投資会社Arcaのリサーチディレクター、ケイティ・タラティ(Katie Talati)氏は、伝統的金融機関が、10年に1度のトレーディングチャンスを逃すかもしれないと考えている。
イーサ(ETH)は現在、ひどく安値となっており、値上がり要因となるアップグレードはすぐ先まで迫っているからだと、タラティ氏は説明する。
イーサリアムは9月、改善された新しいブロックチェーンへと、何十億ドル相当ものトークン、何百万人ものユーザー、何千ものアプリが移行する。長年の研究開発の成果である「Merge(マージ)」が実施され、プルーフ・オブ・ステーク(PoS)チェーンが配備されるのだ。
「とりわけ現在の価格を考慮すれば、多くの人が軽く見てしまっているイベントだ」とタラティ氏。「これから1年後に振り返って、市場は底値にあったと気づくだろう」と続けた。
もちろんこれは、タラティ氏個人の見解に過ぎない。しかし、多くの業界関係者の間で幅広く共通する見解でもある。ニュースの見出しの大半が、暗号資産(仮想通貨)保有者にとってのリターンではなくリスクを示唆する現状において、Mergeは市場を持ち上げる可能性を秘めているのだ。
タラティ氏はここ数週間、暗号資産への個人投資家の関心が増していることに気がついている。それでも、「新規参入している機関投資家はいない」そうだ。「機関投資家の方が、はるかに重要で大口のイーサの買い手となる」と、タラティ氏は指摘する。
値上がりの可能性
タラティ氏によれば、Merge後にイーサ価格が上昇すると考えるには、構造的な理由がある。
「金融の観点からは、イーサの純発行数はマイナスとなる」とタラティ氏。つまり、ETHがデフレ的資産となり、長期間保有することで価値が高まる可能性があるのだ。
これは、昨年策定されたEIP(イーサリアム改善提案:Ethereum Improvement Proposal)-1559の結果だ。取引が成功するたびにETHが焼却され、マージ後のイーサリアム発行に変化が生じる。
イーサリアムがプルーフ・オブ・ワーク(PoW)とお別れしてから少なくとも半年間は、トークンをステーキングするユーザーは、自らの資産を即座に引き出すことはできなくなる。これによって「供給の落ち込み」が生まれ、流通する新しいETHの発行が実質的に制限される。
さらに、ステーキング報酬を獲得するために、イーサリアムに手持ちのETHをロックアップするインセンティブも生まれるのだ。
「ステーキングによって、イーサの流通量は増えるが、それは個人が売却できるものではない」と、タラティ氏は説明した。
新しいビットコイン(BTC)の発行数が4年毎に周期的に減少する「半減」に対して、これはイーサリアムの「3分の1減」と呼ばれている。プログラムによるこのような供給量削減は時に、価格を押し上げる、あるいは少なくとも、暗号資産市場への注目を高めると考えられている。
リスク
それでも、トレーディングにはリスクもある。まず、Merge延期の可能性だ。そうなれば、少なくとも短期的には、市場に「マイナスのメッセージ」を送ることになるだろうと、タラティ氏は指摘する。実際、イーサリアムのアップグレードはこれまでにも、何度も延期されてきた。
そして、Merge実施中、あるいは実施後に何か大きな問題が発生する可能性もある。こちらは、複雑な要素が絡み合っているため、予測が困難なリスクだ。
さらに、PoWアルゴリズムを維持するための、フォークの可能性もある。そうなれば市場はバラバラになると、タラティ氏は指摘する。一部の有名暗号資産企業はすでに、大物マイナー・投資家であるチャンドラー・グオ(Chandler Guo)氏がサポートするETHPOWなどのPoWフォークへの支持を表明している。
人々がロックアップしたコインを解放できるようになれば、ETHへの売り圧力の可能性もある。ビーコンチェーン(Beacon Chain)でイーサリアム2.0のデポジットコントラクトが稼働して以来、2年近くETHをロックアップしている人たちもいるのだ。彼らはステーキング報酬という形でリターンを獲得しており、それを売却して現金に換えたり、再投資することもできる。
「そのような行動を予測するのは、難しい」とタラティ氏は語り、初期にステーキングした人たちの多くは、イーサリアムの長期的支持者であり、売却する可能性は低いと続けた。
イーサリアムの発行スケジュールの多くは、変わる可能性がある点にも留意が必要だ。ETHがデフレ的になるというのは、機関投資家に対しては大きなセールスポイントだが、そうなる保証はない。イーサリアムが多く使われ、多くのETHが売却されるかどうかにかかっているのだ。
史上最大のブロックチェーンアップグレードが抱える金融や技術、その他の予測不能なリスクを考慮すると、ETHへの投資をヘッジする方法はあるのだろうか?
投資家たちは、値下がりのリスクをしっかりと認識しているようで、ETHを売る権利を与えてくれるETHのプットオプションが「現在の市場では非常に高値になっている」と、タラティ氏は指摘した。
|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
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|原文:Is Ethereum’s Merge Priced-In?