ビットコインをインフレヘッジ資産と決めるにはまだ早い【コラム】

10年近くにわたって暗号資産の投資家や支持者たちは、ビットコイン(BTC)をインフレヘッジや法定通貨に代わる価値の保管手段として宣伝してきた。ビットコインを支えるトークノミクスのために、熟練投資家の多くは、たくさんの法定通貨が経験する購買力の喪失に対するヘッジと考えている。

ビットコインには、2100万という供給上限が定められている。ビットコインの発行スピードはすべての市場参加者に知られており、すべてのビットコインがマイニングされると、ビットコインブロックチェーンは最終的に0%インフレの状態に到達することになる。

多くの投資家やビットコイン支持者たちは、このようなデザインのためにビットコインは、他の永久にインフレ的な暗号資産や法定通貨よりはるかに優れていると考えている。

価値操縦の影響

法定通貨の価値は政府と中央銀行によって決定される。10年以上にわたって、米連邦準備制度理事会(FRB)は、米ドルに2%のインフレ目標を設定してきた。インフレとはつまりドルの購買力の減少だ。通貨がインフレになると、その購買力は時間とともに減少していく。

多くのエコノミストは、インフレ的な通貨を作ることで、経済成長を促進し、市場で支出を促すことができ、それがエコノミーとビジネスサイクルを強化すると考えている。

一方、それ以外の多くの経済学派では、経済で主要な通貨の購買力の喪失は、エコノミーの長期的健全性にとって好ましくないと考えている。このような見解の不一致によって、多くの人が法定通貨の代替として、暗号資産の中でもとりわけビットコインを保有するようになっている。

インフレヘッジとしてのビットコイン

ビットコインは過去10年間、間違いなく法定通貨よりも優れたパフォーマンスを見せてきた。しかし、多くの法定通貨がここ10年で安定していたのに対し、ビットコイン価格はそうではなかった。

ビットコインは世界中で驚くほど人気となり、グローバルエコノミーの多くの部分で採用され、使われるようになり、驚異的な成長を見せてきた。ビットコインは2012年、100ドル未満で取引されていたのが、10年も経たずに2021年には、7万ドル近い史上最高値を記録したのだ。

ビットコインのここ10年のパフォーマンスは、法定通貨の価値の低下に対するヘッジであることをさらに証明し、価値の保管手段としての投資テーゼを強化してきた。

ナラティブのシフト

2022年は様相が違っている。2022年からFRBは利上げを始め、市場から流動性を引き上げた。記録的なインフレを受けてFRBは、インフレ抑制のために思い切った措置を取ることとなったのだ。

FRBは金利を上げ、市場の流動性を減らすことで、株式、債券、不動産、さらには暗号資産にも厳しい逆風を吹かせた。米国株は年初以来20%以上値下がり、債券は30%を上回る下落幅を記録し、不動産価格は15%以上下落した。暗号資産も今年11月時点で、60%以上値下がりしている。

多くのトレーダーは2022年の市況を「リスクオフ」の環境と見ている。

債券が再び優位に

米国債は世界でも最も安全な投資と考えられている。「リスクフリーレート」と呼ばれることもある米国債の利回りは保証されており、元本も保護される。

FRBが今年大幅に利上げを行ったため、米国債の利回りはここ10年で最も高くなっている。多くの投資家はこれを投資のチャンスと捉え、株式や暗号資産などよりも国債に投資している。

国債への投資熱が高まり、国債を購入するためのウェブサイト「Treasury Direct」に人々が殺到したため、トラフィックに対応しきれなかった同ウェブサイトがクラッシュした程だ。

国債の利回りが低く、投資家がより投機的な資産への資産分配を好んでいた「リスクオン」な環境から、「リスクオフ」の環境へと市場がシフトする中、暗号資産は他の多くの資産よりもパフォーマンスが劣っていた。

このような低パフォーマンスによって暗号資産批評家の多くは、ビットコインをめぐるインフレヘッジや価値の保管手段としてのナラティブは間違っていることが証明されたと主張した。彼らは暗号資産が「リスクオン」資産と考えているのだ。

つまり、経済におけるリスクフリーレートが低く、ここ10年の大半のように米国債の利回りが軽微な場合には、投資家は株式や暗号資産など、リターンの可能性が国債よりはるかに高い資産へと集まる。

逆に市場が「リスクオフ」の場合には、暗号資産などの投機資産よりも国債に投資家が集まるだろうと、市場参加者は考えるのだ。

リスク資産としてのBTCの未来

暗号資産は他の資産クラスに比べ、まだまだ非常に若いものであるが、市場は個人投資家が、暗号資産を支える投資テーゼを理解するのを助けている。グローバル市場に存在するあらゆるニュアンスや投資の分配を理解し、市場が変化した時に軸を移すことが大切だ。

リスクフリーレートがこれほど高かったのは、ビットコイン誕生以来初であり、この先の展開は、将来的に資産運用家たちにとって非常に役立つものとなるだろう。ビットコインをはじめとする暗号資産が長期的インフレヘッジで価値の保管手段なのか、国債の利回りが魅力的ではない時だけに好まれる「リスクオン」投機資産なのかは、まだ完璧には理解されていない。

今年は、これまでの10年間の大半とは大きく異なっており、現在の市場は、新興の資産クラスである暗号資産をよりよく理解したいと考える人にとって、非常に有益な学びの場となっている。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:What Bitcoin’s Inflation Hedge Narrative Needs: More Time