暗号資産(仮想通貨)マイニング企業は年初から大いに苦戦してきたが、流れが変わる可能性が見えてきた。
その証拠の1つは、バークレイズ(Barclays)によってもたらされた。英銀大手の同社は、米国最大級のマイニング企業コア・サイエンティフィック(Core Scientific)株に関するレポートを発表し、「オーバーウェイト」の評価を下したのだ。
「オーバーウェイト」の評価は、「今すぐこの会社の株を買いなさい!なんてお得なんだ!信じられないくらい魅力的だ」という格付けではない。「他に比べたら、割と良いパフォーマンスが期待できる」程度のもの。
つまり、「マイニング企業の株がすべて値上がりしなかったとしても、少なくともコア・サイエンティフィック株は競合ほどは値下がりしないだろう」ということだ。
これは、マイニングの復活を強く示唆するものではないが、「すべては無価値になって、私たちの栄光の日々はもうおしまいだ」というよりは客観的にもマシだ。しかし、この1件の株式格付けと、ここ2週間の好調な株価以外にも、マイニングに対する流れは変わってきている。マイニングは再び、クールなものになっているのだ。
銀行の株式リサーチチームが企業について調査・報告するのに時間を費やすのは、a)銀行がそれら企業が重要な業界にいると考えるから、b)対象となる企業はいつの日か資金調達を必要とするかもしれず、高評価をした銀行を利用するかもしれないからだ。
バークレイズがコア・サイエンティフィックについてレポートを書いたこと自体は、それほど常識外れな訳ではない。しかし、このレポートに「ビットコインの長期的な可能性について私たちは前向きなままである」や、「私たちのBTCに対する長期的に強気の見解(中略)を考慮して、コア・サイエンティフィックを好意的に見ている」といった文言が含まれていたことは、少なくとも私にとっては少し驚きであった。
バークレイズは、影響力を得るために迎合的な意見を書くような無名銀行ではない。ビットコインが長期的な可能性を持っているという考えが、ますます多くの銀行に広がっていけば、これらの銀行の関係者たちは、ビットコインネットワークの安全性を確保するマイニング企業にサービスを提供するチャンスに色めき立つだろう。
今のところは、ウォール街の話は置いておき、アフリカに目を移そう。
アフリカ発の明るい話題
ブロックチェーン調査企業チェイナリシス(Chainalysis)は2週間前、暗号資産事業がサブサハラ・アフリカ地域で活況を呈していることを示唆するレポートを発表。チェイナリシスが調査した地域の中で、サブサハラ・アフリカは取引高では最小だった。しかし、データをより深く掘り下げてみると、同地域では、草の根での暗号資産ムーブメントが起こっていることが見えてくる。
アフリカの人々は、1000ドル未満の個人支払いを世界で最も多く(80%)行い、他の地域に比べて割合的にはるかに多くのピアツーピアの取引(6%)行う。
CoinDeskの編集者クリスティー・ハーキン(Christie Harkin)氏は以下の通り、エルサルバドルでの暗号資産の普及と比較することで、大切な視点を提供している。
「(エルサルバドルの場合)ビットコインの使用はトップダウンで導入された。(中略)それとは対照的に、アフリカの国々における暗号資産の利用や普及率の高さは、ボトムアップのもの。多くの場合、政府が望まないにも関わらず、普及が進んでいるのだ」
これは重要な点だと、私も考えている。エルサルバドルでビットコインを法定通貨にする法律は、湾岸の街エル・ゾンテのビットコイン・ビーチで生まれた循環型ビットコイン経済に触発されたものだが、それでもビットコインの普及を義務付ける法律なのだ。
マイニングに話を戻そう。
ビットコインマイニングと潮流の変化
先週ツイッター界では、グリッドレス(Gridless)という企業がケニヤの農村部に導入した超小規模水力発電所の動画が拡散されていた。
Our friends @GridlessCompute doing some incredibly cool work monetizing micro-hydro plants in Kenya.
— NickH 🛡️ (@hash_bender) 2022年10月4日
They build these small hydro plants @ ~100KW which is much much more than the village needs.#Bitcoin #mining #Kenya #Africa #energy
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「GridlessComputeが、ケニアにある超小型水力発電所から収益を上げる素晴らしい取り組みを行なっている。
村々が必要するよりはるかに多い〜100KWの小型水力発電所を建設しているのだ。」
これは素晴らしいことだ。安定した電力を持たなかったケニヤの村が今では、周りの生態系をあまり邪魔しない形で電力を手にしている。おまけに、コストを相殺するために、余った電力でビットコインのマイニングも行っているのだ。
この水力発電所は意図的に過剰な容量を持つように作られており、ルクソール・テクノロジーズ(Luxor Technologies)のニック・ハンセン(Nick Hansen)CEOのツイートによれば、 ビットコインマイニングを組み合わせることで、電気料金を最大で90%も削減できている。
私がここしばらく見てきた中でも、とりわけクールな取り組みの1つであることは間違いない。電力が有用なものだからだけでなく、ビットコインについてよく言われる主張を裏付けるものでもあるからだ。それは、ビットコインマイニングは、行き場のない安価な再生可能エネルギーを収益化する理想的な方法だ、というもの。
私が以前指摘した通り、「(ビットコインマイニングは)行き場のないエネルギー源の近くにあるコミュニティにとって、経済的に強い影響を持つ可能性がある。安価なエネルギー源への近さから、利益を上げることができるから」だ。
これは1つの例に過ぎないが、田舎のコミュニティはビットコインマイニングのおかげで、より安価な電力を享受することができる。もっと多くの事例がすでに存在するはずだし、もっと生まれてくるだろう。
この事例が素晴らしいもう1つの理由は、ビットコインがどれほど断片化し、分散化できるかを象徴しているから。巨大な倉庫でビットコインをマイニングしている、洗練された上場企業もあるが、地方コミュニティでも、同じくらい簡単にビットコインをマイニングできるのだ。
楽観の理由
前向きなストーリーを挙げたが、もちろん、マイニング事業が今年、打撃を受けたという現実は変わらない。5月に私が次のように指摘した通りだ。
「それでも、マイニング業界全体を心配する理由は特にない。ビットコインは大丈夫だろう。しかし、登場人物は変わっていくかもしれない。資本市場は、突然使えなくなるからだ。ビットコインはその方が有利だが、企業レベルでは、ある程度の痛みもあるかもしれない」
そして、その痛みを私たちは目にした。株価はもちろんだが、他にもある。
ビットコインマイニング企業マラソン(Marathon)は、先月破産申請したコンピュート・ノース(Compute North)に3130万ドルを投資。上場マイニング企業アーゴ・ブロックチェーン(Argo Blockchain)は、3400台のマイニング機器を売却すると同時に、「流動性圧力」のために2700万ドルの自己資金を調達した。
企業レベルでの痛みに加え、ビットコインマイニング機器は、かなり割安で売られている。明らかに厳しい状況であり、良くなる前にさらに悪くなるだろう、というのが共通の見通しのようだ。
しかし、マイニングは上り調子だと、私は考えている。
ルクソール・テクノロジーズのリサーチ責任者コリン・ハーパー(Colin Harper)氏は10月2日、「ビットコインのハッシュレートは今朝、前週比8%上がって過去最高水準になっている」と指摘している。
10月7日には、(ビットコインマイニングに使われる演算能力の合計を表す)ハッシュレードは約260エクサハッシュ/秒だった。ここ3カ月で、24%も上昇したことになる。
ハッシュレートの上昇を受けて、ビットコインネットワークはビットコインマイニングの難易度を上げる予定だ。これは、約2週間ごとにビットコインのコードが自動で実行する「マイニング難易度調整」と呼ばれるもので、比較的激しい上方調整となるため、短期的なマイニングの見通しをめぐっては、悲観的見方が広がっている。
しかし、私には悲観的にならない理由がある。
マイニング企業にとっては厳しい状況となったため、生き残った企業は、責任を持って、慎重に事業を行っている企業だ。事業運営のために、低金利のおかげで利用可能となった安価な資本を活用していた企業もあったが、利上げ環境の中では、もうそんなことは不可能だ。このような淘汰を生き延びたマイニング企業は、えり抜きなのだ。
さらに、ケニアの田舎でビットコインマイニングを行う超小型水力発電所といった独創的なアイディアが生まれていることからも分かる通り、独創性が業界に注入されていることから、私は楽観的になっている。
おまけに、ネットワークのハッシュレートが、ビットコイン価格が高騰していないにも関わらず急速に上昇している。普通は、ビットコイン価格が高い方が、マイニング報酬も大きくなる可能性があるため、より多くの人がマイニングするようになる。
マイナーたちはビットコインで巨額の報酬を得るためにネットワークに殺到しているのではなく、ネットワークが持久力を持つことを証明して見せたため、慎重なビジネス上の決断として、マイニングに参加しているのだ。
10月は言うまでもなく、歴史的にビットコインが好調な月。ビットコインが1万9000〜2万ドルの狭いレンジで値動きするのも、そう長くは続かないかもしれない。
これらすべてのことを考え合わせて、もう1度言っておこう。マイニングは再び、クールになったのだ。
|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:Bitcoin Mining Is Cool Again; We Can Thank Africa, Prudence and Growing Hashrate for That