およそ1年前、2022年を迎えるために大晦日にタイムズスクエアで恒例の「ボール・ドロップ」が行われた直後、暗号資産(仮想通貨)、ブロックチェーン、デジタル資産のコミュニティは、メインストリームへの普及を夢見ながら新年を迎えていた。
ビットコイン(BTC)は4万ドル付近で取引され、ロサンゼルスにある有名なアリーナの名称は大手取引所の名を冠したものに変更され、セレブ、アスリート、ミュージシャンたちが新しい金融エコシステムをこぞって宣伝していた。
あれから1年、激動の日々だった。ビットコインは60%下落。一度は名を馳せた暗号資産企業のセルシウス・ネットワーク(Celsius Network)やブロックファイ(BlockFi)は、破産裁判所での破産手続きが進行中だ。新しい年を迎えるにあたり、少なくとも1つのスタジアムから、暗号資産取引所の名前が消えることになった。
2022年の振り返りと2023年の予測
警察、金融捜査当局、アンチマネーロンダリング捜査当局は2022年、暗号資産関連の詐欺、盗難、ハッキングで大忙しだった。盗まれたBored ApesのNFTの話だけをしているわけではない。
2022年に私たちが何かを学んだとしたらそれは、警察が金融犯罪の可能性について最初に連絡を受けてから逮捕に至るまで、ブロックチェーン分析は捜査を加速させてくれるということ。
私の勤めるブロックチェーン・インテリジェンス・グループ(Blockchain Intelligence Group)は3月、Frostiesと呼ばれるNFTプロジェクトに関わる不審な動きを発見し、警察に連絡した。捜査官はブロックチェーンやその他の電子データで金融取引を追跡。犯人を特定して逮捕し、計画されていたNFT詐欺を防ぐことができた。
これまでなら何カ月もかかった大変な捜査が、わずか数週間で済んだ。2022年は市場の低迷にもかかわらず、暗号資産関連の事件の数、被害額ともに増加したことを考えれば、これは重要なことだ。
2023年、ブロックチェーンを活用した捜査(および分析ツール)に対するニーズはさらに高まるだろう。サイバー攻撃や国境を超えた資金の動きにまつわる複雑な捜査を行う国際的な規制当局から、ロマンス詐欺、投資詐欺などについての市民からの通報に対応する地方レベルの警察にまでニーズは広範囲に拡大している。
地方警察も金融犯罪の捜査官をトレーニングし、最新の暗号資産捜査に関する教育にリソースを費やすようになるだろう。
教育と犯罪防止
暗号資産サービスを提供する企業は2023年、多国籍犯罪組織や麻薬密輸組織について、もっと学ぶ必要があるだろう。不審な行為について報告し、犯罪の可能性がある行為を理解することは、エコシステムに参加するすべての人の義務だ。
1980〜90年代にかけての麻薬カルテルの台頭と同じように、犯罪者を支える新しいテクノロジーを持ったプレーヤーが登場している。かつてない透明性を持った暗号資産は、隠れて資金を動かすことを困難にするはずだが、必ずしもそうはなっていない。
暗号資産は検証可能だが、多国籍犯罪組織はビットコインやイーサリアムなどの分散型ネットワークの検閲耐性を利用して、違法行為による利益をまとめることができる。
そして、法定通貨と暗号資産の交換サービスや、ハッキングを行ったり、フィッシング詐欺によって暗号資産を集めるためのコードや情報を提供するなど、サービスとしての犯罪も台頭している。犯罪の分業化によって、さらに新しいプレーヤーが登場し続けるだろう。
ブロックチェーン分析は、違法行為からの資金の流れの追跡に役立つが、解決策の一部に過ぎない。暗号資産詐欺の被害者になることを避けるための教育が、2023年にはさらに重要になる。
まずは、従来は銀行サービスや投資が提供されていなかった場所(バー、ガソリンスタンド、コンビニの裏など)での、マネーロンダリングのツールとして台頭してきているビットコインATMの増加に反発するコミュニティから、そのような教育を始められるはずだ。
犯罪者たちは攻撃を続けるが、サイバーセキュリティ業界も力をつけている。ブロックチェーンと暗号資産分析が、対策として取り入れられるだろう。暗号資産捜査の分野は成長を続け、暗号資産詐欺を追跡するためのツールは警察にとっても、さらに手に入れやすくなる。金融捜査官たちは紙幣を追うだけでなく、暗号資産も追うようになる。
ビル・カラハン(Bill Callahan)氏は、米司法省の元金融特別捜査官。現在は、ブロックチェーン・インテリジェンス・グループ(Blockchain Intelligence Group)の政府・戦略問題担当ディレクターを務める。
|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:Crypto’s Responsibility to Law Enforcement in 2023 and Beyond