デジタル証券「セキュリティ・トークン」は投資の世界に何をもたらすのか?海外で、そして日本においてこれからどういった展望が見えてくるのか?
アンダーソン・毛利・友常 法律事務所でデジタル証券関連案件を幅広く手掛ける青木俊介氏に、セキュリティ・トークンのこれからについて聞いた。
アンダーソン・毛利・友常 法律事務所 外国法共同事業
パートナー弁護士 青木 俊介氏東京大学法科大学院卒。国内外の資本市場における証券発行案件をはじめ、フィンテックなど企業法務全般に対応。デジタル証券についての著書・セミナー・講演多数。Best Lawyers 3年連続受賞。
昨年から不動産投資での利用が増加
セキュリティ・トークン(ST)と暗号資産(仮想通貨)は、どちらも取引記録を分散管理するブロックチェーン技術を用いることから、似たような投資対象として誤解される場合もあるかと思います。
しかし、STは企業活動やプロジェクトからの収益に期待する権利(有価証券)ですので、値上がり益期待の暗号資産とは性格が全く異なります。
昨年から日本でもレジデンスや物流施設などの不動産を証券化する投資案件で、STを利用する事案が増えてきました。従来の不動産投資信託(REIT)が複数の物件を投資対象とするのとは違い、特定の資産(例えば旅館)を支援するSTなど、個別のこだわりや愛着に寄り添った投資行動ができるのが特徴です。
ブロックチェーンによって保有者を特定するのも簡単なので、発行企業やスポンサーが投資家へダイレクトにクーポンなどを提供することも可能です。上場REITなどに対し、不動産STは規模が比較的小さい物件を投資対象としやすいメリットもあります。
不動産以外でも、社債STを自己募集で発行するなどの案件も出始めました。2020年の法令改正以来、様々な企業の参入が進み、日本でもST投資の基本的な環境は整ってきたといえるでしょう。
デジタルの先にある「手触り感」に投資
アメリカでは非上場株式の発行・管理コスト削減や、デジタル技術を用いた法令順守の自動化、シンガポールではさらに、プラットフォーム経由でST投資家を直接結びつける分散型金融(DeFi)のパイロットケースが当局関与のもと進められるなど、STの特色を生かした事例も見られます。
一方、日本では保有するSTの売買が可能な本格的なセカンダリー市場がまだない点や、匿名組合型の不動産STにおける税制面での課題が残っています。しかし、近くSTの私設取引システム(PTS)整備案が取りまとめられる予定で、着々と世界に追いつきつつあります。
ブロックチェーンという最新のデジタル技術を、人の思いを反映する投資のために利用するのがSTです。ビジネスの現場で「手触り感」と表現されるような、投資対象との近さや投資の実感を得やすいことが魅力のひとつ。ST投資発展のために、私たちも法務面からのサポートを推進していきます。
|2022年10月31日付け日本経済新聞朝刊「デジタル証券フォーラム2022広告特集」より転載
|画像:coindesk JAPAN