ニュースの見出しや発表文から判断すると、グーグルはいよいよ暗号資産の世界に飛び込もうとしていると考えたくなる。しかし、パートナーにコインベースを選んだことが、グーグルは単に足を少し踏み入れているに過ぎない証拠だと指摘する人たちもいる。
グーグルとコインベースは先日、「グーグル・クラウドとコインベースがウェブ3のイノベーション促進で新しい戦略的パートナーシップを締結」と題された共同プレスリリースを発表。Google Cloudはその数日後、イーサリアムブロックチェーンノードエンジンの提供を開始すると発表した。
Google Cloudは今年1月に、デジタル資産チームを立ち上げていた。さらに同月、グーグルの決済部門の指揮を取るために元ペイパル幹部のアーノルド・ゴールドバーグ(Arnold Goldberg)氏を採用したことは、ブルームバーグの記事の中で「暗号資産を含め、より幅広い金融サービスと手を組むための広範な戦略」と評され、多くの暗号資産メディアでも、同様に扱われた。
表面的には、グーグルが暗号資産に対するアプローチでより積極的になっているように見えるかもしれない。一部の人はこれらの動きを、グーグルがメタのようにウェブ3にすべてを賭けているわけではなく、他の多くの業界と同じように、自社サービスの顧客として暗号資産を扱おうとしている明らかなサインだと捉えている。
パートナーシップの中身
コインベースとの連携を細かく分析することで、グーグルが暗号資産にどのようにアプローチしているのか、ヒントを得ることができるかもしれない。
「このパートナーシップは、取引所、コマース、クラウドノード、プライムなど、複数のコインベースの事業につながっている」と、金融サービスを手がけるオッペンハイマー(Oppenheimer)のアナリスト、オーウェン・ラウ(Owen Lau)氏は10月11日にコメントした。
「取引所の部分では、コインベースはGoogle Cloudのテクノロジーの消費者のように振る舞うが、コマース、クラウドノード、プライムの部分では、コインベースがグーグルの顧客に対するテクノロジー提供業者のような役割を果たす」と続けた。
コインベースの最高プロダクト責任者スロジット・チャテルジー(Surojit Chatterjee)によるブログでは、2社の連携を4つの部分に分けて説明している。
- Google Cloudはコインベースを通じて、一部の暗号資産を使って顧客がサービス料の支払いをできるようにする。
- コインベース・クラウドのノードサービスは、Google CloudのBigQueryエンタープライズデータウェアハウスを使い、コインベースの顧客がグーグルのブロックチェーンデータにアクセスできるようにする。
- グーグルはカストディサービスにコインベース・プライムを利用する。
- コインベースは「取引所とデータサービス」のために、Google Cloudを利用する。
「Google Cloudのコインベースとのパートナーシップは、ウェブ3エコシステムとの関わりの深まりの延長だ」と、Google Cloudのデジタル資産戦略責任者リチャード・ウィドマン(Richard Widmann)氏は説明。「ブロックチェーンテクノロジーや分散型ネットワークの進化を、10〜15年前のオープンソースやインターネットの台頭に相当するものだと考えている」と続けた。
さらにウィドマン氏は、コインベースとのパートナーシップは「オープンソースプロジェクトに取り組んできた弊社の深い歴史を基盤としている」とも語り、暗号資産が「よりメインストリームになるに連れ、企業はスケーラブルで安全、持続可能なインフラを必要とするだろう」と続けた。
大転換?
大手ブランドが何らかの形で暗号資産を採用することほどに、個人投資家や暗号資産ファンを喜ばせることはない。その企業が、地球上で4番目に時価総額の高い企業となれば、暗号資産支持者たちが、劇的な変換が起こっていると考えるも無理はないだろう。
しかし、コインベースの競合で長年暗号資産アドバイザーを務めてきた人物は、そのようには捉えていない。
「暗号資産が自社にとって大切なものになるとグーグルが本当に考えたとしたら、コインのカストディアンにより小規模な企業を選んだはずだ」と、匿名での取材を希望したそのアドバイザーは指摘。「グーグルはコインベースのような大手企業よりも、より小規模なカストディアンとの方が好条件で契約できる」と続けた。
このアドバイザーの考えでは、コインベース・プライムをカストディで利用し、グーグル顧客の一部に暗号資産でのサービス料支払いを認めることは、パートナーシップ合意の本当の核心部分に、これらの要素が付け足されたことを示唆している。その核心とは、コインベースがいまや、Google Cloudの顧客になった、ということだ。
「グーグルはAWS(アマゾン・ウェブ・サービス)と、金融サービスの顧客を競い合っているため、最大級の暗号資産取引所を顧客として抱えているということが、潜在的顧客に信頼してもらうのに役立つのだ」と、このアドバイザーは指摘した。
つまり、グーグルとコインベースのパートナーシップの他の要素は、おまけに過ぎないということ。カストディはコインベースにとって、サイドビジネスのような色合いが強いからだと、アドバイザーは続けた。
コインベースは6月30日に終わる四半期において、カストディ手数料で2200万ドルの収益を上げた。これは、その四半期における全収益8億800万ドルの3%にも満たない。
同四半期の別の2200万ドルの収益は、同社が「ステーキングアプリケーション、委任、インフラサービス、コインベース・ワン、その他のサブスクリプションライセンスを含めたコインベース・クラウドからの収益」を含むと説明するカテゴリー「その他のサブスクリプションとサービス収益」から生まれた。
コインベースは暗号資産の世界では大手かもしれないが、グーグルを運営するアルファベットにとっては、ノミのように小さな存在だ。アルファベットの9月30日までの四半期のクラウドサービスの収益は68億ドル。さらにアルファベットの第3四半期の収益となると、690億ドルにも達する。
グーグルのような企業と連携することは、コインベースにとってプラスのことに思われるが、コインベースをショートしている人たちの考えを変えるのは難しい。
「死に物狂いになっている感じかする」と、コインベースの株をショートしている運用資産10億ドル規模のファンドのポートフォリオマネージャーは語り、次のように続けた。
「IBMと連携していると言ってプレスリリースを発表していた、ちっぽけなソフトウェア企業たちを思い出す。IBMはそれら企業の流通ネットワークで自社ソフトウェアを販売することができるが、他にも契約している何千ものソフトウェア企業がいたんだ。誰も気にしないだろう。コインベースは、トレーディングの収益に力を入れるべきだ」
エンタープライズ部門への切り込み
しかし、コインベースにとってグーグルとの連携をプラスと見ている人たちもいる。
「先日BNYメロンが発表したように、暗号資産に参入している金融サービス提供業者や機関投資家を追いかけるカストディ提供業者はたくさんある」と、市場情報企業ジャベリン・ストラテジー&リサーチ(Javelin Strategy & Research)のジェームズ・ウェスター(James Wester)氏は指摘する。「コインベースは明らかに、その分野にさらに切り込もうとしているのだ」と続けた。
ウェスター氏はさらに、グーグルがより小規模なカストディアンとより好条件での契約ができたとは思えないとして、「小規模なカストディアンが、『私たちはより簡単にいいなりになります』と宣伝したがるだろうか?」と疑問を投げかけた。
新進気鋭の組織からすれば、どんな形であれ、グーグルが暗号資産の世界に進出することは、業界にとって好ましい兆候である。
「他のテック企業同様、グーグルは昨年に比べ採用のペースを落としているが、暗号資産部門での採用においては積極的なままであり、暗号資産関連の取り組みを中核的な重点分野としている」と、9月にローンチされたレイヤー1ブロックチェーン、セイ・ネットワーク(Sei Network)の創業者ジェフ・フェン(Jeff Feng)氏は話す。「暗号資産はこれまでのところ、インフラの欠如に押し止められてきたが、Google Cloudが前進させてくれるだろう」と続けた。
しかし、アルファベットがすでに18万6000人近くのスタッフを抱えていることを考えれば、暗号資産の分野での積極性も、相対的なものに過ぎないのだろう。
|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Sundry Photography / Shutterstock.com
|原文:Coinbase Deal Shows Google Is Committed to Crypto – How Much Depends on Whom You Ask