暗号資産には安全装置が必要だろうか?後から考えれば当然に思えるが、バイナンスは11月9日、取り付け騒ぎ後にほとんどすべてを失った競合のFTX買収の方針を撤回した。
バイナンスのCEOチャンポン・ジャオ(Changpeng Zhao)氏は、FTXの財務状況を審査した結果、FTXのバランスシートの穴が大き過ぎ、投資家の信頼喪失が「深刻」であるため、リスクが大き過ぎると判断したと語った。FTX創業者のサム・バンクマン-フリード氏は、他で資金を探さなければならなくなったが、他の取引所がすでに、投資や合併の求めを断っていることを考えると、その試みは困難を極めるだろう。
バンクマン-フリード氏は、投資家に返金する前にユーザーの損失を補うためにできることをするとツイート。その手段の1つは、自身が創業したヘッジファンド、アラメダ・リサーチ(Alameda Research)の縮小だ。
ブルームバーグによれば、現在の価値が約1ドルとなったFTXは、ブラックロック(BlackRock)、ソフトバンク、タイガー・グローバル(Tiger Global)、カナダのオンタリオ州教職員年金基金などから、18億ドルもの資金を集めていた。
影響の伝播
波及影響の可能性は深刻だ。セコイア・キャピタル(Sequia Capital)やギャラクシー・デジタル(Galaxy Digital)は何百万ドルもの資金を回収不能とみなし、ソラナも大きな打撃を受けている。バンクマン-フリード氏がFTTトークンを使って投資した多くのプロジェクトも、莫大な資金不足に陥るかもしれない。
ヘッジファンドのスリー・アローズ・キャピタル(Three Arrows Capital)破綻で分かったように、暗号資産業界は驚くほど相互につながっている。実際、アラメダの財政難も、テラ(Terra)崩壊後に破綻し、バンクマン-フリード氏が買収したボイジャー・デジタル(Voyager Digital)で50億ドルの損失を出した後に始まった。
暗号資産のそもそもの要点は、セルフカストディと自立を通じて、人々が「自らの銀行になる」のを可能にすることだった。しかし業界は、中央集権型金融システムと、それに付随する「取り付け騒ぎ」などを再び作り上げてしまったのだ。
人々はブロックチェーンや他のユーザーと直接にやり取りするのではなく、中央集権型取引所に資産を預け入れるようになり、トラストレスな金融プロトコルを使うのではなく、ウォール街での経歴を持つ誇大妄想者たちを信頼してしまった。
最近の暗号資産危機を受けて、商品先物取引委員会(CFTC)、証券取引委員会(SEC)、司法省の3つのアメリカの規制当局は、すでに何カ月も前に始まっていたFTXへの捜査を強化しているようだ。
SECのゲンスラー委員長は、米テレビ局のインタビューに答え、FTXに見られた「有害な組み合わせ」を指摘。暗号資産は証券であり、SECの管轄下にあるべきというお馴染みの主張を繰り返し、業界は「極めて非協力的」であり、各取引所は「SECと話し合うべきだ」と語った。
暗号資産投資家を守るようなルールがすでに存在しているという点で、ゲンスラー委員長はある意味正しい。バンクマン-フリード氏のトレーディング帝国の一部で、FTXとは独立して運営されているFTX.USは今のところ、支払い能力があるように見えるのも、注目に値する。
もちろん、明日には吹き飛んでしまう可能性もあるのだが、FTX.USのユーザーの資産については、FTXのユーザーの資産と同じような扱いはしていなかったのではという気が、個人的にはしている。
明確な規制の欠如
現況を伝える時には、アメリカの暗号資産規制(あるいはその欠如)がFTX騒動に果たした役割を指摘する必要があるだろう。
コインベースCEOのブライアン・アームストロング(Brian Armstrong)氏は、厳格であると同時に不透明なアメリカにおける規制の状況が、テラのドー・クォン(Do Kwon)氏やバンクマン-フリード氏のような人たちを、監視が緩やかで税金を支払わなくても済む海外へと押しやったとツイート。暗号資産トレーディングの約95%がアメリカ国外で発生していると付け加えた。
エリザベス・ウォーレン上院議員や、ゲンスラーSEC委員長などがアメリカの取引所に対するより厳格な規制を求める中、アームストロング氏は自らの利害を守ろうとしているのだ。
より明確なルールが必要なのは明らかだが、規制は適切に行う必要がある。暗号資産が本質的にボーダーレスであることを考えれば、規制を過剰な負担となるものにしてしまえば、シンガポールを拠点にした次なるテラや、バハマに本拠を置く次なるFTXを作り出してしまうだけだ。「これに対してアメリカの企業を罰することは、筋が通らない」と、アームストロングは主張している。
もう一つ筋が通らないのは、SECの過去の執行行為である。暗号資産業界が危機に直面した今年、SECは(ほとんどの人が忘れてしまうであろうコイン)Ethereum Maxを宣伝したとしてキム・カーダシアン(Kim Kardashian)氏を、さらに市場操縦の疑いでHydrogen Technology Corp.という会社を告発。SECの予算が極めて小さいことを考えると、訴訟が成功したとしても、資源の無駄遣いのように見えるのだ。
ブロックチェーン基盤のストリーミングサービス「LBRY」を告発してSECが勝訴した件は、ユーザーに見返りを与えるため、あるいは開発の資金調達のためにトークンを使いたいと考えているすべてのプロジェクトにとっての敗北だろう。
法律の専門家によれば、この訴訟を担当した裁判官は、独自トークンを準備しているあらゆるプロジェクトを罰する先例を作ったかもしれない。LBRYのCEOジェレミー・カウフマン(Jeremy Kauffman)氏は、裁判所の決定に異議を申し立てるつもりのようだが、同じ状況に置かれた場合に、別の場所に移動することを選ぶプロジェクトは、どれくらいの数に上るだろう?
規制が安全装置として十分でないとしたら、暗号資産企業の相互のつながりがますます高まっていくことが、安全装置としてではなく影響が波及するリスクを生み出すだけだとしたら、業界はどうなるのだろう?
暗号資産業界は、中央銀行という最後の頼みの綱から恩恵を受けることができるだろうか?ビットコインの生みの親サトシ・ナカモトの本来の提案に立ち返ることで、答えが見えてくる気がしている。
|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:The Role Regulators Played in the FTX Fiasco