北半球の夏が終わる。秋が正式に始まっていないなんてことは、どうでも良い。8月が終われば、夏は終わりなのだ。
金融の世界は通常、8月はゆっくりとしている。ウォール街の有能な人たちは、オフィスのまぶしい蛍光灯の下ではなく、避暑地でくつろぎながらスマートフォンの控えめな光の横で仕事をするからだ。
注目されないことを恐れたビットコイン(BTC)は、7月の値上がり分をすべて8月に失うことで、そのトレンドに抵抗するのが最良と思ったようだ。
夏の市場について、振り返ってみよう。
まず、6月のはじめから8月の終わりまでを北半球の夏と定義しよう。ビットコインのここ2カ月のローソク足を見てみると、7月が緑で8月が赤。お互いに鏡に映したかのようだ。
ローソク足は、資産価格が特定の期間にどのように変化したかを示す。長方形の両端から出る線の先端(芯)は、その期間中の安値と高値を表し、長方形の底辺と上辺はその期間の始値と終値を示す。ローソクが緑の場合は価格が上昇、赤い場合は下落したということだ。
今回の場合は、ビットコインは7月を1万9900ドルほどでスタート。1万8800ドル付近でその月の最安値に達し、ピークは約2万4700ドル。2万3300ドル付近で、7月を締め括った。8月の始値は約2万3300ドル、1万9600ドルまで落ち込み、2万5200ドルまで上昇。8月の終わりには約2万ドルとなった。
ビットコインが夏のお休みをもらっていたと言ってもいいだろう。と言っても6月もあったが。6月は約3万1800ドルでスタートしたため、ビットコインは夏の間に、33%近く値下がりしたのだ。
「夏に金融の世界では何も起こらない」という言葉の真偽を確かめるために、ビットコインの夏をS&P 500の夏と比べることができる。こちらは、6月から約4.3%下落している。結局のところ金融の世界では、夏にも確かに動きがあるのかもしれない。
しかし、これら2つの夏を比べると、興味深いパターンが見えてくる。ビットコインは2018年以来、値下がりした夏はなく、S&P 500の方は、2015年以来値下がりの夏を経験していなかったのだ。
「過去の実績は、将来的な結果を示すものではありません」という、免責の一文を入れても良さそうだが、それはわかっている。これらの過去のデータに共通する唯一の点は、その期間だけだ。
しかしそれでも、何か手がかりを求めて、この期間を見てみよう。なんと言っても市場は感情的で非合理的(犬をテーマにした暗号資産が何十億ドルもの時価総額を誇り、そんなコインが2つもある!)、そして非効率的(そうでなければ、価格が動くことはない)なのだから。
残酷な夏
いくつかの真実がある。ここ2回の夏の間、BTCのスポット取引高(取引されたビットコインのドル建てでの価値)はその前の3カ月間と比べると、2021年には約43.5%、2022年には約14.0%減少した。
取引高はどちらも減少したが、ビットコイン価格は2021年には33.1%上昇、2022年には32.6%減少した。つまり、ここ2年間が何らかの参考になるとしたら、夏には取引高は少なくなると推定できるが、値上がりあるいは値下がりにつながるとは結論できないのだ。
1つ断っておくと、取引高のデータは、クラーケン(Kraken)、LMAXデジタル(LMAX Digital)、イットビット(ItBit)、ビットスタンプ(Bitstamp)、ジェミニ(Gemini)、コインベース(Coinbase)、FTXの7つの信頼できる取引所からのデータを取りまとめたSkewのデータである。そのため、取引高は総額よりは少なくなっているが、ここでの比較の目的には叶っている。
そして、9月の方に目を向けると、取引高は過去、かなり急速に増加してきた。9月のスポット取引高は2020年には107億ドル、2021年には510億ドル。これは、それまでの3カ月間の取引高の38.9%、42.7%に当たる。ちなみに2020年の8月と9月の間には、前月比での取引高の増加はなかった。
つまり、9月には取引高が増加すると見込むのが妥当なのだ。そして第4四半期にも通常、取引高は増加する。しかし本当の疑問は、どの価格で?というものだ。
これまでの9月を参考にできるとしたら(実際にはできないのだか)、ビットコイン価格は2017年以来、9月には必ず値下がりしていたと知っておくことは重要だ。そうなると、ビットコインはこの夏ひどいパフォーマンスを見せた後、9月には途方もなく値下がりするということなのだろうか?
さあ、どうだろう。一定期間の値動きや取引高という明らかな指標には、ある大切なアイテムが欠けているのだ。
ナラティブである。
もちろん、9月に取引高増加が見込まれることによって、9月のナラティブの方向性が増幅されるかもしれないが、ビットコインが間違いなく9月に値下がりする、ということにな必ずしもならない。
2022年夏以後のナラティブ
では、今後のナラティブはどうなるだろう?最近ではトレーダーたちは、Merge(マージ)に注目している。Mergeはビットコインではなく、イーサリアムのアップグレードだが、イーサ(ETH)は2番目に取引の盛んな暗号資産であり、2つの値動きには関連性がある。Mergeの価格への影響がプラスかマイナスかは、議論が分かれている。
懐疑的な私が注目している、冷ややかなナラティブは他にある。Mergeが期待されたほどの成功を収めなかったり、もっとひどいことに、イーサリアムを破壊してしまったら?
そうなれば、A)トレーダーがすべての暗号資産を失敗作のように取引することで、ビットコインも道連れとなる。B)ビットコインは同じような大規模テクノロジーアップグレードは行わず、それは好ましいことなので、トレーダーはETHを売却して、ビットコインに大挙して押し寄せる。あるいは、C)その中間。これらのどれかになるはずだ。
私はCになると考えているが、それはリスク回避しておけば、間違えないのは簡単だからだ。どちらにしても、9月の終わりにまた考えてみよう。
そこで第3四半期が終わり、過去に取引高の非常に多かった第4四半期が始まるからだ。さらにその頃にはMergeも完了しているはずで、その成功の度合いについて、議論することはたっぷりあるだろう。
|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
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|原文:It Was Cruel Summer for the Bitcoin Market