東京証券取引所グループと大阪証券取引所が2013年に統合してできた日本取引所グループ (JPXグループ) は、2015年から分散型台帳技術(DLT)に関する研究チームを立ち上げ、2016年以降、証券・銀行などと協力して調査や実証実験に取り組んできた。JPXグループと金融機関各社が連携した取り組みの歴史を振り返ってみた。
2016年~ 大手銀行・証券と連携、「金融インフラ」への適用可能性を調査
2016年には JPXグループの業界連携型DLT実証実験の枠組みの中で、金融市場インフラに対する分散型台帳技術の適用可能性についての検討が始まった。実証実験に参加したのはSBI証券、証券保管振替機構、野村證券、マネックス証券、みずほ証券、三菱東京UFJ銀行(当時)の6金融機関と、日本IBM、野村総合研究所。プライベート型のハイパーレッジャー・ファブリックとパブリック型のイーサリアムを比較し、ハイパーレッジャー・ファブリックを用いた。
実証実験のワーキングペーパーは、分散型台帳の活用により業務の効率化やコスト低減が期待できると結論付けた。また「DLTの適用によるイノベーションは、その技術的特性を可能な限り活かしつつ、既存の業務プロセスを見直すことで初めて得られるものと考える」とも付け加えた。
2017年~ 大和証券ほか「約定照合」業務に適用
2017年9-12月には、大和証券グループがオーナーとなって、約定照合業務におけるブロックチェーン適用の検討を行った。
証券取引では、売買で発生した約定通知を元に、異なる金融機関の間でそれらを照合し、決済・記録するプロセスがある。そのプロセスを自動化するため、さまざまなサービスプロバイダーがシステムを提供してきた一方で、業界標準の規格が存在しないという。
検討では、標準仕様の策定に取り掛かる必要性が認識され、コンソーシアム型の分散型台帳技術であれば機能要件を満たすだろうとされた。
2018年のフェーズ2ではスマートコントラクトの有用性などを確認
フェーズ2の検討は2018年9-12月に行われた。分散型台帳技術を有効な選択肢と認め、スマートコントラクトの活用で情報連携の効率化やコスト削減を見込めるとし、さらなる取り組みを進めると結論づけた。
2017年 「KYC」業務の実証実験
2017年にはSBIホールディングスとSBI BITSとNECが中心となり、ブロックチェーン技術を活用した業界初の本人確認(KYC)業務の実証実験を行った。
マネーロンダリング規制が厳しくなる中、証券会社はユーザーからの口座開設申し込みに際してKYC業務を行うが、各証券会社で重複した業務があると報告書は指摘。ユーザー側にも、2社目以降の口座開設手続きでも、毎回本人確認書類を提出するなど不便があるとした。
実証実験では、証券会社間で KYC情報を迅速かつセキュアに共有することで、ユーザーの口座開設手続きの利便性向上と証券会社の口座開設業務の効率化に繋がるという。システムの基盤としてデータの改ざん・消失が極めて困難であるブロックチェーン技術の適用が可能と結論した。
一方で、法規制に対応するため継続的な協議が必要であり、個人情報の安全な管理の仕組みを構築することが求められるとした。ユーザー主権型のデータ保管・流通を検討する必要性にふれ、「分散型の個⼈情報保管・流通基盤を如何にデザインできるかがプライバシーとセキュリティの観点から重要なポイントとなる」と述べた。
2018年 国外に住む「非居住者」の約定情報の連携で実験
2018年1-6月には、日本ユニシスが金融機関10社と共に、非居住者取引における約定情報連携についての実証実験を行った。
非居住者取引とは、日本国外の居住者によって発生する国内有価証券の取引の約定から決済までの過程をさす。複数の国・地域に介在するステークホルダーを経由するため、各金融機関は迅速で確実な処理が求められる。不備があると遅延損害金などの負担が発生しうるので、金融機関は自動処理化を進めてきた。
実験では、非居住者取引の際の約定情報を早期に連携するシステムを評価した。分散型台帳技術を採用することで、同取引における決済照合率の工場に寄与しうると結論した。ブロックチェーン技術は「効率性等の観点で従来型システムに迫るもので、機能範囲を絞ることで十分に実用に耐えうることを確認した」と評価した。
文:小西雄志
編集:CoinDesk Japan
写真:Shutterstock