ビットコインの暴落トップ5を振り返る

約1世紀前の10月24日に起こったことを実際に体験した人は、数少ない。そしてその数少ない人たちはおそらく、そんなことは体験しないで済んだら良かったのにと思っているはずだ。

「暗黒の木曜日」と名付けられた1929年10月24日、10年におよぶ好景気は幕を閉じ、ウォール街のトレーダーたちが目覚めると、株式市場は前日の夜から突然、11%も値下がりしていた。それから2年間、さらに下落は続き、アメリカは10年も続く景気低迷に苦しむこととなった。

この日にちなんで、暗号資産の歴史の中から、特に大規模な暴落を振り返ってみたいと思う。

2011年6月:「やあ、ニックだ」

ベテラン暗号資産投資家なら、2011年6月に、人生最高、あるいは最悪の決断をしたのではないだろうか。

「やあ、ニックだ。すごく劇的なビットコインの暴落を目の当たりにした」と、BookofNickというユーチューバーが動画で語った。当時唯一流通していた暗号資産であったビットコイン(BTC)が、17.50ドルから1セントまで暴落したのだ。

「その通り。ビットコインが1セントで買えるんだ」と、ニックは続けた。

暴落のきっかけは、暗号資産初期の頃にビットコインの全取引の70%以上を取り扱っていた取引所のマウントゴックスにおけるハッキング。マウントゴックスは顧客のビットコイン約75万を失い、2014年には破産申請を行った。

他の取引所では、その年の安値は2ドルほどで、ビットコインは2011年の取引を5ドル弱で締め括った。

2013年12月:中国FUD

それから2年経ち、暗号資産の狭い世界の外の人たちも、最新の「インターネット通貨」に関心を払うようになっていた。例えば、投資家ケビン・オレアリー(Kevin O’Leary)氏は、ビットコインは他の通貨を信頼しない人のための安全な避難先であり、「定着する」と語っていた。

一方、米ソフトウェア会社マイクロストラテジー(MicroStrategy)のCEOマイケル・セイラー(Michael Saylor)氏は2013年12月13日、「ビットコインに残された日は限られている。オンラインギャンブルと同じ運命を辿るのも時間の問題だ」とツイート。

(そう、いまやビットコイン最大の伝導者となったあのマイケル・セイラーだ。)

2013年には、中国もビットコインに初めて影響を与えた。中国の中央銀行が、ビットコインを合法な通貨として使うことに警鐘を鳴らしたのだ。ビットコインは当時の史上最高値1200ドルから50%以上値下がりし、600ドルを割り込んだ。

外為ブローカー、オアンダ(Oanda)のシニアアナリスト、エドワード・モヤ(Edward Moya)氏は2014年、そのような価格帯で取引されている頃に、ビットコインについて耳にするようになった。

「価値を半分に減らしたのに、世界各国の中央銀行が無謀な政策をとっており、ビットコインによって自らの資産をコントロールできるからと、ビットコインは10万ドルに届く、あるいはもっと値上がりすると言っている人たちがいて、驚かされた」と、モヤ氏は振り返る。

ビットコイン価格が急落を繰り返すことも、興味をそそる理由の1つであった。まだ自分で買うことはしていなかったが、「どんなタイプの投資家がこのムーブメントを支えているのかを見るだけ」でも興味深かったと、モヤ氏は語る。

2017年12月:暗号資産の冬直前

現在のビットコイン価格(当記事執筆時点で1万9592ドル)と5年前の価格を見たら、懐疑的な人は何の進歩もないと思うかもしれない。

2017年12月、ビットコインが初めて2万ドルを突破した時、トレーダーは驚愕し、多くの初期投資家たちは、突如超リッチになったのだ。

しかし、上がったものは下がるのが宿命。わずか12日後には、1万2840ドルまで急落した。

しかも、ビットコインだけが打撃を受けたのではなかった。イーサ(ETH)やビットコインキャッシュ(BCH)など、他の主要暗号資産も値下がりしたのだ。

「Jon Russell:
急落している暗号資産はビットコインだけではない。時価総額トップ100のうち、2つ以外はすべてここ24時間で値下がりしている」

2020年3月:パンデミックの衝撃

新型コロナウイルスのパンデミックがアメリカを襲った2020年3月を忘れることは難しい。あらゆる形で、人生を変えるような出来事だった。

パンデミックが経済に与える壊滅的な影響が、もう否定できないものになる中、株式市場は「ブラックマンデー」と呼ばれることになった3月16日に、13%値下がり。不透明感の高まりは、とりわけリスクの高い資産と考えられていた暗号資産の暴落も引き起こした。

ビットコインは前月には1万ドル付近で推移していたところから57%値下がりし、3867ドルの安値を記録。時価総額第2位のイーサはその週に、46%値下がりした。

奇妙なことに、パンデミックは最終的に、暗号資産がよりメインストリームに普及するのを助けた。それから数カ月の間に、ブラックロックやアライアンス・バーンスタイン、モルガン・スタンレーなど、ウォール街の銀行や投資会社が、数十億ドル相当のビットコインを買い始めたのだ。

3億4600万人のユーザーを抱えるペイパルは、ビットコインへの対応開始を発表。ビットコインに長年否定的だったJPモルガン・チェースのCEOジェイミー・ダイモン(Jamie Dimon)氏でさえも、暗号資産には「相当な」値上がりの可能性があると認めた。

2020年12月16日には、ビットコインは2万ドルを突破し、年末までに2万9374ドルに達して史上最高値を更新。暴落に始まり、値上がりに終わる形となった。

2022年5月:テラ崩壊

暗号資産業界にとっておそらく最高の1年だった2021年が終わり、まもなく厳しい時期がやって来た。

まず訪れたのは、ドル連動型ステーブルコインUSTを発行するブロックチェーン、テラ(Terra)の崩壊。USTは1ドルの価値を保つはずだったが、ペッグを維持できなくなり、トレーダーたちは、テラのネイティブトークンLUNAへの信頼も喪失。LUNA価格は99%暴落した。

テラの崩壊は、ビットコイン価格を含め、デジタル市場全体を苦しめた。米連邦準備制度理事会(FRB)がインフレ抑制のために利上げを行い、株式から暗号資産まで、リスクが高いと考えられるあらゆる資産の価格に下方圧力を加えたことも、事態を悪化させた。

かつては暗号資産界随一のヘッジファンドと見られていたスリー・アローズ・キャピタル(Three Arrows Capital)は破綻。さらに、暗号資産レンディング大手セルシウス・ネットワーク(Celsius Network)も6月12日、「極端な市況」を理由に顧客資産の凍結を発表した。

ビットコインは6月だけで、3万2000ドルから、1万8000ドルを割り切るところまで、37%近く値下がりし、イーサも44%値下がりした。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:Black Thursdays: Bitcoin’s 5 Worst Crashes