FTXの崩壊が始まって、およそ2週間経った。
先週のFTX関連の動きを振り返ってみよう。
- FTXの創業者で元CEOのサム・バンクマン-フリード氏はVoxとのインタビューで、「規制当局なんてクソくらえ」と発言。
- FTXの新CEOで、エンロンの破産時にもCEOを務めたジョン・J・レイIII(John J. Ray III)氏はFTXについて、「ここまで徹底的企業統制の失敗と、ここまで徹底的な信頼できる金融情報の不在は見たことがない」と語った。
- FTXの姉妹企業で暗号資産ヘッジファンドのアラメダ・リサーチは、本来ならお金を失うべき時にそうならないように、FTXの清算プロトコルにおいて「秘密の例外」扱いになっていた。
しかし、FTXと直接関連する話題ではなく、多くの市場関係者が語り合っている暗号資産の信用危機の影響の伝播について考えてみよう。
影響の波及は暗号資産界に留まる
金融危機の波及とは、1つの市場やエコノミーから別のものへと危機が拡散することを指す。例えば、2006年までに住宅価格が下落を始め、2007年9月までには、サブプライムローンに関連する損失のせいでリーマン・ブラザーズが破綻。多くの人が職を失った。
これは、あらゆるところへと拡散した波及であった。このようなことになる理由は、数えきれないほどの金融商品をお互いに売買している、数えきれないほどの金融機関の間で、複雑なクモの巣のような関係が存在するからである。
クモの巣の一部が壊れると、他の部分も壊れ始め、最後に残るのは、ズタズタになった惨状だけである。
これが今はっきりと、暗号資産の世界でも起こっている。FTX崩壊が始まって以来、暗号資産レンディングを手がけるブロックファイ(BlockFi)がFTXとの関係を理由に資産の引き出しを一時停止。別の暗号資産レンディング企業ジェネシス・グローバル・トレーディング(Genesis Global Trading)も、資産の引き出しを一時停止した。
ウィンクルボス兄弟が所有する暗号資産取引所ジェミニ(Gemini)は、ジェネシスによる暗号資産レンディングを通じて顧客に利回りを提供していた「Gemini Earn」を停止した。
なんと複雑に絡み合ってしまっているのだろうか。
しかし、2006年の信用危機の波及と、FTXに端を発した今回の信用危機の波及には、違いがある。2006年の危機の波及は、世界大恐慌以来おそらく最も深刻であった世界的な金融危機につながったのに対し、暗号資産は、より広範な経済に深刻な影響を与えるほどには大きくないのだ。
私の言っていることが信じられないだろうか?
いくつか証拠を挙げよう。
- 11月10日、米労働省は(インフレの指標に使われる)消費者価格インデックスの伸び率が「わずか7.7%」へと減速し、見込みを下回ったと発表。
それを受けてS&P 500は、翌日までに3760ドルから4000ドルまで上昇。現在は3950ドル付近で推移している。ビットコイン(BTC)も同様の値動きを見せ、10日の1万6000ドルから、11日までには1万8000ドルを超えた。違いがあるとしたら、ビットコイン価格は現在、1万6600ドル付近となっていることだ。 - FTX破綻の日、メインストリームメディアの大半は、別の話題により重点を置いていた。アメリカの中間選挙だ。
- 企業は全体的に、供給側の景気後退的圧力をより懸念している。暗号資産について語り合っているのは、暗号資産企業(ともしかしたらツイッターの新オーナー)だけだ。
暗号資産における信用危機の波及が深刻ではないと言っているのではない。実際、深刻だ。多くの市民がお金を失った。カナダのオンタリオ州の教職員年金基金も、FTXに投資して9500万ドルを失った(ただしそれは、同基金の総純資産の0.05%に満たない)。
今回の危機の波及は、暗号資産の世界だけに留まると私は考えており、そうなると本質的に、危機の波及とは言えない。今回の危機もいつかは、過ぎ去っていくだろう。
|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:Crypto Markets Are Suffering – But Is It Really ‘Contagion’?