FTX破綻の陰でエンタープライズブロックチェーンに打撃──IBM、豪証券取引所のプロジェクトが失敗

FTX破綻の影響で、暗号資産(仮想通貨)業界が混乱していることはご存知のとおり。一方、ブロックチェーン技術をプライベートに、企業環境の中で使おうとしたプロジェクトの失敗、すなわち一時、大きな注目を集めていた「エンタープライズブロックチェーン」の失敗はほとんど注目されていない。

IBMと海運大手マースク(Maesk)は11月29日、利用が拡大しないことを理由に、共同運営していたブロックチェーンプラットフォーム「トレードレンズ(TradeLens)」を終了すると発表した。その2週間前、11月15日にはオーストラリア証券取引所(ASX)が、清算・決済システムのブロックチェーンシステムへのリプレースをキャンセルした。

IBM、ASXにコメントを求めているが、当記事執筆時点までに返答はなかった。

ブロックチェーンをプライベートで活用

2015年から2016年にかけて、銀行や大企業はブロックチェーン技術に可能性を見出していた。ブロックチェーン技術はもともと、ビットコインをはじめとする暗号資産のために開発され、基本的には誰でも利用できるオープンプラットフォーム。だがビジネスに導入してプライベートな領域(企業内やグループ内など)で活用し、資産を追跡したり、データの記録・配布に利用することもできる。

エンタープライズブロックチェーンは、暗号資産市場のような強気/弱気の市場サイクルとは無関係なようだが、今は特に海運などの分野で経済環境の変化を感じている。コンテナ船業界のコンサルタント会社ベスプッチ・マリタイム(Vespucci Maritime)のCEO、ラース・ジェンセン(Lars Jensen)氏によると、終了の理由の1つは、経済環境の変化だ。

「コンテナ船業界はこの2年間、極めて高い利益を上げていた。あらゆる技術的ソリューションを追求できた」とジェンセン氏は述べた。「今、状況は変わり、業界は厳しいプレッシャーにさらされている。つまり、すべての技術的ソリューションにとって正念場。未来の夢や希望以上の価値を提供できるかどうかが問題」。

トレードレンズに関して、ジェンセン氏はコンテナ輸送の分野にはさまざまなソリューションと競合したことを指摘した。

「トレードレンズは基本的に、すべての人にすべてを提供しようとした。だが競合には、もっとニッチなものもある。それらは特定のステークホルダー、あるいはプロセスの特定の部分に焦点をあて、商業的成功を収めている。つまり、市場はすべてをカバーするワンストップソリューションではなく、特定の問題に対する、より具体的かつ的を絞ったソリューションを求めているのかもしれない」

アイデア自体に根本的な問題

エンタープライズブロックチェーンのコルダ(Corda)を手がけ、この分野の代表的スタートアップであるR3の最高技術責任者リチャード・G・ブラウン(Richard G. Grawn)氏は、トレードレンズとASXのブロックチェーンブロジェクトの終了が続いたが、その理由はまったく異なると述べた。

ASXの失敗は、ステークホルダーの関与とテクノロジーの選択が大きく関係しているとブラウン氏は述べ、同システムに関するアクセンチュアのレポートに触れた。

「トレードレンズについていえば、テクノロジーの失敗ではない。IBMの撤退や海運業界の景気サイクルと関係があるかもしれないが、技術とコンセプトは、外から見る限り、アーキテクチャ的には矛盾がないようだ」

世界4大会計事務所のひとつ、アーンスト・アンド・ヤング(EY)のグローバル・ブロックチェーン・リーダー、ポール・ブローディ(Paul Brody)氏は、全体的に見ればプライベートブロックチェーンというアイデア自体に根本的な問題があると考えている。ブローディ氏は、パブリックなイーサリアムブロックチェーンの企業への導入に長年取り組んでいる。

「こうしたプライベートブロックチェーン・ベンチャーは、すべて同じ基本的な問題を抱えている。Web2のビジネスモデルに、Web3の妖精の粉を少し振りかけたもの。妖精の粉が消えてしまえば、価値提案はそれほどホットには見えない」とブローディ氏は語った。

|翻訳:coindesk JAPAN
|編集:増田隆幸
|画像:shutterstock
|原文:IBM and Australian Stock Market’s Blockchain Projects Failed, a Blow to Private Ledgers
※編集部より:本文を一部修正して更新しました。