2022年8月の暗号資産(仮想通貨)マーケットは、好調だった7月から一転し、再び下落相場となった。メタバースやDeFi(分散型金融)セクターはそれぞれ-23%、-21%と大幅下落。
一方、取引所トークン(暗号資産)やプライバシーコインは、比較的底堅くそれぞれ-3%、-4%に留まった。
年騰落率(表最左端の列)に目を向けてみよう。直近1年間で軒並み2桁下落したマーケットの中で唯一、-5%と健闘したのがメタバースのセクターだ。
8月に健闘したメタバース系トークン
このセクターの代表銘柄は、ディセントラランド(MANA)、サンドボックス(SAND)、アクシー・インフィニティ(AXS)、エイプコイン(APE)、STEPN(GMT)である。
APEは2022年9月19日現在、時価総額が15億ドル(約2,150億円)を超える大型のトークン。その保有者はWeb自律分散型組織(DAO)「ApeCoin DAO」に参加し、プロジェクトに主体的に関わったり、そのエコシステムの中で決済に利用することができ、ガバナンストークンとしての側面とユーティリティトークンとしての側面の両方を持つ。
ビットコインのドミナンスに異変
ビットコイン(BTC)もご多分にもれず、月間で14%の下落を記録した。8月上旬は、月初の23,333ドルからじわじわ値を上げていき、1日の終値として月間最高値24,434ドルをつけたところで、8月13日以降は急落。2万ドルをなんとか死守する形(20,024ドル)で8月を終えた。
従来の傾向からすると、暗号資産マーケット全体が下落トレンドにある際はBTCのドミナンス(マーケット全体に対する時価総額の割合)は上昇する傾向にあるが、興味深いことに8月は対照的な動きを見せた。月初は40%だったドミナンスが、月末には37%まで低下したのだ。
その理由はなんだろうか。一つの仮説を立てるとすると、それはイーサリアム(ETH)が関係しているかもしれない。
Mergeの前夜祭に踊るクジラたち
アルトコインの代表格であるETHは、コインマーケットキャップ(CoinMarketCap)によれば、月初18.9%台だったドミナンスが、8月末には19.6%程度まで僅かに上昇した。3ポイント下げたBTCとは対照的だった。
クラーケンのリサーチチームである「クラーケン・インテリジェンス(Kraken Intelligence)」は、BTCのクジラを1,000BTC(約26億円)以上を持つアドレス、ETHのクジラを1万ETH(約18億円)以上を持つアドレスと定義している。
ドミナンスの推移が対照的だったように、これらクジラたちの動きも8月は対照的だった。
BTCのクジラは8月のマーケットを静観した。クジラによるBTC保有量は791万BTCから789万BTCに微減、クジラの数は2,142アドレスから2,153アドレスへと微増した。一方のETHのクジラは、保有量を一時8,140万ETHまで高め、そのアドレス数は月初の1,289から1,313アドレスまで急増した。
活発なETHのクジラの動きは、おそらくイーサリアムの大型アップグレードである「Merge(マージ)」への期待感を表していると言えよう。
先日、9月15日夕方ごろ(日本時間)にイーサリアムはコンセンサスアルゴリズムがプルーフ・オブ・ワーク(PoW)からプルーフ・オブ・ステーク(PoS)へと無事に移行した。これにより、これまでマイニングによって支えられてきたイーサリアムは、今後ステーキングにとって代わられ、今後のエネルギー消費は、従来の99.5%以上とも言われる大幅な削減となる。
イーサリアムの共同創設者ヴィタリック・ブテリン氏によれば、Mergeの完了は、イーサリアムのロードマップ全体における達成率55%に位置付けられている。
今後予定されているアップグレード「Shanghai(シャンハイ)」により、ステーキングされていたETHの引き出しが可能になり、その後もスケーラビリティの改善のためのシャーディング実装などのアップグレードが計画されている。
ETHをめぐるクジラの盛り上がりは今後も続くのか、目が離せない。
吉田友斉:慶應義塾大学経済学部卒業。新日本監査法人(現 EY新日本有限責任監査法人)にて大手金融機関の監査、アドバイザリー業務等に従事後、金融庁に入庁。検査局において金融機関の検査業務に従事。2018年7月に暗号資産(仮想通貨)取引所「Kraken」を世界的に運営する米国Payward Inc.に入社。2018年11月Krakenの日本法人であるPayward Asia株式会社の財務・リスク・コンプライアンス部門統括取締役に就任。2022年7月より現職。 公認会計士(日本)。クラーケンHPはこちら:https://k.xyz/3Bt
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|編集・構成:佐藤茂
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