DJスティーヴ・アオキはクリプトに夢中【インタビュー】

スティーヴ・アオキは、革命を知っている。

16歳になる前から、地下室で爆音で音楽をかける「パンクでハードコアな子供たち」のコミュニティに属していた。

「この音楽は誰でも楽しめるようなものじゃない。音楽を大切に思う人たちのためのものだ、なんて言っていた」と、アオキ氏は今になって振り返る。

子供たちは音楽を続けた。「私たちは心底真剣だった。必死に打ち込んでいた。部屋にいたすべての人が何らかの貢献をしていた」とアオキ氏。彼らは何かを築いていた。そして1人1人が「レンガを積み、斧を手にし、貢献しなければならなかった」のだ。

そして、彼らは築いていった。貢献した。懐疑的な人たちを無視して、制作を続けた。そして何十年も経った今、アオキ氏はEDM革命の最先端にいる。地球上で最も知名度の高く、多作なDJの1人となったのだ。そして再び彼は、革命心を漲(みなぎ)らせている。「今44歳だが、また14歳になった気分だ」とアオキ氏は語る。

彼の最新の革命は暗号資産(仮想通貨)。「私はクリプト野郎だ」と語るアオキ氏。「暗号資産が大好きで、暗号資産を信じている。未来だとも思っている」からこそ、アオキ氏がウェブ3プロジェクトに関わっているのを、私たちは度々目にするのだ。

例えば、NFT(非代替性トークン)を発行したり、メタバースと実世界の架け橋となる独自エコシステム「A0K1VERSE」を立ち上げたり。ブロックチェーン型メタバースのザ・サンドボックス(The Sandbox)で「スティーブ・アオキのプレイハウス」も立ち上げ、暗号資産ファンタジーフットボールの世界で新しいリーグを作ったりもしている。音楽半分、クリプト半分と言ってもいいくらいの力の入れようなのだ。

そんなアオキ氏とのインタビューでは、ウェブ3がなぜ「コミュニケーションのための必然的な方法」となるのか、なぜどんな人とでも音楽でコラボできるのか、なぜイーサ(ETH)価格が1万5000ドルにまで値上がりすると考えているのか、なぜウェブ3懐疑派は「変化を求める人たちを甘く見るべきではない」のかなど、多岐にわたる話題について話ができた。

※下記インタビューは要約、編集されています。

長期的視点で

──初めて暗号資産に関わったのは?

2017年末のことだ。50万ドルをビットコインとイーサに投資した。当時ビットコインは1万1000ドルほどだったと思うが、その後1万9000ドルまで高騰し、それから3000ドルまで値下がりした。

──激しいスタートでしたね。

7000ドルになった頃に、みんなビットコインを見限って「価値がなくなるよ」と言っていた。自分は「0ドルになったら、俺はタイタニックの船長だ。一緒に沈んでみせる」と思っていた。

そして4000ドルまで値下がり。「このまま行こう。この船と一緒に死んでみせる」と思っていた。パニック売りするような人間ではないと。

──そこまで断固としてHODL(長期保有)する自信はどこから来ていたのですか?

暗号資産の長期的未来を見据えているだけだ。途中で脱落していくコインもあるだろう。それはあらゆるものに共通することだ。しかし、暗号資産全体が無価値になることはない。

「暗号資産業界全体が無価値になって、存在しなくなることがあるか?」と自分に聞いてみるんだ。私の答えはノーだ。明らかに存続していくだろう。メインストリームへの普及がいつ起こるか、私には分からないが、間違いなく無価値になることはない。沈没はしないのだ。

──NFTやその他の分野にはどのように参入していったのですか?

アルトコインやガラクタのようなコインが台頭してきて、私もそれらに投資した。シバイヌコインやドージコインなどの変なコインに。それから、ゲームストップ株への対応も素早かった。私は多くのものにおいて、動きが素早いんだ。(米掲示板レディットのフォーラム)WallStreetBetsをフォローしていた。

私は間違いなく投機家だし、全体的に「FOMO」(機会を逃すことへの恐怖:fear of missing out)に取り憑かれている。暗号資産の場合、少しのお金を投資するだけでも、ボラティリティが高いから楽しいんだ。本当にギャンブルみたいなものだよ。

──スリルを求めるギャンブル好きの傾向があると思いますか?

アドレナリン中毒だから、そうなんだろう。スノーボードやスカイダイビングみたいなエクストリームスポーツが好きだし。嵐の中にいるけど安全という、信頼できる混沌が好きなんだ。

──「信頼できる混沌」というのは良い言葉ですね。

カジノでギャンブルに味を占めてしまった。ブラックジャックもやっていたし、ポーカーは大好きだ。ポーカーは15〜20年やっている。けど、カジノには敵わない。カジノの楽しみを知ってしまったけど、それは止めた。友達とスポーツで賭けをやったりするのも楽しいよ。ポップコーンに塩をかけるみたいなもので、一段と楽しくなるんだ。

──暗号資産の分野で次に参入したのは?NFTでしょうか?

そうだ。ずいぶん深く入れ込んだよ。

──NFTのどこかそんなに魅力的なのでしょうか?

NFTはアイデンティティ、コミュニティ、所有権に関わるものだ。これらは、私にとってとても大切なものなんだ。

私はクリプト野郎だ。暗号資産が大好きなんだ。信じているし、未来だと思っている。人々が常に使う交換の手段になるだろう。人々が信じているし、私も信じている、だから投資するんだ。

しかし、ツイッターのプロフィールにビットコインやイーサの画像を使うかと言ったら、それは絶対ない。

──それはなぜですか?

温かみがないからだ。賛成はしているが、心の底からつながっている訳ではない。私はアートコレクターだ。アートやスポーツカードが大好きだし、懐かしい感じも大好きだ。私は特定のものに情熱を感じる。例えば私の腕には、ジャン=ミシェル・バスキアのアートのタトゥーがある。他の人はやるかもしれないが、私がビットコインのマークのタトゥーを腕にすることはない。

同じように、プロフィールにビットコインのマークを入れる人もいるかもしれないが、私はむしろ、ReplicantXのアートをプロフィールに入れたい。もっと深いストーリーが背景にあるからだ。「ドラゴンボール」や「ザ・シンプソンズ」などにハマるのと同じように、何かその世界に引き込んでくれる要素が必要なんだ。

デジタル世界と実世界

──NFTに思い入れが強い理由は他にもありますか?

NFTとメタバースはすでに存在している概念実証に基づいている。私たちはデジタルスペースに暮らしていて、それは実際の暮らしに大きな影響を持っているんだ。

インスタグラムでいいねをもらえること、ティックトックやユーチューブで動画を閲覧してもらえること。こういったことは、私たちに大きな意味を持つ。実世界で他人に褒められるより意味があるかもしれない。どういうことが分かるかな?

──もちろん。

そういったプラットフォームでどれくらい多くの「フォロワー」を抱えているかが、自己認識に大きな影響を持つんだ。世界に向けて自分のアイデンティティを大きく刻んでくれるもの。メタバースは、その延長だ。

これから数年で、ウェブ3へのオンボーディングのぎこちなさがスムーズになっていけば、社会で、そしてデジタルの世界で私たちが交流する方法が変化していくだろう。

──デジタルの世界について仰っていたことは理解できます。しかし、特にウェブ3がアオキさんの心に響くのはなぜなのでしょう?

ソーシャルメディアを何十億人もの人が使っていることは私も否定しないし、私たちはそうやって社会的に交流している。これが基盤で、その点は皆が同意している。しかし、ソーシャルメディアでは、コンテンツを所有できないというのも事実だ。同意ボタンを押すからだ。

フェイスブックやツイッター、ティックトックでアカウントを作る前に、マーク・ザッカーバーグなんかが自分のコンテンツを所有することに同意してしまっているんだ。彼らのルールで、彼らの場。彼らの家で遊ばせてもらっているようなものだ。

そういう仕組みなんだ。他にオプションがないから、私たちはそれを受け入れている。しかし、代わりとなるオプションが登場してきたんだ。それがウェブ3だ。

この先数年で、自分のデータ、コンテンツを所有できて、自分で条件を設定できる場で交流できるとしたら、それとザッカーバーグが所有する世界と、どちらが良いのか、っていう話なんだ。人々の答えはとてもシンプルだろう。みんな、自分で所有できる世界の方が良いはずだ。

その世界に人々がまだ足を踏み入れていないのは、ウェブ3の仕組みを理解できていないから、オンボーディングの仕組みが整っていなくて、怖い世界だから。ハッキングなんかの話も聞こえてくるし、理解できないんだ。まだまだ新しい世界だから。けれどウェブ3の世界における所有権の哲学は、デジタルスペースにおけるコミュニケーションや交流、売買、取引の必然的方法の基盤になるものだ。

──メタバースはその中でどんな立ち位置にあるのでしょうか?

ゲームを例にとってみよう。『フォートナイト(Fortnite)』や『コール オブ デューティ(Call of Duty)』など、数十億ドル規模の業界だ。人々はこれらのゲームで「スキン(キャラクターのアップデート)」を購入するが、スキンを買うのに20ドル支払ってもいいじゃないか、ということになっている。それでも、エピック・ゲームズ(Epic Games)をはじめとするゲーム会社に所有されてしまうんだが、他にオプションがないから、それでもいいじゃないかということになっている。

同じようにゲームをプレイしながらも、スキンを売買して自分で保有できるオプションが生まれてくるのだ。

──デジタル所有権がメインストリームになるには何が必要だと思いますか?

これは間違いなく、「市民の声」的なムーブメントだと思う。大きな組織がやってきてすべてが変わるトリクルダウン的なものにはならない。大きな組織は今は参入してこないだろう。そんなリスクは取らないし、その必要もない。

音楽に例えてみよう。最も支配的な音楽の形態は常に、英語によるものだった。それは長い間、反論できない事実だったんだ。

しかし今、世界で最もビッグなアーティストはバッド・バニー。彼の楽曲はすべてスペイン語だ。世界的には小さな国に過ぎない韓国のKポップグループも、音楽界を席巻している。英語で歌うアーティストたちよりも優勢なんだ。なぜか?ラジオ局が彼らの曲を流したいからではなく、ファンが彼らの曲が流れるようにしているからだ。

すごく積極的で密接なつながりを持つ音楽コミュニティが、企業からコントロールを奪っているんだ。「そうじゃない、みんなが聞いているのはこういう音楽だ」という感じでね。ストリーミングや閲覧回数は大切だからだ。ラジオ局が求めることは、重要ではないんだ。

──素晴らしい例えですね。

私はEDMカルチャー、ダンスミュージックの世界の一員だ。私たちは、アメリカのポップミュージックを扱ったりはしない。しかし、それでも大きなシェアを誇っているのは、私たちがチャートに登場すること、私たちの音楽が流れることを求める多くのファンを抱えているからだ。私はすでに、そのようなムーブメントの一部なんだ。

ウェブ3も同じように、少数の情熱を持ったファンを抱えた劣勢チームだ。変化を求める人々の集団を甘くみてはいけない。長く続けていけば、一貫して続けていけば、驚くほど遠くまで行けるんだ。

16歳になる前から、私はすごく少人数のパンクでハードコアな子供たちのコミュニティの一員だった。地下室やリビングで音を鳴らしていた。「この音楽は誰でも楽しめるようなものじゃないんだ。音楽を大切に思う人たちのためのものなんだ」なんて思っていた。しかし私たちは心底真剣で、心から打ち込んでいた。

今44歳になるが、また14歳になった気分なんだ。レンガを積み、斧を手にし、まったく新しい世界を築き上げている。一緒に砂金を選り分けて、家を建てているんだ。一緒に築き上げているんだ。

ジャンルを超えたコラボレーション

──築き上げることについて話しましょう。A0K1VERSEで目指すところは?どんな体験を生み出そうとしているのでしょうか?

構造化されたコミュニティだ。長い間ディスコードで活動をしていて、初のNFTもドロップした。真剣な議論が行われていた。だから自分達のクラブ的なものを作ろうと思ったんだ。様々なレベルがあって、それに応じて様々な特典がもらえる。

私はアーティストでクリエーターだから、これまでにやったことのない形で、コミュニティのメンバーと共に面白いことができる。

例えば、コミュニティのメンバーと曲を作って、デジタルストリーミングプラットフォームでリリースしたり。これはかなり上等なオファーだ。それが1番上のレベルで、A0K1VERSEに用意してある。実際に3人がそこまで行っている。

──ということは、A0K1VERSEのメンバーと実際に曲を作ったということですか?

まだそこまで行ってはいない。スタジオで一緒に作業して、最終的にリリースする予定だ。

──どのようにやるんですか?まったく知らない人たちですよね?「ひどいことにならなければいいが」という感じですか?

思い上がっている訳ではないが、私は自分が、世界でも最もジャンルを超えたプロデューサーの1人だと思っている。どんなジャンルでも制作できる。音楽の話だけではない。

「Neon Science」というシリーズをやったから、科学にものめり込んだ。AIが人間と統合していく未来を信じているから、アルバムに本物の科学者を参加させることがとても大切だったんだ。本当に信じているから、すべてのアルバムで科学者に参加してもらった。(科学番組の司会者を務める)ビル・ナイは、私の知る限りミュージシャンではない。

──確かに、ミュージシャンとして知られてはいませんね。

そんなこと言うと彼は、「スティーブ、そんなこと言わないでくれ」と思うかもしれない。実際サックスか何かをやるんじゃなかったかな。全然違うかもしれないけど。

他にもJ・J・エイブラムスやキップ・ソーン、レイ・カーツワイルといったミュージシャンではない人たちと多くコラボしてきた。誰とでもコラボできるよ。

一番スタジオで一緒にやってみたい人は、イーロン・マスクだ。彼がミュージシャンじゃないと言っている訳ではないんだ。なんて言ったって天才だから、ミュージシャンにもなれるだろう。楽器が弾けるかどうか、音痴かどうかなんて関係ない。全然関係ない。一緒にスタジオに入れば、一緒に楽しめるよ。

──マスク氏がこの記事を読んで、コラボが実現すると良いですね。A0K1VERSEがメンバー制クラブということは分かりましたが、メタバースの部分はどのような仕組みになっているのでしょうか?

A0K1VERSEはメンバー制ソーシャルコミュニティとして始まって、そこから成長していく。私たちのメタバースの最初のレイヤーは、Sky Podsという、リリースしたばかりのものだ。クラウドの世界に存在している。A0K1VERSEの様々なレベル用のSky Podsには、8カ月を費やした。

──具体的にはどんなものなのでしょうか?

所有するNFTをウェブサイト上で見せることができて、ウォレットやオープンシー(OpenSea)に行く必要がないんだ。スタジオもあって、様々な部屋がある。しかしそれは、第1レイヤーに過ぎない。

しっかりとした進展を見せている初のメタバースはザ・サンドボックスだ。彼らは一緒に仕事するには素晴らしいチームだよ。スティーブ・アオキのプレイハウスでは、私の脳みそからフォームプールに飛び込めるクエストがある。とにかくすごいんだ。独自のウォーターパークももうすぐリリースするよ。

──メタバースでどうやってウォーターパークを作るんですか?

そこが面白いんだよ。何でもできて、楽しめる。「何でそんなところに行く必要があるんだ?」と聞いてくる人には、「『The Sims』や『Minecraft』をどれくらいの人がプレイして育ったか知っているか?」と聞き返したい。

──確かに、かなりの数の人ですね。

そのような世界で何かを築き上げること、そのようなゲームをプレイするのが好きな人は、何百万人もいる。何百人もの人がそのようなゲームをして、自分だけの街を作り上げていったんだ。

メタバースも基本は同じだが、自分だけのキャラクターがいる。キャラクターを売ることもできるし、クエストを作り出して、売買や取引もできる。

──暗号資産ファンタジーフットボール「DraftKings Reignmakers」にも関わっていますね。どのような経緯で?

私の好きな要素3つがすべて組み合わさっているんだ。私はカードが大好き。スポーツカードだ。信じられないようなスポーツカードコレクションを持っている。私のインスタグラムライブを見たら、そのほとんどが、フットボールやバスケ、サッカーのカードのパックを開けているところの動画だよ。

しかし、普通のカードのパックを開ける代わりに、自分のNFTを開けることができるんだ。自分で所有するカードだ。そのカードが、自分のファンタジーチームを表している。NFTを所有して、マーケットプレースで取引もできるし、もちろん最終的には、最高のチームを作って賞を獲得するのが目標だ。

──暗号資産業界について、最後に何か予測をお願いします。

NFTに関しては、この先5年間は間違いなく、アップダウンが激しいだろう。コミュニティ作りについて人々はもっと賢くなるだろう。素早くお金儲けする、というだけの話ではなくなる。長期的なビジョンが生き残るんだ。私はギャリー・ヴァイナーチュック(Gary Vaynerchuk)と同意見で、NFTの98%は消えていくと思う。どこの業界でも同じことさ。

ビットコインについては、この先5年で10万ドルまで値上がりするだろう。イーサは5年で1万5000ドルだ。私はNFTの大ファンだ。みんながイーサリアムブロックチェーンでNFTを買っているし、本当に実用性があると思う。

ビットコインを倒すことはできない。ビットコインはパワーだ。他のコインにも投資したことがあるが、ビットコインとイーサが私のお気に入りだ。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:スティーヴ・アオキ(Sterling Munksgard / Shutterstock.com)
|原文:‘I’m a Crypto Guy’: Why Steve Aoki Believes in Web3