ビットコイン(BTC)は8月の米消費者物価指数(CPI)上振れによるサプライズで2万ドルを割って以降、本稿執筆時点まで概ね1.8万ドル〜20.5万ドルの狭いレンジでの推移が続いている。
この間に、①トラス英新政権が発表した減税を主軸とする経済対策発表による英国のトリプル安、②米長期金利の4%乗せ、③ドルの独歩高加速によるドル円相場の145円突破と、伝統的金融市場では混乱が続いた。
一方、A)トリプル安に見舞われたイングランド銀行(BOE)の国債購入臨時決定、B)オーストラリア準備銀行(RBA)の利上げペース減速、C)それから、急速な利上げによる経済への影響を懸念したペース調整を求める声が、9月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で挙がったことが議事要旨で明らかになったことなど、BTC相場を支える材料も散見された。
特に、9月の米CPIは市場予想を上回ったものの、上昇ペースの鈍化により頭打ちが意識された他、発表後にはセントルイス連銀のブラード総裁が、引き続きフロントローディングの必要性を訴えつつも、利上げペースを現在想定している以上速める可能性が低いことを仄めかす発言をしており、一貫してタカ派的な姿勢を維持してきたFOMCメンバーに変化が見え始めている。
やはり、米経済には景気減速の兆候が指標からも現れ始めており、先月も指摘の通り、徐々に慎重な姿勢を見せ始めている格好だろう。
ただ、こうした潮目の変化は見えてきてはいるが、依然として引き締めサイクルの真っ只中にいることに変わりはなく、市場が積極的にリスクを取りに行く段階とは言い難い。
事実、BTC相場は上述の通り方向感を示すことなく膠着相場が続いており、ヒストリカル・ボラティリティ(HV)は低下傾向となっている(第2図)。
米インフレ率の高止まりにより、FF金利先物市場では、来年2月には政策金利の誘導目標上限が5%とFOMCの見通しを上回るシナリオが織り込まれており、11月のFOMCで積極的な利上げについて慎重な意見が見られれば、若干のリスク回避の巻き戻しが想定されるが、少なからず利上げサイクルの折り返し地点がより明白に見えてくるまではリスク選好度の回復余地も制限されると言えよう。
他方、BTC相場の膠着要因はオンチェーンからも見てとれる。
先月も指摘の通り、流通するBTCの含み益割合は「売られ過ぎ」水準とされる50%を挟み込み推移しており、相場が値固めフェーズにあることが示唆されている(第3図)。
その一方、相場の上昇トレンド時に増加するBTCの短期保有アドレス数は昨年末より過去最低水準付近で推移しており(第4図)、潜在的な売り圧力と短期且つ投機的な需要の双方が枯渇している状況と言える。
裏を返せば、この先もBTC相場は底堅い展開が期待される一方、短期筋の活動が戻ってくるには、やはりマクロ環境的な後押しが必要と指摘され、6月下旬から続くレンジ相場は依然として継続が見込まれる。
BTC相場は、2015年には底値形成に10カ月ほどの月日を要したこともあり、現在の利上げペースやFOMCの経済見通しから鑑みるに、来年の春頃までレンジ相場が続くことも想定される。
長谷川友哉:ビットバンク(bitbank)マーケット・アナリスト──英大学院修了後、金融機関出身者からなるベンチャーでFinTech業界と仮想通貨市場のアナリストとして従事。2019年よりビットバンク株式会社にてマーケットアナリスト。国内主要金融メディアへのコメント提供、海外メディアへの寄稿実績多数。
|編集・構成:佐藤茂
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