自称サトシ・ナカモトをめぐる裁判:真実の勝利【コラム】

詐欺師たちにとっては厳しい1カ月であった。

「hodlonaut:
私は勝訴した。法が支配する世界へようこそ」

ノルウェーの裁判所は20日、実業家クレイグ・ライト(Craig Wright)氏がビットコインの生みの親サトシ・ナカモトだと主張している件に関連して、ビットコインに特化した雑誌『Citadel21』の編集を担当するビットコイナー、マグナス・グラナス(Magnus Granath)氏(別名:Hodlonaut)側を勝訴とする判決を下した。

裁判長は、「グラナス氏が2019年3月に、クレイグ・ライト氏がサトシ・ナカモトではないと主張するのに十分な事実に基づく根拠を持っていた」と判断したのだ。

今回の判決は、イギリスで並行して進められているグラナス氏の名誉毀損訴訟にも影響することが見込まれる。イギリスでライト氏はすでに数年にわたり、サトシ・ナカモトであるという主張を繰り返しながら、いくつもの敗訴判決を受けている。

最近では、様々な嘘つきや詐欺師たちの敗訴が相次いでいる。

極右陰謀論主義者アレックス・ジョーンズ(Alex Jones)氏は今月、2012年のサンディフック小学校銃乱射事件が実際には起こらなかったと繰り返し主張したことに関して、被害者の家族に対して9億6500万ドルの賠償金を支払うよう命じられた。

「自分は天才である」と、自分自身と世間を騙したテラ(Terra)ブロックチェーン共同創業者のドー・クォン(Do Kwon)氏は先週、国際的な捜査の手から逃亡中に、恥ずかしいほど曖昧な口調でインタビューに応じていた。

断続的に世界で最もリッチな人となるイーロン・マスク氏でさえも、自分自身で仕掛けた罠を回避しようと努力するのは諦めてしまった。先日、高額な評価額でツイッターを買収することにしたのだ。

皮肉な人たちに希望を与えるのに十分な程、嘘の負けが続いている。

しかし、騙しの魅力は抗し難い。グラナス氏とライト氏の裁判で真実が勝利した件でも、さらに深い疑問を抱かずにはいられない。例えば、なぜライト氏は、証拠もないのにサトシ・ナカモトだと言い張っているのか?

ビットコイン偽サトシのビジョン

そのヒントが10月、ライト氏のビットコインSV(BSV)陣営からもたらされた。「サトシのビジョン」を代弁すると主張するビットコインフォークであるBSVの、新しい「デジタル資産回復」システムを説明する動画という形でだ。

そのシステムは、違法な資金をブラックリストに掲載する力や、さらに過激なことに、トークンの所有権を別の人に割り当てるために秘密鍵の利用を回避する力など、BSVの運営に対して裁判所に直接の影響力を与えるものとなる。

この狂ったような提案は、ライト氏がここ数年繰り返している、トークンは裁判所の命令によって動かすことができるという奇妙な主張を、さらにくっきりと浮かび上がらせる。法の執行機関が容疑者や被告に、秘密鍵を引き渡すよう強制できるという点では、この主張は非常に限られた意味で正しい。

しかし、ライト氏は裁判所の命令によって、秘密鍵がなくてもトークンを動かすことができるという、はるかに広範でバカげた主張をしているのだ。これはビットコインやその他の暗号資産システム上では事実上不可能であり、それこそが暗号資産の要なのだ。

資産回復システムの提案の行間を読み取ると、BSV陣営の長期的戦略は、ライト氏がサトシ・ナカモトであるという主張を利用して、サトシ・ナカモトが初期にマイニングし、彼が姿を消した後に触れられないままになっている110万以上のビットコイン(BTC)の支配権を握ろうというもののようだ。

もしこれが彼らのゴールだとすれば、その達成にはまだまだほど遠い。秘密鍵だけが法的所有権を意味するのかどうかが問題なのではなく(究極的にはそうではない)、秘密鍵なしでトークンを動かしたり使ったりできるか、という点が問題なのだ。ちなみに究極的には、それは不可能だ。

ライト氏とカルヴィン・エアー(Calvin Ayre)氏が時価総額の低いBSVブロックチェーンを実質的にコントロールしているため、彼らは好きなようにバカげた検閲サブルーチンを導入することができる。

しかし、アメリカの地方裁判所の裁判官たちをだまして、これがブロックチェーンの仕組みだと納得させたとしても、サトシ・ナカモトのBTC秘密鍵が、どこからともなく現れてくるわけではない。

過ちの終わり

今回のノルウェーの裁判所の判決によって、ライト氏の情けない主張にも、終わりの日が近づいていると考えて良さそうだ。現時点で彼の裏付けのない主張を信じる人は、どんな報いを受けても当然だろう。

それでも、興味をそそられる疑問がひとつある。ライト氏と、その同胞のエアー氏やジミー・グエン(Jimmy Nguyen)氏などは、共謀しているのか?それとも、ライト氏が単独で、世間だけでなく名前だけの同胞たちも騙しているのか?

この深い謎を解くことは、ほとんどの人の時間にも労力にも値しないが、ライト氏はオーストラリアの税務当局が2015年に、ライト氏の初期の詐欺を見抜き、巨額の罰金を課した後に、エアー氏を金銭的な救世主と考えたと信じる理由がある。

ライト氏が、自らがサトシ・ナカモトであり、そこから利益を上げられるとエアー氏を説得したと想像するのは簡単だ。エアー氏はあまり賢い人物ではなさそうであるため、そう考えるのはとりわけ簡単なのだ。

ライト氏が自らの茶番によって、皆の時間、エネルギー、お金を多く無駄にしたことは、間違いなく許し難い。しかし、彼の最大の被害者が、自らの欲が批判的思考に打ち勝ってしまった未熟なビリオネアであるという点に、慰めにもならないような、一抹の慰めがあるのかもしれない。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:In Craig Wright Verdict, Reality Prevails