昨年5月、世界経済フォーラム(WEF)の年次総会、いわゆる「ダボス会議」で暗号資産業界は大きな存在感を示した。
それから8カ月、大手暗号資産企業の破綻や市場の低迷があったが、業界はまだダボスで存在感を示している。だが、前年に比べると、はるかに目立たない。メイン会場に続く中心街「プロメナーデ(Promenade)」には、ダボス会議の参加者にプロジェクトをアピールするために広告を出したり、「ハウス」と呼ばれる特設会場を設置する暗号資産企業がまだ複数存在している。
8カ月で一変
だが、暗号資産企業の出展は大幅に少なくなっている。出展しているのは、サークル(Circle)、グローバル・ブロックチェーン・ビジネス・カウンシル(Global Blockchain Business Council:GBBC)、キャスパー・ラボ(Casper Labs)、ファイルコイン財団(Filecoin Foundation)など。
昨年は暗号資産企業の広告がいたるところにあったが、今年は金融大手、テック大手に囲まれてほとんど目立たない。ビットコイン(BTC)をアピールする無料ピザの屋台や通行人をターゲットにした大量の広告も見られない。
「8カ月で大きく変わった。去年は暗号資産企業のハウスが5フィートから10フィートおきにあった」とリップル(Ripple)のシニア・バイスプレジデント、ブルックス・エントウィッスル(Brooks Entwistle)氏は語った。
昨年の開催は、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、1月から5月に延期された。つまり、広告を出したり、ハウスを出展する企業の多くは、暗号資産市場がまだ強気相場の時期に申し込みをした可能性が高い。
対象的に今年の申し込みは、価格が下落した後に行われただろう。
「5月にここに来て以降、多くの混乱を目の当たりにしてきた。(今年は)NFTのギャラリーはない。私たちは仕事し、会話するためにここに来ている」(エントウィッスル氏)
今年も参加している人たちは(弱気相場に)屈していない。ファイルコイン財団の政策責任者マルタ・ベルチャー(Marta Belcher)氏は、今年のイベントはノイズが少なく、実際のテクノロジーに焦点を当てた会話が可能になったと考えている。
「評価を語ることは時期尚早だが、現時点までの反応は心強いものだった」(ベルチャー氏)
メインイベント
ここ数年と同様に、暗号資産はメイン会場でも存在感を示している。暗号資産業界のさまざまな側面を取り上げたパネルディスカッションが多数あり、特に中央銀行デジタル通貨(CBDC)、デジタルID、トークン化経済など、特定のトピックに焦点が当てられている。
公式カンファレンスは、1月17日にスタート。暗号資産企業各社は前日16日から非公式な独自イベントをスタートさせた。
サークル、グローバル・ブロックチェーン・ビジネス・カウンシル(GBBC)、キャスパーラボ、ファイルコイン財団は、破綻したFTXから中央銀行デジタル通貨まで、あらゆることをテーマにしたパネルディスカッションを開催。
FTXのサム・バンクマン-フリード前CEOは「詐欺師」とスカイブリッジ・キャピタル(Skybridge Capital)の創業者アントニー・スカラムーチ(Anthony Scaramucci)氏は語り、「私は実際、中央銀行デジタル通貨が解決策になるとは思っていない」と歴史家のニール・ファーガソン(Niall Ferguson)氏は語った。
規制当局や政策立案者も登壇
より意外なことは、規制当局や政策立案者がこうしたパネルディスカッションに積極的に参加していることかもしれない。GBBCが主催した、公的機関によるブロックチェーン利用に関するパネルディスカッションでは、複数の国連代表、CFTC(米商品先物取引委員会)のクリスティ・ゴールドスミス・ロメロ(Christy Goldsmith Romero)委員長、オーストリア中央銀行のヨハネス・ドゥオン(Johannes Duong)氏が自らの仕事について語った。
国連機関の国際農業開発基金(IFAD)のアドビット・ナス(Advit Nath)氏は、特定地域における寄付金の流れを追跡するためにブロックチェーンツールを積極的に使用していると述べた。ゴールドスミス・ロメロ委員長は、ブロックチェーンは本質的にすべての取引を記録するため、特定の取引や犯罪がCFTCの管轄か否かを確認することは比較的容易であり、また一般的に市場監視ツールとして使用することができると述べた。
暗号資産企業が主催するイベントも参加者を集めていた。キャスパーラボの特設会場は16日夕方には人で溢れ、ファイルコインが主催したレセプションは立ち見が出るほどだった。
とはいえ、この1週間で業界にどんな成果があるかはわからない。エントウィッスル氏は、ダボス会議の参加目的は潜在顧客と会うことと語った。
「我々のここでのアプローチは、会議について戦術的であること」と述べ、リップルが自社ハウスを設置していないことに触れた。
ダボス会議は結局のところ、人脈を作り、可能性のある投資家や顧客を見つける場だ。
FTXの影
もちろん、FTXの件も、今年のダボス会議で暗号資産業界が比較的目立たない要因となっているだろう。多くのパネルディスカッションでは、FTXが話題にあがっているとエントウィッスル氏は指摘した。
フィナンシャル・タイムズ(Financial Times)主催のパネルディスカッションに登壇したサークルのジェレミー・アレール(Jeremy Allaire)CEOは、業界回復には善玉と悪玉を区別することが必要と述べた。
「リアルな実用性や価値を持たない投機的な資産と、実用性を持つよう設計されたデジタル資産を区別する必要がある。規制されたものと、されていないものを区別する必要がある」(アレールCEO)
そして、規制の強化・明確化のためには、アメリカの各規制当局が持ち得る権限を明確にする法案を議会が通過させることが重要とゴールドスミス・ロメロCFTC委員長はパネルディスカッションで述べた。
ダボス会議に参加した暗号資産業界関係者は、こうした規制の強化が起こり得るかどうかの一端を知ることができるかもしれない。
スカラムーチ氏は、FTXのサム・バンクマン-フリード前CEOのような人物を信頼するという間違いを自身が「おそらく繰り返すだろう」と語り、「リスクテイクをやめるつもりはない」と続けた。
|翻訳:coindesk JAPAN
|編集:増田隆幸
|画像:Nikhilesh De/CoinDesk
|原文:Davos 2023: Crypto Is Down but Not Out