暗号資産業界が米国のプライバシー保護法案を支持すべき理由【コラム】

暗号資産業界ではプライバシーの面で多くの進展が起こっているが、それと同時に、本質的な真の消費者プライバシーは、暗号化ツールへのアクセスの高まりだけに依存することはできないという理解も広がっている。

最悪なプライバシー侵害を防ぎ、それを犯罪とするための連邦レベルでの取り組みが必要であり、成熟しつつある暗号資産業界も、そのような取り組みをサポートするべきだ。それが、アナーキストが国家の味方をする、ということを意味してもだ。

アメリカはあらゆる面で、消費者プライバシーの規制で遅れを取っている。この遅れによって、ビッグテックが国民の個人データや機密情報を監視し、それを使って利益を上げることが可能な環境が生み出されているのだ。広告テック業界は巨大であり、インターネットという場を改悪した。それが、暗号資産によって仲介業者を排除する必要がある理由の1つなのだ。

待望のプライバシー法案

現在アメリカ議会で審議中のプライバシー強化のための法案「アメリカデータプライバシー・保護法案(American Data Privacy Protection Act:ADPPA)」によって、企業がオンラインで収集できる消費者のデータの種類に、強い制約が課されることになる。もし可決されれば、ここ数十年の間で最も重大なインターネット関連の法律となり、国民の権利を力強く支えることになる。

「法案の中には、変更が必要な小さな問題点も数多くあるが、本質的には、(とりわけ機密データのカテゴリーでの)厳格なデータ最小化要件によって、アメリカ国民全員に対して強力なプライバシー保護を提供し、最も有害なデータ収集の一部をブロックすることになる」と、プライバシー関連のNPOエレクトロニック・プライバシー・インフォメーション・センター(Electronic Privacy Information Center:EPIC)のアラン・バトラー(Alan Butler)氏は指摘する。

この法案は6月に提案されて以来、大幅に改定されている。現在では、多くのプライバシー専門家に称賛され、稀有なレベルの党派を超えた支持を集める可能性が高い。しかし、今後の選挙スケジュールによって、法案通過のための取り組みに遅れが生じる可能性もあると、バトラー氏は懸念している。

EPICをはじめとする50の公益や消費者保護、人権に取り組む団体が先週、ペロシ下院議長宛てに法案の審議に取りかかるよう求める書簡を提出。知らなかった、あるいは興味がなかったことから、署名をした暗号資産企業やプロジェクトはゼロであった。

これは残念なことだ。暗号資産業界にとっては、デジタル権利を支えるための方法を見出しつつ、立法プロセスに貢献できることを見せるチャンスだったのだ。

ADPPAによって、ターゲティング広告に機密データ(正確な位置情報、生体情報、健康に関する情報など)を使用することが禁止される。グーグルやフェイスブック、コインベースなどの企業が、長期間にわたって、第三者のサイトをまたいでユーザーのオンライン行動を追跡することも禁止される。ユーザーの同意なしでのデータ収集と、第三者へのデータの「移送」を厳しく制限することになるのだ。

「この法案は、データブローカーの疑わしい行動を制限することになる」と、バトラー氏は説明した。

プライバシー関連の他の法律と異なり、ADPPAは「データ最小化」というものに重点を置き、企業が悪用できる情報の量を制限しようとする。プライバシーをデフォルト設定とするのだ。企業は認証や不正行為への対処など、17の不可欠な理由以外にデータを収集、利用することができなくなる。

これは、EUの「一般データ保護規則(General Data Protection Regulation:GDPR)」など、同意に重点を置いた他のプライバシー関連規制とは対照的だ。同意を基盤とすると、「クッキーを無効にするよりも簡単だからといって、ほとんどの人が『同意する』をクリックしてしまう、不愉快で終わりのないプライバシーポップアップ」を引き起こすことになると、米雑誌『WIRED』は指摘した。

暗号資産業界の貢献

暗号資産業界によるプライバシーへのアプローチは主に、取引履歴を守るためのツールや方法を生み出すことに重点を置いてきた。この業界は、プライバシーと暗号化技術の研究に大きく貢献しており、ゼロ知識証明などの先進的なアルゴリズムを最も初期に消費者向けに実用化することにも成功している。

コード第一主義のアプローチは、立法の取り組みと共生することもできれば、立法の取り組みによって打撃を受けることもある。例えば、米財務省は今月、ブロックチェーンでの取引を匿名にするミキシングサービスを提供するトルネード・キャッシュ(Tornado Cash)を制裁対象にするという、前例のない措置に踏み切った。コードはいまだに実行されているが、マネーロンダリングに関する懸念のために、アメリカの消費者からのアクセスはすでに禁止されている。

「私たちは何十年も、デジタル通貨の分野のものも含め、プライバシーを強めるテクノロジーの開発をサポートしてきた。新しいツールやシステムがウェブ3の世界で配備されるのを見て、励まされている」と、バトラー氏。「しかし、今最も大切なのは、すべてのインターネットユーザーに対するプライバシー保護の水準を高めることだと、私たちは考えている」と続けた。

「だからこそ、プライバシーを高めるテクノロジーの幅広い利用を促進し、よりプライバシーを守るようなシステムを使う責任を、データ収集や処理を行う企業の方に負わせる基盤となるようなプライバシー要件を議会が設定することが、非常に大切なのだ」と、バトラー氏は説明した。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:Why Crypto Should Support the American Data Privacy and Protection Act