パウエルFRB議長は2022年版ボルカーか?その答えはビットコインにとっても重要だ【コラム】

ジェローム・パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長がインフレとの戦いに勝ったとしたら?

FRBによる先週の大幅利上げを受けて、パウエル議長を前任者の1人ポール・ボルカー氏と比較して論じる専門家たちがいる。ボルカー氏は1980年代、カーター政権とレーガン政権でFRB議長を務め、積極的な金融引き締め政策を推し進めた人物だ。

アメリカは景気後退に陥ったが、インフレ率は一貫して低水準に抑えられた。そのおかげで、アメリカは数十年に及ぶ「グレート・モデレーション(大いなる安定期)」を享受。ますますタカ派的な色を強めるパウエル議長も、同じような成功を収めることができるだろうか?

その点を論じる前に、この問題は、法定通貨ベースの通貨政策が抱える人間的欠点から自由で、購買力を守れるより信頼できるシステムの中心となる「安定した通貨」として支持されるビットコインにとって、極めて大切なものであることを指摘しておこう。

ビットコインの成功は、既存の法定通貨システムと、1971年の金ドル兌換停止以来通貨政策を決定してきた中央銀行を人々が信頼するかどうかに大きくかかっている。

人々が中央銀行に対する信頼を失えば、法定通貨は低迷し、インフレ圧力は悪化、人々は金(ゴールド)やビットコインなどの代替資産へと向かうだろう、ということだ。

つまり、ビットコイナーからすると、今はパウエル議長が大きく試される時なのだ。

暗号資産市場が大幅に落ち込んでいることを考えれば、ビットコインも大きな試練の時を迎えている。しかしここでは、パウエル議長の方に注目したい。彼は次なるボルカー氏になることができるのだろうか?

虚構と現実

ボルカー氏は1980年代、ほぼ単独で国際的法定通貨システムへの信頼を回復させた。不運な前任者バーンズ氏とは対照的に、経済の長期的健全性を高める、政治的には難しい立場を取ったことで、彼は金融業界において聖人のような立場を獲得したのだ。ボルカー氏はまた、政府や有権者に対して、中央銀行の独立性の大切さを示してみせた。

エコノミストたちの間では現在一般的に、国の政治指導者がボルカー氏の遺産を無視し、中央銀行が困難な決断をすることを阻めば、市場によって痛い目に合うと考えられている。ジンバブエ、アルゼンチン、トルコなどでの通貨の失敗が、その例として挙げられる。

それとは対照的に、ボルカー氏時代の1982年の景気後退以降、アメリカ経済がおおむね安定し、ほとんど中断されることなく長期的に拡大し、それと並行して、S&P 500が昨年のピーク時までに4倍以上増加するなど、株式市場が40年間も成長してきたことは、ボルカー氏的なルールに従った人たちへの見返りの証拠として挙げられる。

しかし、現実ははるかに複雑だ。

先日論じた通り、ドルが主要な準備通貨であるために、アメリカは通貨政策において固有の自由を持ち、他国にはその影響が及ぶ。

関連記事:「迫り来る通貨危機:新しいモデルが必要だ【コラム】」

2008年の金融危機の後、FRBの極めて緩和的な通貨政策によって、「ホットマネー」が発展途上国に流入。それらの国での政策決定は、二重に困難なものとなった。

ドルの価値が再び上がっている現在、ホットマネーはアメリカに逃げ帰ってきており、あらゆる国の中央銀行は、自国経済の必要性とは関係なく、自国通貨を守るために、FRBの引き締め政策を追従することを余儀なくされている。ボルカー主義は、公平な場で働いている訳ではないのだ。

政治的リスク vs 評判上のリスク

このような国際的不均衡と、それが可能にした「量的緩和」政策は、限界を迎えている。それらは、アメリカやそれ以外の国々で莫大な債務の累積をもたらしたが、金利が上がっている現在、それに対処することははるかに難しくなっている。

政策の転換は、膨大な数の企業破綻と経済縮小をもたらすが、それでもインフレを抑えられる保証はない。戦争による物価上昇、サプライチェーンの非効率性、自己達成的な凝り固まった見通しによって、インフレはそのままになる可能性もあるのだ。

そのような環境で、パウエル議長指揮下のFRBは何をするだろうか?さらに押しを強めて、アメリカ経済をさらに深い穴へと押し込んでいくのだろうか?

私はそうはならないと考えている。政治的にあまりにリスクが大き過ぎるからだ。アメリカの企業が大挙して破綻し、大量のアメリカ国民が職を失えば、通貨政策を再び緩和するように求める圧力は耐え切れないほどになるだろう。

そうなれば、ローコストのマネーは再び、リスクの高い資産を求めて世界へと流出し、ビットコインはそのような流れの目的地の1つとして、恩恵を受けるはずだ。

しかし、より大きく長期的な問題は、FRBがこのような方針転換を迫られるかどうかではなく、パウエル議長の新しく大胆な姿勢が、彼自身やその他の中央銀行の評判に長期的にどのような影響を与えるかという点だ。

パウエル議長が投機的な行き過ぎを落ち着かせることに成功し、予測可能な穏やかなインフレの時代を迎え入れることができれば、法定通貨システム全体と、その中心となるドル基盤のアメリカを、この先何年にもわたって支えることができるだろう。そうなれば、ビットコインやゴールドが、法定通貨に代わるものとして自らの立ち位置を主張することは困難になる。

この点には多くがかかっている。ビットコイナーは、ドルがインフレによって一貫して購買力を失ってきたと主張するだけでは不十分だ。多くの人は、予測可能性を求めているのだ。

グレート・モデレーションの期間中、投資家たちは年間2%のインフレが手持ちのドルの価値を減じていることを心配するどころか、その一貫性に満足していた。同じような安定した状態に戻ることができれば、法定通貨にとっては大勝利である。

1982年との違い

しかし、成功とは何を意味するのだろうか?究極的には、結果を私たちがどのように捉えるか次第だ。パウエル議長は、ボルカー氏が直面したよりはるかに敵対的な環境で、自らの戦略を説明しようとしているというところが問題なのだ。

1982年にはアメリカは追い風を受けていた。コンピューター革命が始まったばかりで、アメリカの生産性は急成長を遂げようとしていた。一方で、インターネット時代の最も破壊的な側面は、まだ遠い先のことであった。

アメリカは冷戦に勝利を収める目前で、ベトナム戦争による社会的緊張はおおむね解消されていた。何よりも、貧富の格差は今とは比べものにならないほど小さかった。アメリカ人は楽観的だったのだ。

時は進んで2022年。ウクライナでは戦争が進行中で、ロシア(そしてもしかしたら中国も)はドル中心の国際的金融システムから出て行った。地球は気候変動の危機に直面し、ティーンエイジャーや20代の若者たちは、世界的パンデミックを経て、硬直的な20世紀の資本主義的秩序に対して、根強い不信感を持っている。

一方、FRBや政策決定者たちが、メッセージをコントロールすることははるかに難しくなった。FRBが金利調整を示唆するために使う債権トレーダーたちとのコミュニケーションについて話しているのではなく、私たち一般市民とのコミュニケーションの話だ。

結局のところ、通貨の価値を守る責務を負った中央銀行にとって大切なのは、通貨を日常的に使う人たちの評価だ。最近では一般市民の見解は、ソーシャルメディアという、ボットや荒らしが蔓延る予測不可能で無秩序なシステムによって形作られている。このために、政策決定者たちがメッセージをコントロールし、信頼を維持することは非常に難しくなっているのだ。

パウエル議長にとって、成功が保証されているとはとても言えない。翻って考えれば、ビットコインは今のところ、その重要性を保ったままなのだ。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:ジェローム・パウエルFRB議長(Rachel Sun/CoinDesk)
|原文:Is Powell 2022’s Paul Volcker? The Answer Matters to Bitcoin