イーサリアム開発者や研究者にとって最も大切なイベント「デブコン(Devcon)」は来年、イスタンブールで開催されるかもしれない。
イスタンブールでの開催が実現したとすれば、真にパワフルなコミュニティへと進化を遂げたトルコの暗号資産(仮想通貨)コミュニティの働きかけのおかげである。
今年のDevconは10月、コロンビアのボゴタで開催されるが、主催者たちはすでに、来年の開催地の検討を開始した。Devconフォーラムでの先日の調査では、7つの候補地が挙がっている。
数人の若いトルコ人がイスタンブールを提案し、大きなサポートを受けた。イスタンブールでの開催を支持するコメントの数は、次につけるベトナムのナチャンをはるかに凌いでいるのだ。
トルコの暗号資産コミュニティを牽引する人たちはすでに、トルコの歴史で最も大切な暗号資産イベントとなるDevcon開催に向けて、非公式の委員会を設立した。
なぜイスタンブールか?
最近のある市場リサーチによれば、800万人のトルコ人が暗号資産を保有している。高いインフレ率(前年比80%)と、現地通貨のトルコリラ安(米ドルに対して前年比126%安)を主な理由に、トルコの人々は価値を維持する代替投資先を探しているのだ。
歴史的には、主に外国通貨やゴールド(金)がインフレに対するヘッジとなってきたが、暗号資産も人気のオプションとして台頭してきており、IMF(国際通貨基金)は昨年10月に発表した「国際金融安定性報告書」の中で、「クリプト化(cryptoization)」という言葉を生み出したほどだ。
2023年Devconの開催地にイスタンブールを選ぶには、暗号資産とは関係ない理由も数多くある。まず1つ目は、アクセスのしやすさだ。イスタンブールには毎日、117カ国から約600の直行便が飛んでおり、ほとんどの観光客はビザなし、あるいは空港で取得できるビザで入国が可能だ。さらに、ヨーロッパやアジアに近い。そして、安全で安価な地域にたくさんの魅力的な場所が集まっている。
これらはすべて、しっかりとした理由だが、主催者に選ばれるにはそれだけでは不十分だ。活発な暗号資産コミュニティがあるか、その地でカンファレンスを開催することで、地元コミュニティに違いをもたらすことができるか、といった点を主催者は考慮するだろう。
トルコの開発者コミュニティは、暗号資産保有者の数に比べると比較的小さいものだが、大学生が主役となって、急成長を遂げている。トルコは世界でも人口構成が最も若い国の1つ(人口の約半分が30歳未満)で、840万人が高等教育を受けている。
暗号資産に対する関心はどうだろうか?最新の情報では、大学のブロックチェーンクラブは41団体。その中でもとりわけ大きなイスタンブール工科大学のITU Blockchainは2500人ほどのメンバーを抱えている。
数年前、イスタンブール初の大学ブロックチェーンリサーチセンター「ブロックチェーンIST」のアドバイザーに私が任命された時には、クラブの数は10にも満たなかったのだ。
なぜそれほど劇的に増加したのだろうか?いくつかのブロックチェーンクラブに聞いてみると、似たような答えが返ってきた。
成長意欲
まず、若い世代の間で、国際市場への一体化を求める機運が高まっている。ブロックチェーンプロジェクトがもたらすデジタルなチャンスは、この夢を実現するための主要な手段となる。しかし、ビザ要件や、主要外国通貨に対するトルコリラ安によって、若者が娯楽や就労のためにトルコ国外に出て行くことは、ほぼ不可能となっている。
それでも学生たちは、新型コロナウイルスに関連する制限が撤廃されて以降、国際的なイベントに参加し始めている。昨年12月にトルコで開催されたハッカソンの後、3つの大学のクラブのメンバーである10名ほどの学生たちが、バルセロナで開催されたアバランチ(Avalanche)のサミットに参加した。
それからまもなく、少人数のグループがアムステルダム、プラハ、バルセロナ、フランス、メキシコシティ、ベルリンで開催されたイーサリアムカンファレンスに参加した。
ボゴタで開催される今年のDevconにも、10名の学生からなるグループが参加予定だ。学生たちがこのようなイベントに参加できたのはすべて、主催者やトルコの企業、国際的な組織による奨学金のおかげであった。
トルコ現地でのいくつかの取り組みも、地元コミュニティへの関心に火をつけた。まず、アバランチハックス(AvalancheHacks)やNFT&メタバース・ハッカソン、ブロックサーカス(Blockcircus)など、ハッカソンが複数開催された。
ブロックチェーン&ビヨンド・サミット(Blockchain and Beyond Summit)やブロックチェーン・ネットワーキング・デイ(Blockchain Networking Day)などのイベントも、かなりの数の参加者を集めた。
ブロックチェーン・エコノミー・サミット(Blockchain Economy Summit)やユーラシア・ブロックチェーン・サミット(Eurasia Blockchain Summit)などの企業イベントも、企業の間での認識を高めるのに役立った。
さらに、Cyptistやミナ・ディベロッパー・ミートアップ(Mina Developer Meetup)などの最近開催された集まりは、開発者コミュニティからの関心を集めた。毎週開かれるCryptoMondaysといったイベント、近い将来にイスタンブールでETHカンファレンスを開催しようとする人たちの存在によって、その勢いは継続している。
ポテンシャルを高める
イーサリアム財団に所属するKaanは、イスタンブールにあるボアズィチ大学でブロックチェーンの授業を受講したことで、暗号資産に興味を持った。友人のほとんどは、人工知能や機械学習のクラスを取っていた。彼が学生だった頃にブロックチェーンクラブやイベントがあれば、もっと多くの友人がブロックチェーンの道に進んでいただろう。
トルコの開発者エコシステムは、トルコ人だけに限られたものではない。ロシアのウクライナ侵攻によって、ウクライナやロシアから多くの開発者が、イスタンブールやトルコの湾岸地域へと押し寄せた。
私の友人は、3つの企業が200人近いエンジニアを移住させるのに手を貸した。このように新しい人材が流入することで、トルコの開発者コミュニティの成長にはプラスの影響がもたらされるだろう。
まとめると、トルコにはしっかりとしたポテンシャルを持ちつつも、国際的暗号資産コミュニティへのアクセスの限られた若者たちがいる。その中の少数は奨学金を受け取り、国際的イベントに参加したり、賞を受けることができる。
そのことが地元で評判となる一方、地元で開催されるイベントによって、企業の間での認知度を高め、新しい人材を引き込むことができる。さらに、国外からの新しい人材が、すでに活発な地元市場へと流入している。
少数の学生を国際的なイベントに送り込むだけで、これだけの結果が得られるとしたら、世界中からイスタンブールへと開発者が集まったら、どれほどの成果が得られるか、想像してみて欲しい。
トゥラン・サート(Turan Sert)氏はテック起業家で、ウェブ3を専門とした金融ライターでもある。現在はトルコにあるブロックチェーンISTセンター(BlockchainIST Center)とパリブ(Paribu)でアドバイザーを務めている。
|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Engin Yapici/Unsplash
|原文:Why Devcon 7 Should Be in Istanbul