曜日に開いた時に、アルゼンチンペソが値下がりすることに備えての行動だったが、実際にその通りになった。
アルゼンチンの暗号資産エコシステムに関わっている若者の多くは、米ドル、ユーロ、暗号資産で給与を受け取ることで、アルゼンチン政府と収入を切り離している。
起業家たち
ETHLatamでは、イーサリアムブロックチェーン上でメタバースを構築するディセントラランドや、分散型金融(DeFi)監査企業オープンゼッペリン(OpenZepellin)など、グローバルな存在となったアルゼンチン起業家たちが紹介された。ビットコイン(BTC)ウォレットスタートアップのMuunも、傑出した事例として紹介された。
これら3つの企業は、ブエノスアイレスのパレルモ地区にあるCasa Voltaireから誕生した。Casa Voltaireは、2014年から2016年にかけて、様々な暗号資産開発者たちの出会いの場となっていた。
現在、また新しい世代の暗号資産起業家たちが、期待できるプロジェクトを立ち上げている。アルゼンチン人起業家パトリシオ・ワーサルター(Patricio Worthalter)氏は、イベント(バーチャルおよび対面)に参加したことを記念、証明するために独自NFTを与えるPOAP(Proof of Attendance Protocol)について語った。
アルゼンチン生まれのプロトコル「エクザクトリー(Exactly)」は、ETHLatamでテストネットを運用。貸し手と借り手に自律型金利市場を提供するノン・カストディアルな分散型オープンソースプロトコルである。
エグザクトリーの共同創業者兼CEOガブリエル・グルーバー(Gabriel Gruber)氏は、クレジットの需要と供給にもとづいて金利を設定するエグザクトリーによって、ユーザーはDeFiで初めて、固定および変動金利において、自らの資産の価値を摩擦なく取引できるようになると説明した。
アルゼンチン人ウェブ3起業家のフアニ・ガロ(Juani Gallo)氏は、別のアルゼンチン人起業家ダミアン・カタンザロ(Damian Catanzaro)氏と共同で立ち上げた暗号資産クラウドファンディングプロジェクト「ファンドイット(FundIt)」の詳細を説明。
カンタンザロ氏が以前に立ち上げたチップのためのプラットフォーム「カフェシト(Cafecito)」は、ユーザー数が100万人を突破。取引を加速するためにビットコインブロックチェーン上に築かれたレイヤー2プロダクトのライトニング・ネットワークに対応している。
地元取引所ベロのCEOマニュエル・ボードロイト(Manuel Beaudroit)氏によれば、ラテンアメリカは、日常的かつ具体的な問題を解決するためにテクノロジーを活用する数少ない地域の1つだ。対照的にアジアやアメリカでは、トレーディングや投機システムを改善するためにテクノロジーが使われていると、ボードロイト氏は指摘した。
「アルゼンチンやラテンアメリカでは、インフレ、送金、価値の保護、預金といった問題を解決する必要がある。暗号資産エコシステムの大部分はこれらの問題を解決しようと取り組んでおり、アプリケーションをエコシステムに送り出している」と、ボードロイト氏は語った。
|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:CoinDesk
|原文:Argentina Ethereum Conference Highlights Crypto’s Growing Reach in the Country