バイナンスの現状は、Twitterに出回ったミーム画像が簡潔に表現している。
燃え盛る炎の中で、チャンポン・ジャオCEOは「大丈夫」と言っている。
実際は、間違いなく「大丈夫」ではない。
FTXから受け取った21億ドル
2019年、サム・バンクマン-フリード氏がまだ絶好調で、FTXが成長を続けていたとき、バイナンスはFTXのシリーズAの資金調達ラウンドに投資した。昨年、バンクマン-フリード氏は21億ドルでバイナンスが保有する株式を買い取り、その投資は清算された。
バイナンスのチャンポン・ジャオCEO氏によると、21億ドルはバイナンス発行のステーブルコインBUSD、バイナンスコイン(BNB)、そしてとFTX発行の取引所トークンFTTで支払われたという。
ジャオ氏は今週、米テレビ局CNBCの番組『Squawk Box』に出演し、21億ドルの大部分はFTTで、約5億8000万ドル相当のFTTをまだ保有していることを最近まで「忘れていた」と語った。
“In 2021, @SBF_FTX said he bought out your stake in the company. How much did he transfer to you?” @andrewrsorkin asks @cz_binance.
— Squawk Box (@SquawkCNBC) 2022年12月15日
“I remember it was $2.1 billion at the time and it was all in FTT tokens which are now worthless.” pic.twitter.com/uuP2L66CyS
「バンクマン-フリード氏は、2021年にあなたが保有するFTX株を買い取ったと発言しました。あなたはいくら受け取ったのですか?」と司会のアンドリュー・ソーキン氏がジャオ氏に質問。
「当時21億ドル相当だったと思います。その大部分がFTTトークンで、今となっては価値はゼロです」
偶然にも、ジャオ氏がFTTを清算したことが、FTX破綻の引き金となった。しかしそれよりも、5億ドル以上の存在を忘れていたと聞かされても、取引所を適切に運営するバイナンスの能力を信頼すべきだろうか?
いずれにせよジャオ氏は、21億ドルを最後の1セントまで追跡した方がいいだろう。破産手続きの観点からは、外部に対してFTXが行った取引は不正な譲渡と見なされるかもしれない。
つまり、破産裁判所は取引履歴をチェックし、すべてをドルで返還するようバイナンスに強制する可能性がある。支払いがFTTだったことは関係ない。
CNBCのインタビューで、バイナンスは21億ドルものドルを支払うことができるのかと聞かれたジャオ氏は「財政状況は強力」と答えた。
プルーフ・オブ・リザーブ
バイナンスが先月、FTX破綻で動揺する市場を落ち着けるために、プルーフ・オブ・リザーブを公表したことを覚えているだろうか?
だが担当した監査法人Mazars Groupがその案件から手を引いたことが判明した。バイナンスの資産状況を掲載したウェブサイトを削除し、パートナーシップを実質的に解消した。
Binance’s “auditor” Mazars, just quietly nuked the website containing Binance’s so called “proof of liabilities”.
— Bitfinex’ed 🔥🐧 Κασσάνδρα 🏺 (@Bitfinexed) 2022年12月16日
Here’s what it said before it was nuked. pic.twitter.com/73gV6dMeet
「バイナンスの『監査機関』Mazarsがひっそりと、バイナンスのいわゆる『負債の証拠』を含むウェブサイトを削除していた。
削除前の画像はこちら」
バイナンスが4大会計事務所のサービスを利用すれば問題はなくなる。CNBCの司会もそう示唆した。
しかしジャオ氏は、4大会計事務所は暗号資産取引所と仕事をしておらず、暗号資産取引所を理解していないと答えた。ちなみに米コインベースは先日、4大会計事務所の1つ、デロイト(Deloitte)からレポートを受け取っている。
ジャオ氏は(決して皮肉ではなく)「この業界では、すべてが高い透明性を持っている」と語った。
高まる不信感
この1週間でバイナンスへの不信感が高まる中、バイナンスからの引き出しは数十億ドルにのぼっている。今のところ引き出しが停止されたり、その処理に問題を抱えていることはなさそうだが、財政状況にまつわる不透明感は増すばかりだ。
それに対してジャオ氏が暗号資産コミュニティに提供したものは、懸念をさらに煽るようなものばかり。スケジュールのはっきりしない「完全な監査」について曖昧な約束をしたり、具体的で検証可能な証拠なしにバイナンスは堅調と発言している。
投資家はもう、それらを信じていない。
最大の懸念は、たとえバイナンスの担保資産が適切だとしても、取り付け騒ぎが起こったり、準備資産として保有している資産の1つに問題が発生すれば、状況はすぐに一変してしまうことだ。
More than 70% of Binance’s reserves are in BNB, BUSD, and Tether. This is a literal disaster waiting to happen. What’s going to light the match?
— Mike Alfred (@mikealfred) 2022年12月9日
「バイナンスの準備資産の70%以上は、BNB、BUSD、テザーが占めている。まさにいつ大惨事が起きてもおかしくない。大惨事のきっかけは何だろう?」
たくさんの「たら、れば」
暗号資産取引所にはよくあるシナリオだ。すべては大丈夫……大丈夫でなくなるまで。
バイナンスの準備資産に含まれるステーブルコインがその価値を維持できたら、すべては大丈夫。
真のプルーフ・オブ・リザーブを提供できたら、すべては大丈夫。
取り付け騒ぎが起こらなければ、すべては大丈夫。
完全な監査を公表できたら、すべては大丈夫。
米司法省が刑事告訴を行わなければ、すべては大丈夫。
だが「たら、れば」は毎日、大きくなるばかり。問題に対処するための具体的で検証可能な証拠を提供しない限りは。
それまではすべて大丈夫、ではなく事態は悪化していく。
ジェネビーブ・ロック-デクター(Genevieve Roch-Decter)氏は、投資プラットフォームを手がけるグリット・キャピタル(Grit Capital)のCEO。金融に関するニュースレターも発行している。
|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:CNBCに出演したチャンポン・ジャオCEO(”Squawk Box,” CNBC)
|原文:With Binance, Everything Is Not Fine