ハイパービットコイン化はグローバルサウスから

ビットコインの生みの親サトシ・ナカモトは、「ビットコインはクレジットカードを持たない人にとって便利だろう」と語ったという。

世界銀行によれば、クレジットカードを持たない人の数は少なくとも14億人にのぼる。その多くが、ナイジェリアやエルサルバドルなど、発展途上国に暮らしている。

銀行サービスを受けていないこれらの人たちが、ビットコイン(BTC)が世界で支配的な通貨システムになる「ハイパービットコイン化」の最前線にいるのだろうか?

「ハイパービットコイン化」が本当に世界的に起こるかは分からないが、アフリカで人気のピアツーピアビットコイン取引所パックスフル(Paxful)の共同創業者兼CEOレイ・ユーセフ(Ray Youssef)氏は、グローバルサウス(南の発展途上国)では起こるだろうと考えている。

「ビットコインという観点から見て、ナイジェリアが素晴らしいのは、ビットコインのナラティブが投機的ではない世界で唯一の国だ、ということ。ナイジェリアにおけるビットコインのユースケースの大部分は、ピアツーピアでの取引なのだ」と、ユーセフ氏は語った。

国際的暗号資産取引所クーコイン(KuCoin)が今年発表したレポートによると、3300万人以上のナイジェリア人(成人人口の約35%)が、ビットコインやそれ以外の暗号資産を保有している。さらに、その半数以上が暗号資産を支払いのために使っている。

決済というユースケースは、ブロックチェーンデータ企業チェイナリシス(Chainalysis)が先月発表したレポートでも裏付けられている。このレポートによれば、小口の暗号資産個人決済の割合が世界で最も高いのは、サブサハラアフリカである。

パックスフルの主要マーケットの1つであるケニアでは、市民がレストラン、スパ、家電量販店でビットコインを使っている。チェイナリシスによれば、パックスフルを介したケニアでの暗号資産の送金は、前年比で140%も増加した。

国民国家の役割

国家の法定通貨への信頼喪失が、ハイパービットコイン化の必要条件だと主張する人たちもいる。そうだとすれば、経済政策の失敗に悩まされた新興国が、ビットコイン革命を先導する可能性もある。もちろん、そのような国に暮らす人たちはまず、ビットコインエコシステムにアクセスできる必要がある。

エルサルバドルでは、ブケレ大統領が昨年9月、ビットコインを法定通貨にしたことで、人々はビットコインへのアクセスを手にした。

「大統領が(中略)意味のないものを国民に押し付けたといって非難する人もいた。私自身も、もっとスムーズに導入できたとは思っている。しかし、国家レベルで初めての取り組みとしては、政府と少数の若いチームは(中略)素晴らしい仕事をしたと思う」と、ユーセフ氏は語った。

メディアで見出しを飾り、筋金入りのビットコイナーたちの心を掴んだのは確かだが、ブケレ大統領の戦略は例外的なもののようだ。エルサルバドルの後に続いたのは、4月にビットコインを法定通貨に採用した中央アフリカ共和国だけだ。

「多くの政府指導者たちとこの点について話をした。どの国でも、明らかに関心はある。不足しているのは、ほぼ一方的に動くことのできるブケレ大統領のような若き大統領なのだ」と、ユーセフ氏は指摘する。

政権がビットコインに敵対的で、インターネット接続が限られているなど、インフラ面での障害があっても、ビットコインは成功を収めることができるようだ。

そのことを証明する好例が、ナイジェリアの中央銀行が昨年、同国内での暗号資産の利用を制限した時のこと。ユーセフ氏によればこの時、人口のわずか半数強しかインターネットアクセスを持たないこの国で、パックスフルの取引量が増加したのだ。

「暗号資産取引所と関連する口座を銀行が持つことを禁止したのだ。そして何が起こったかというと、パックスフルの取引高は少なくとも20%増加し、その後も増加を続けている。皆がピアツーピアでの取引に移行したからだ」と、ユーセフ氏は説明する。

草の根の広がり

振り返ってみると、ビットコインの普及は有機的な現象だ。エルサルバドルにおいても、ブケレ大統領が主導する前から、ビットコイン・ビーチなどの草の根の取り組みが広がっていた。2019年に始まったビットコイン・ビーチは、エルサルバドルのエルゾンテやプンタマンゴなどの小さな海沿いの村々で、ビットコインを交換の手段として使う取り組みだ。

「ビットコインビーチの初期の頃に、強制はなかった。それが素晴らしいところだったのだ。その後、政府が関与するようになってから強制が始まったため、ネガティブな雰囲気や多くの不信感が生まれた」と、ユーセフ氏は指摘する。

これまでのところ、ハイパービットコイン化に向けて最も上手くいくアプローチは有機的なもののようだ。ビットコイン・ビーチは、個人がビットコインで支払いをしたり、ビットコインを受け取る「循環型」ビットコイン経済の広告塔だ。似たようなコミュニティが、世界中で生まれている。

例えば、グアテマラのパナハッチェルのビットコイン・レイク。地元の人たちが、使い終わった料理油を燃料にした装置でビットコインをマイニングできるようサポートするプロジェクトだ。このプロジェクトは、ビットコインの普及を後押しするだけでなく、隣接するアティトラン湖の汚染軽減にも役立つ。

「Jim Shewchuk:
大きな湖だから、皆のビットコインのためのスペースも十分にある。遊びに来てみて、景色を楽しんだり、世界でも有数のコーヒーを飲んだり、ビットコインを使ってみたりしたらどうだろう」

フィリピンの人気観光地ボラカイ島で行われているプロジェクトは、ビットコイン・アイランド。ライトニング・ウォレットを手がけるパウチ(Pouch)が、この島でビットコイン教育キャンペーンを開始し、観光客に「リゾート、高級レストラン、マリンスポーツなど、200を超える地元ビジネスでビットコインを使う」よう呼びかけている。

「ビットコイン・アイランド・フィリピン:
日曜日はリラックスの日。今日は島を歩き回ってビットコインを使い、ゆったり過ごすのはいかが?

今日は家賃の半分をビットコインで支払い、残りの半分は月末に。

より大きな世界的な店舗でもまもなくビットコイン支払いができるように、私たちは様々な取り組みを続けています」

ビットコイン・エカシ(Bitcoin Ekasi)は、南アフリカのモッセル・ベイでビットコイン経済の確立を目指すNPO。パックスフルと、その非営利部門であるビルト・ウィズ・ビットコイン(Built with Bitcoin)は先日、ビットコイン・エカシに教育施設建設の資金を寄付した。

「CoinDesk:
南アフリカのNPOビットコイン・エカシは、モッセル・ベイでの新しい教育施設立ち上げによって、循環型ビットコイン経済の確立に1歩近づきました。@FrederickMunawa記者が伝えます」

「ビルト・ウィズ・ビットコインは、私が数年前に立ち上げたNPOで、学校や井戸の建設を行っている。パックスフルはビルト・ウィズ・ビットコインの主要支援者の1つである」と、ユーセフ氏は説明した。

グローバルサウス

ビルト・ウィズ・ビットコインはこれまでに、ナイジェリアで2つの学校を建設した。ただしユーセフ氏は、アフリカだけでなく、グローバルサウス全体(アフリカ、アジア、オセアニア、ラテンアメリカ、カリブ海諸国)を対象に取り組んでいきたいと考えている。

「グローバルサウス、とりわけアフリカは非常に興味深い。人々は何も必要としないからだ。あまりに制約の厳しい金融制度のもとに暮らしており、正直に言って、絶滅してしまわないのが奇跡のようだ。彼らは創意工夫の力や機知に富んでおり、素晴らしい富を生み出すことができるだろう」と、ユーセフ氏は語る。

ハイパービットコイン化の勝利の方程式が、形になろうとしているようだ。NPOが支える、グローバルサウスでの有機的成長である。何十億にものぼるグローバルサウスの人たちは、ビットコイン本来のユースケースを受け入れようとする意欲がより高いため、ハイパービットコイン化の聖火ランナーのような役割を果たし、最終的には恩恵を受けるだろうと、ユーセフ氏は考えている。

「グローバルサウスの人々は極めて有能であり、教育レベルも高い。非常に野心的であり、必要なのは、取引できる平等な機会を手にすることだけだ。そうなれば、自ら富を生み出せるだろう」と、ユーセフ氏は語った。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:‘Hyperbitcoinization’ Is Coming to an Emerging Market Near You, Paxful’s Ray Youssef Says