ブロックチェーンを基盤とするNFT(非代替性トークン)を活用して、楽曲の権利をアーティストとファンが共同で保有できるサービスが、いよいよ日本でスタートした。北米ではすでに同様のサービスが生まれているが、「Web3.0時代の音楽市場経済」とも呼ぶべきエコシステムは国内でも広がっていくだろうか?
音楽の領域で破壊的創造を起こそうと立ち上がったのは、OIKOS MUSIC。Official髭男dismやMISIA、あいみょん、CHEMISTRYなど、多くのアーティストへの楽曲提供やプロデュース、編曲を手がける宮田亮平氏(アーティスト名は宮田 ‘レフティ’ リョウ)が、共同創業者の1人だ。
OIKOS MUSICは8月30日、アーティストとファンが音源の権利を共同保有できるNFTのマーケットプレイス「OIKOS MUSIC」の運営を開始。同時に、OIKOSがプロデュースする5組のアーティストをデビューさせ、9つの楽曲の権利を「OIKOS」と呼ぶNFTとして発売した。
ユーザーはOIKOSを購入すると、音源の保有割合に応じて、音楽サブスクリプションサービスで生み出される収益を四半期ごとに受け取ることができるという。保有したOIKOSは、同社が運営するウェブ上のマーケットプレイスで管理でき、購入方法は法定通貨のクレジットカード決済を採用した。
NFTや暗号資産(仮想通貨)を管理するためのウォレットを開設する必要はない。OIKOS MUSICのマーケットプレイスでは当面、楽曲NFTの一次流通(プライマリー市場)が対象となるが、ユーザー間で売買できる二次流通取引(セカンダリー市場)の検討も進める。
OIKOSのサービス開発には、エンタテインメント×テクノロジー分野で事業を行うplayground(本社:東京千代田区)が参画した。
OIKOSでデビューしたミュージシャン
今月26日、OIKOS MUSICは立ち上げパーティを渋谷・千駄ケ谷で開き、共同創業者の1人である市村昭宏氏がOIKOSのビジョンを語った。OIKOSからデビューしたカネコミレンさん、群青マキさん、Canataさんの3名のシンガーソングライターはパフォーマンスを披露した。
群青マキさんは作詞作曲とアレンジのすべてをスマートフォンで行うデジタルネイティブのミュージシャン。ロックミュージックを中心に音楽を作っていきたいと話す23歳のCanataさん(トップ写真)は、30日からストリートライブの旅を始める計画だ。
北海道を起点に沖縄まで南下しながら、自身のオリジナルソングを約3カ月かけて歌い上げると誓った。
音楽の民主化、Web2からWeb3へ
OIKOS MUSICを共同創業した市村氏はパーティで、「アーティストとファンのコミュニケーションはこれまでとは異なるアプローチが必要だ。サブスクリプション型の音楽配信サービスが世界で主流になる中、音楽事業の大胆なデジタル化が求められている」と強調する。
「楽曲を共同保有するということは、言い換えれば、音楽の民主化ということではないだろうか。Web2.0からWeb3.0へのシフトを加速させることに繋がればと考えている」と意気込みを語った。
MANAさんは、OIKOS MUSICからデビューしたボーカル&ドラムユニットの「LALATAN」で、ドラムを担当する大阪生まれの21歳。姉妹全員がギターやベースなどの楽器を奏でる4人姉妹の3女として生まれ、音楽スタジオでアルバイトをしていた時にスカウトされた。今年、LALATANでドラムを叩くことを決めた。
「NFTというものを知り、NFTと音楽が重なることに興味が沸いてきた。人の心を静めたり、心地よくさせることのできる音楽を奏でていきたい」(MANAさん)
音楽NFTで先を走る北米のRoyal
北米では、Royal(ロイヤル)という名前のプラットフォームが運営を始めている。「INVEST IN MUSIC.(音楽に投資する)」のキャッチコピーを掲げ、「アーティストと共にロイヤリティ(royalty)の一部を保有して、報酬を得よう」と謳い、ユーザーの拡大を図っている。
ロイヤリティとは、著作権や商標などを使用する側が、権利所有者に対して支払う対価のこと。
Royalでは、暗号資産とクレジットカードの2種類の決済方法を準備した。暗号資産・NFTに対応したウォレットの「メタマスク」を接続して、暗号資産で購入することができる。サイト上に並ぶ音楽(NFT)は米ドルで表記されており、NFTマーケットプレイスのOpenSea(オープンシー)で購入できると記されている。
Royalは昨年から7000万ドル(約9.7億円)を超える資金を調達し、プラットフォームのの機能性を高めながら、取り扱う楽曲NFTのラインナップの拡大を進めている。
データ分析のstatistaによると、世界の音楽ストリーミング業界における収益は、2017年の140億ドル(約1.94兆円)から倍増。2021年には280億ドルに達した。2026年には400億ドルを超えると予想している。
ブロックチェーンは、生まれながらにしてクロスボーダーで機能する特徴がある。この技術を基盤とする暗号資産やNFTは、各国の規制や法律が大きく左右するものの、世界中のウォレットとウォレットとの間で取引することが可能であることは言うまでもない。
楽曲NFTが北米や欧州、アジア諸国の無数のウォレットを通じて流通するようになれば、音楽を軸とする世界の市場経済は大きく変わる可能性があるだろう。
Web3.0:Web3とも呼ばれ、ブロックチェーンなどのピアツーピア技術に基づく新しいインターネット構想で、Web2.0における巨大プラットフォーマーによるデータの独占や、改ざんの問題を解決する可能性があるとして注目されている。
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|インタビュー・編集・構成:佐藤茂
|フォトグラファー:多田圭佑
|トップ画像:OIKOS MUSICでデビューしたシンガーソングライターのCanata