トレーダーや投資家を描いた映画では、ウォール街の金の亡者やコンピューターを操るオタクがしばしば登場する。だが人間トレーダーの時代はすでに過去のものだ。ようこそ、「ボット」の時代へ。
アルゴリズム取引
トレーディング・ボットは、特定の市場条件が満たされたときに取引を実行するアルゴリズムを使用する。2000年代初頭から、特に市場データの高度化・複雑化に伴い、ボットは飛躍的に成長してきた。そして今、暗号資産市場に解き放たれようとしている。
アルゴリズム取引は、ほとんどの資本市場で利用されている。米SEC(証券取引委員会)の2020年のレポートによると、市場取引の78%が「自動化システムやアルゴリズムに依存する取引センター(trading centers)」によって実行されているという。ボットによる株式取引は全体の60%〜70%との見積りもある。
機関投資家のトレーダーは、市場が特定の条件を満たしたときに起動するボットを借りたり、独自に作成している。これらのアルゴリズムは、売られすぎの銘柄を見つけたり、上昇を捉えるなど、適切な取引条件を求めて常に市場を検索している。ボットは適切な条件を見つけると、取引サイズの決定、取引の実行、損切りラインの設定、自動終了を行うスクリプトを実行する。
ボットは過去のデータをベースにしているため完璧ではない。だが、最新のAI(人工知能)技術と機械学習技術がすでに採用されており、これまで以上に高速で効率的な運用が可能。さらにボットは取引から感情を排除する(変動する市場に投資する際の感情的負担の一部を抑制できる)。
「理性は感情の奴隷」
18世紀の哲学者デイヴィッド・ヒュームが述べたように、「理性は感情の奴隷」であり、人間は常に、感情に基づいて誤った判断を下すリスクがある。例えば、悪名高い「リベンジ・トレード」は、トレーダーが大きな損失を取り戻そうとして無謀な取引を行い、負けを膨らませることを指す。
さらに問題は、人間は自分が間違っていることを認めないという事実だ。自分が選んだ企業や暗号資産に対する不合理な愛着から、本来なら撤退が最善策であるにもかかわらず、取引を長く続けることになる。
取引ボットは睡眠を必要とせず、24時間365日動いている暗号資産市場を動き回り、高いボラティリティと裁定取引のチャンスを利用するために利用される。ボットの利用は平等でもあり、ほとんどの大手中央集権型取引所(CEX)はユーザーにトレーディング・ボットを提供している。
最も一般的なボット戦略はグリッドボットで、指定されたレンジ内で自動的に売買注文を出す。原資産がレンジから外れた場合は取引は停止される。例えば、原資産が大きく下落した場合、ボットは特定のレンジ内で取引を停止するため、利益をすべて失うことを防ぐことができる。
自分とボットの双方を利用
分散投資戦略の一環として、トレーディング・ボットは個人投資家と機関投資家の双方にとって、適切に配分されたポートフォリオの中に位置づけることができる。パッシブインカム戦略や債券の購入と並行して、活用されていない資本で小さく稼ぐ方法として利用できる。また異なる資産や戦略に対して複数のボットを実行することで、資産の分散化をさらに強化することができる。
人間の本能と抜け目のなさは、市場を暴れまわるボットに永遠に勝てないのだろうか?
答えはまだわからない。だが機関投資家も個人投資家も、自分とボットの双方を利用することが良い結果をもたらすと理解し始めている。
ネイサン・トンプソン(Nathan Thompson)氏は、暗号資産取引所バイビット(Bybit)のリード・テックライター。
|翻訳:coindesk JAPAN
|編集:増田隆幸
|画像:Shutterstock, modified by CoinDesk
|原文:I, Trading Bot