「暗号資産の冬」が続く中、デジタル資産業界の複数の参加者と話をして、同じナラティブを何度となく耳にした。
- かつてないほど多くの投資家が、暗号資産に興味を持っている。
- 暗号資産に対する機関投資家の関心は高まり続けている。
- デジタル資産をポートフォリオに含めるためのツールやプロダクトは増加を続けている。
- 審議中の規則は、より多くの人が安心して暗号資産に投資できるような明確性をもたらすのに役立つ。
それでも、ビットコイン(BTC)やイーサ(ETH)の価格は低迷したままだ。デジタル資産が本当に勢いを失っていないのだとしても、少なくともそのことは、投資家の熱心さを示すような価格として現れてはいない。
頑固なほどの価格低迷の理由の1つは、広範な経済に関するもの。暗号資産は市場低迷の初期に、インフレや株価のボラティリティに対するヘッジとして自らの価値を示すことができなかったため、インフレ率が高く、利上げが続く間、投資家たちはデジタル資産を安全な避難先とは考えていないのだ。
新規個人投資家のマネーのデジタル資産への回帰も、ゆっくりとしたものになっている。個人投資家の多くが、インフレの打撃を受けているからだ。暗号資産投資を活発に行なっていた人たちはおおむね資金を失い、ウォール街の投資家たちは、よりリスクオフなポジションへと移行していった。
普及からマイナスの波及へ
価格低迷のもう1つの理由は、投機的資産の崩壊の波及だ。
「暗号資産の世界は今、最善の時であると同時に最悪の時でもある」と、暗号資産運用を手がけるサーソン・ファンズ(Sarson Funds)のCEOジョン・サーソン(John Sarson)氏は語り、次のように続けた。
「普及は絶好調だった。投機資産を持った人は誰でも、暗号資産に投資していたが、アイアン・ファイナンス(Iron Finance)、オリンパスDAO(Olympus DAO)、スリー・アローズ・キャピタル(Three Arrows Capital)、LUNA、USDTの暴落や破綻によって資金が消えてしまったり、セルシウス・ネットワーク(Celsius Network)やボイジャー・デジタル(Voyager Digital)に資金が永遠に閉じ込められてしまったのだ」
デューデリジェンスを徹底してきた企業にも、その影響は波及した。サーソンの投資家の一部も、資産の価値が75〜80%目減りしてしまった。
朗報すらも太刀打ちできず
デジタル資産の世界では、多くの良いニュースもあったことを忘れてはならない。
例えば、グーグルとコインベースは先日、暗号資産でのクラウド決済における提携を発表。BNYメロンは暗号資産のカストディ開始を発表し、ベターメント(Betterment)も、ロボアドバイザープラットフォームで暗号資産投資サービスを開始すると発表した。
しかし、現在の環境では、朗報さえも悲観的に迎えられる。
例えば、暗号資産基盤のワイヤレスネットワーク「Helium」を手がけるノバ・ラボ(Nova Labs)だ。ノバ・ラボはブロックチェーンテクノロジーを活用して、分散型ワイヤレスネットワークを作っている。
同社は今年に入って、タイガー・グローバル(Tiger Global)やアンドリーセン・ホロウィッツ(Andreessen Horowitz)などから資金を調達した。自社コミュニケーションネットワーク構築のために、T-モバイルとの連携も発表している。
新しいアイディアや、期待できる多くのニュースにも関わらず、HeliumのHNTトークン価格は、ピーク時から90%も値下がりしている。
「内情に通じているため、本来ならこれらのプロジェクトに資金を分配していたような組織においても、投下する十分な資金がない」とサーソン氏は指摘する。「これらのプロジェクトが素晴らしい成果を上げていることを認識し、そこに投資できる組織がもう残っていないということだ」
つまり、デジタル資産の世界では大口の「スマート」マネーが枯渇し、市場は多くのトークンやプロジェクトに適正な価値をつけることができていない。
もう1つの例がイーサリアムだ。先月にアップグレードを成功させ、無事にプルーフ・オブ・ステーク(PoS)ブロックチェーンとなった。これによってエネルギー効率は99%以上向上し、イーサ保有者は手持ちのトークンをステーキングして利回りを獲得できるようになった。
「イーサのリスクリターン率は向上したが、価格は上がっていない」とサーソン氏。「市場は細かいところにとらわれて、大事なところを見逃している」と続けた。
暗号資産の好転に必要なもの
では、市場はいつ好転するのだろうか?
規制上の明確性が高まれば、様子見をしている機関投資家のマネーを呼び込むことができるかもしれない。セルシウスやボイジャーに閉じ込められている資産を投資家に戻すことも、同じような効果を生むだろう。
そうでなければ、次なる大きなシフトが起こるのは、投資家がよりリスクオンの姿勢に切り替えた時だ。
「今年の破綻や暴落は主に、暗号資産投機家にマイナスの影響を与えたということを理解する必要がある」とサーソン氏は述べる。「本当に多額の資金を失ったのは、起業家や初期に投資した人たち、投機家など、暗号資産エコシステムの最初の成長を支えた人たちだ。彼らがいなくてもエコシステムは急速に成長を続けるが、資産価格は乱れており、著しく低い。今は、素晴らしいチャンスでもある」
|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:Ecosystem Growth, Not Prices, Tells the Real Crypto Story