シルバーゲート銀行(Silvergate Bank)は1988年、当時大流行していた貯蓄貸付組合(S&L)としてサンディエゴで設立された。今では「成長を続けるデジタル通貨業界向けに、革新的金融インフラソリューションを提供する有力な」銀行となっている。
公式ウェブサイトによればシルバーゲートは、銀行との関係を維持することに困難を抱えがちな、1300以上のフィンテック企業を含めた暗号資産企業を顧客としている。そのため、シルバーゲートの運用資産残高(AUM)がここ数年で急速に増大していることは、おそらく驚きではないだろう。株価も、2019年11月から2021年11月にかけて、1500%以上も上昇した。
しかしFTX破綻後、顧客はシルバーゲートから離れていき、2022年第4四半期の資産引き出し額は、総預金額の70%近い81億ドルにのぼった。エリザベス・ウォーレン米上院議員は、FTXやアラメダ・リサーチとの関連について質問する痛烈な書簡をシルバーゲートに送った。これを受けて株価は下落、ここ1カ月で40%以上下落している。
私はシルバーゲートの支払い能力について不安を広めようとしているわけではない。シルバーゲートは顧客からの引き出しに応じることができているし、従業員の40%を解雇し、昨年メタ(Meta、旧フェイスブック)から買収したデジタル通貨プロジェクト「ディエム(Diem)」など、費用のかさむアイデアを放棄することで、コスト削減にも取り組んでいる。
しかしここで注目すべきなのは、シルバーゲートがどのようにして引き出しに対応したのか、という点だ。
住宅業界向けの仕組みを利用
私は昨年11月、暗号資産業界の信用危機が「他の市場に波及する可能性は低い」と書いたが、シルバーゲートによって、私の意見が間違っていたことが証明された。
引き出しの急増に応えるために、シルバーゲートはサンフランシスコの連邦住宅貸付銀行(Federal Home Loan Bank:FHLB)から何十億ドルもの融資を受けた。FHLBからの融資43億ドル(約5500億円)がバランスシート上にある状態で、シルバーゲートは2022年を終えることとなった。ちなみに2022年9月末時点では、FHLBからの融資はわずか7億ドル(約890億円)だった。
正直に言ってこのニュースを最初に聞いた時、私はFHLBについてあまり詳しく知らなかった。しかし、その名称から違和感を感じなかったとしても、FHLBは「メンバーに、住宅資金融資のための信頼できる資金源を提供する」というミッションステートメントを読めば十分だろう。
FHLBシステム(連邦住宅貸付銀行制度)はフーバー大統領政権下の1932年、連邦住宅貸付銀行法によって、大きな目標を掲げて作られた。住宅を所有するためのコストを下げること。FHLBは、シルバーゲートのような小規模な加盟行に流動性を与えている。つまり、今回のケースでは、暗号資産業界の一部が住宅取得コストを下げることを目標とした政府系機関によって救済されたことになる。
加盟行の短期的ニーズに対応
もちろんこれは違法ではない。違法ならば、すでにニュースになっているはずだ。FHLBの使命は「加盟行の短期的ニーズのために流動性」を提供することであり、預金額の70%の引き出しという事態はまさに、流動性が必要な状態だろう。さらにFHLBは、住宅資金や(どんな目的であれ)コミュニティ投資をサポートする加盟行をサポートすることにもなっている。
役割がこれだけ曖昧なら、今回のケースは違法には当たらない。
だが違法でないからといって、疑問を感じないわけでもない。もちろんシルバーゲートが破綻しなかったことは喜ばしいことだが、救済されただけではないだろうか?
政府によってその一部が支えられているとなったら、暗号資産支持者は、暗号資産はしっかりしたものだと投資家を説得することが難しくなるだろう。
伝統的金融機関からの独立とは?
暗号資産には下支えが必要なのだろうか? もしそうだとしたら、そもそも存在するべきではないかもしれない。
銀行のような存在が、暗号資産投資の下落リスクを負いたくないとしたら、預金者や融資ポートフォリオすべてが、ほぼ完全に暗号資産企業のみで埋め尽くされている状況は望ましくないだろう。銀行はより厳格な担保ルール、または多くの他の業界にまたがる広範な分散化によって、リスク管理を行うべきかもしれない。
さらにFHLBの貸付は、銀行が破綻した場合、連邦預金保険公社(FDIC)による補償よりも上位に扱われる。なぜその点に注目すべきなのか?
業界紙『American Banker』にジョン・ヘルトマン(John Heltman)氏が書いたとおり、「規制当局がシルバーゲートなどの、暗号資産に関わっており、住宅貸付銀行から貸付を受けている銀行を閉鎖させたとすると、その破綻は(FDICの)連邦預金保険基金に負担をかける」ことになる。
そうしたシナリオは、アメリカのあらゆる銀行が加盟するFDICに壊滅的なダメージをもたらすことはないが、暗号資産業界がもはや独立した存在ではないことを強調することになる。
つまり、FRB(連邦準備制度理事会)が12月に述べたこととは異なり、暗号資産業界の信用危機は確かに、「実体」経済へと少し伝播した。もちろん暗号資産業界は、まだまだ小さな存在だ。アメリカの銀行預金は何十兆ドルにものぼり、シルバーゲートは規模はそれに比べれば、本当に小規模だ。
しかし、暗号資産企業にサービスを提供する金融機関から、同様のニュースがより多く伝わるようになるだろう。暗号資産が伝統的金融機関から独立するために生まれたのだとしたら、困った時にそうした組織に頼るべきではないはずだ。
|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:T. Schneider / Shutterstock.com
|原文:President Herbert Hoover Saves the Day for a Crypto Bank? Yeah, That’s Weird