私は今月22日、暗号資産データ企業メッサーリ(Messari)主催のカンファレンス「メインネット(Mainnet)」に参加した。盛況ではあったが、米CoinDeskが6月に主催した「コンセンサス(Consensus)」に比べると、少し賑わいを欠いていたと言わざるを得ない。
しかし、Consensusがなければ、総合的な暗号資産カンファレンスとしては、Mainnetが最高のものだったかもしれない。その違いは主に、タイミングによるものだ。Consensusは熱狂的な強気相場の尻尾を捕まえていたが、今は間違いなく、弱気相場の真っ只中。
仕込みの冬
暗号資産における弱気サイクルは毎回、起業家やエンジニア、その他関係者にはある程度の安堵感を持って迎えられる。預金やユーザー、メインストリームからの注目を追いかける終わりのない競争から解放され、技術面でも、戦略面でも、長期的視点を持って開発することに力を注げるからだ。
Mainnetでは、各プロジェクトが今回の弱気相場でどんなところに力を入れているのか、垣間見ることができた。
主要テーマの1つは、分散型金融(DeFi)やその他のオンチェーンサービスにおいてさらなる資本効率を追求する金融、エンジニアリングにおける動き。つまり、より少ない担保から、より多くのレバレッジや流動性を安全に獲得するための方法を見つける、ということだ。
これは、将来的には競合と差別化を図るための大きな強みとなるかもしれない。もちろん競争の激化によって、やり過ぎや失敗が生じることも間違いないだろう。
もう1つの重点分野は、わかりきったものだが、暗号資産アプリケーションに一段とユーザーフレンドリーなフロントエンドを開発すること。今月に発生したマーケットメーカー「ウィンターミュート(Wintermute)」の大規模ハッキング事件によってまた浮き彫りとなった通り、セキュリティに関しては、答えの出ていない大きな問題が複数存在する。
これらは、弱気相場の間に取り組むには特に理想的な問題だ。素早く動かなければいけないというプレッシャーなしで、壊れにくいものを慎重に開発することができるのだから。
もちろん、そのような開発には資金が必要だが、収益も個人投資家からの投機マネーも大幅に減少した。しかし、ありがたいことに、ベンチャー投資は間違いなく続いている。
最近資金調達ラウンドを完了させたある起業家によれば、弱気相場においては、より大きな投資は一段と少ない組織に向けられているそうだ。つまり、ベンチャーキャピタルは依然として、暗号資産やブロックチェーンに投資を続けているが、1年前よりもずっと選り好みするようになっているということだ。
それは結構なことだが、それでは十分ではない。インフレなどのマクロ経済的圧力と、個人投資家が被った広範な損失の組み合わせによって、今回の弱気相場における大きな課題は、次なる強気相場が確実にやって来るようにすること。暗号資産報道に関わって10年経つ私自身、初めて懸念していることである。
極度なサイクルの循環というのは、暗号資産業界誕生以来その特徴となってきた。それはもちろん、暗号資産に限ったことではない。今年になって私たちは、AOLが接続用のCD-ROMを初めて配布してから30年も経った今でも、テック市場が痛ましいほどの下落を経験することを知った。
暗号資産におけるサイクルは、とりわけ厳しく痛みを伴うものとなり得る。それは暗号資産がいまだに、おおむね投機的テクノロジーだからであるだけでなく、個人投資家に対する制約や保護措置がほとんど不在のまま、彼らが手を出すことができる業界だからである。
投機を超えた真のユースケース
だからこそ今回の弱気相場は、暗号資産の歴史の中でも最も大切なものとなるかもしれない。2020年から2022年にかけての前例のない強気相場の中、暗号資産の過去のリターンに惹かれて参入した個人投資家の数はクリティカルマスを迎えた。
取引所、NFT(ノン・ファンジブル・トークン)の作り手、その他個人投資家に重点を置いた組織は、大型スポーツイベントでのコマーシャルや、主要なメディアへの登場によって、喜んでさらなる個人投資家を誘い込んだ。
その後個人投資家は全体的に言って、一時的なバブル(BTCやETH)や、欠陥だらけ、あるいは詐欺的なプロジェクトの破綻によって、激しい痛手を負ったのだ。
私はMainnetの場で、ターゲットとして大口投資家のクジラ、デイトレーディングを行うディジェン(利益最重視でしっかりとしたリサーチをせずに向こう見ずな投資をする人)、そして普通の人たちの間でどのような戦略的バランスを取るかについての討論会で司会を務めた。
多くの暗号資産プロジェクトが陥る可能性のある落とし穴は、多額で簡単に手に入る収益はクジラやディジェンたちからやって来るが、彼らは同時に超機敏な「回転マネー」であり、投資を引き上げて、APR(年換算利回り)がほんの数%でも良い新しいプロジェクトへと移っていっててしまうこともあるという点だ。
さらに重要なことに、ディジェンやクジラは投機家であり、流動性を提供してくれる存在であって、厳密な意味での「ユーザー」ではない。市場のサイクル性を徐々に減らしていくために暗号資産プロジェクトは、既存のサービスに打ち勝つ実際的なユースケースを見出す必要がある。
今のところ、わかりやすいユースケースはかなり限られている。例えば、国境を越えた決済(BTCにとって最も意義のあるもの)やNFT(ETHにとって最も意義のあるもの)、そしてこれらには少し劣るが、ゲーム。こちらは巨大な市場を抱えているが、暗号資産の強みがそれほどはっきりとしてはいない。
このリストには、はるかに多くのエンドユーザーサービスやプロダクトを加えられるはずだ。スループットやユーザーインターフェイスの点で、テクノロジーがさらに進化するまで登場しないものもあるだろう。
しかし、暗号資産業界はそれらを大至急必要としている。弱気相場の明らかなメリットの最後の1つは、投機家たちが後退することによって、真のメリットを提供する本当のプロダクトに対する需要を見つけ、試すことがはるかに簡単になること。これは今、ブロックチェーン起業家たちの目の前にある課題である。
そして最後に、ここまで読んでくれた人たちのためにおまけを。噂によると、米小売大手ウォルマートを所有するウォルトン家が、自律分散型組織(DAO)に興味を持ち始めているらしい。そして、あるレイヤーブロックチェーン企業が、莫大な額の資金調達ラウンドの発表をわずか数週間先に控えているとか。
|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:The Most Important Bear Market in Crypto History