メディアではもうしばらくの間、機関投資家が投資に適した資産としてビットコイン(BTC)に近寄っていると報道してきた。例えば2020年には、生命保険大手マスミューチュアルがビットコインを購入した。
今年に入ってからも、世界最大の資産運用会社、米ブラックロック(BlackRock)が暗号資産関連サービスの提供を計画していると報じられた。
そんな話題にはもううんざりしてきたので、この記事では、ウォール街がビットコインを必要としていない理由と、ビットコインにもウォール街が必要ではない理由について考えていきたい。
奇妙に聞こえるのは承知している。暗号資産投資に興味がある人たち向けに、時価総額最大の暗号資産が投資家を必要としていないと主張するなんて、場違いな感じがするかもしれない。
それに対する私の唯一の反論は、次の通りだ。
ビットコインが成功するのに大口投資家が必要ないと言えれば、ビットコインへの投資は少なくとも検討の価値があるだろう。
それから、注目を集めるために、少し大げさに表現しているところもあるかもしれない…
ビットコインとウォール街の本当の相関関係
機関投資家がビットコイン投資に参入することについて、知っておくべきことがある。本来ならそれは、価格を押し上げるはずだったのだ。(ちなみに私はこの記事で、機関投資家とウォール街という厳密には同じ意味ではない言葉を、区別しないで使っていく)
資産運用会社インベスコ(Invesco)が1兆4000億ドルに及ぶ運用資産の5%をビットコインに投資した途端、他の人たちもそれに続くはずだった。需要の急増と、ビットコインの限りある供給量が組み合わさって、価格はこれまでにない高みに到達するはずだったのだ。
いつの日かそんなことが起こる日が来るかもしれないが、今の所はそうなってはいない。
たくさんの細かい点を無視して言ってしまうと、この点について、2つの立場がある。「ウォール街がビットコインを買わなければ、ウォール街は大変なことになる!」というものか、「ウォール街がビットコインを買わなければ、ビットコインは大変なことになる!」というもの。
3つ目の、主観的には正しい立場もある。「ウォール街にビットコインは必要なく、ビットコインにウォール街は必要ない」というものだ。
ウォール街にビットコインは不要
ウォール街にビットコインが必要ないという考えの根拠は短いものだ。かつての奴隷取引市場は、1800年代のどこかの時点で今のような形となり、それ以来ウォール街は、大まかに言って、莫大なお金を儲けてきた。
ウォール街はビットコイン誕生以前にも問題なくお金を儲けてきたし、ビットコインが生まれてからも、お金を儲けるのに困ってはいない。
さらに具体的に言えば、ウォール街は投資家の代わりに保有する資産の価値が上がることだけで、お金を儲けている訳ではない。投資家の代わりに、あるいは投資家に向けて金融商品を売って手数料を受け取ることでも、利益を上げているのだ。ウォール街はどれほど「遅れ」ていても、利益を上げる方法は必ず見つけ出せる。だから、ビットコインは必要ないのだ。
ビットコインにウォール街は不要
ビットコインにウォール街は必要ないという逆の考えの根拠も、同じように簡潔だ。ビットコイン保有者をリッチにしてくれるという、ビットコインのユースケースはひとまず脇に置いておこう。
私は先日、ビットコインの真の価値は、国家からの分離だと主張する記事を書いた。これは、ウォール街などの機関投資家からの分離も同じことだ。ビットコインは企業のために作られたのではなく、企業を迂回するための方法として作られた。ビットコインは、仲介業者という第三者が必要ない通貨なのである。
ウォール街の売り手側の投資銀行やトレーディングデスクほど、儲かる仲介業者はいない。もちろん彼らは、手数料を取って、あなたから地元のカフェへといった日常的な金融取引に対処する訳ではないが、手数料を受け取って、投資家や大手企業などの間の日々の金融取引に対処している。
ビットコインには第三者仲介業者は必要ないため、ウォール街は不要なのだ。
現実には、互いを必要としているのかもしれない
細かな部分を無視せずに、これらのアイディアを現実に当てはめてみよう。
その前に、率直に言っておく必要がある。ビットコインの存在が、あらゆる金融機関を不要なものにするという理想がビットコインには内在している。
分散型でピアツーピアの通貨であるビットコインが、あらゆる銀行、資産運用会社、トレーディングデスク、ブローカレッジ、中央銀行、貸付企業を消滅させるということだ。私はこのような考えに、まったく賛同していない。
私はビットコインが大好きだし、銀行サービスを受けられない人たちに、基本的な金融商品への普遍的なアクセスを与えることによって、世界を意義ある形で変えられると考えているが、同時に、銀行はなくならないとも考えている。
どんなに自立が好きでも、多くの人たちは第三者を信頼して、苦労して稼いだお金の少なくとも一部を人任せにできる安心感に価値を感じるからだ。そしてその理由は、その第三者がしっかりと行動しなかった場合には、少なくともある程度の法的手段や社会的手段が存在するからだ。
主題に立ち戻ると
まず、ウォール街にビットコインが必要ないのは、ビットコインなしでもお金を儲け続けられるからだ。諮問や取引の手数料によって、ビットコインに手を出さずとも、ウォール街は着実に利益を上げることができる。
ビットコインの名を冠さない金融商品が存在し続ける限り、つまり、文明と戦争が続く限り、そのような金融商品をまとめて、発行して、売買する企業が存在し続けるのだ。
次に、ビットコインにウォール街が必要ないのは、ビットコインは第三者抜きでも存続するからだ。ビットコインは権威主義体制や2桁台のインフレ率にさらされる人たちにオプションを提供し続け、17億人にのぼる非銀行利用者層の成人、2桁台のインフレ率を抱える12億人の人々、銀行サービスを十分に受けいられないアメリカ国民の13%に対し、財産の効果的な保管手段となるのだ。
しかし、お互いを必要としないとは言え、現実には、お互いに害を与える訳でもない。ウォール街がビットコインを完全に受け入れれば、より多くの収益という形で、ウォール街にはより多くのマネーがもたらされる。そしてビットコイン価格の上昇という形で、ビットコイン保有者にもより多くのマネーがもたらされる。
ビットコインとウォール街はお互いを必要とはしていないかもしれないが、お互いの存在があった方がより幸せなのかもしれない。
|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
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|原文:‘Wall Street’ Doesn’t Need Bitcoin; Bitcoin Doesn’t Need ‘Wall Street’