多くの人が、2023年は「DAOの年」になると語っている。DAO(自律分散型組織)の爆発的な増加と、誰でもDAOをさらに簡単に始めることができるソフトウェアの大きな進歩が理由だ。2023年がDAOの年になる可能性は高そうだが、同時にDAOが法律に従う年にもなるだろうか?
「法を破る」は極端かもしれないが、合法な組織として登録されていなければ、政府によって認知されていないことになる。
なかにはあまり気にせず新規ビジネスをスタートさせる人がいるかもしれないが、今の経済の大半は、組織が法的なポジションを獲得することをベースにしている。
伝統的な企業や組織にとって、規模、あるいは営利目的か非営利かにかかわらず、まず最初に行うことは、法的な認可を得ることで、通常、株式会社、財団、有限責任会社などの形態をとる。
しかし問題は、複数の人間が法人を設立せずに共通の事業に取り組む場合、その呼び名がDAOであれ、企業であれ、共同体であっても、法律では一律してゼネラル・パートナーシップ(General Partnership:無限責任組合、日本では合名会社に当たる)として扱われることだ。
ぜネラル・パートナーシップの問題点
ゼネラル・パートナーシップは、3つの大きな問題点がある。
1つ目は、ゼネラル・パートナーシップでは、関係者はそれぞれ、組織の行動や他の関係者の行動に責任を持つこと。つまり、詐欺やハッキング、事故など、DAOで何か問題が起こった場合、組織の他のメンバーや外部の人間が、個人メンバーとしてのあなたを追求し、資産や自宅、所有物などを取り上げようとすることができる。
2つ目は、ゼネラル・パートナーシップは法の観点から、人格として扱われないこと。つまり、法人格を持たない。よって、銀行口座の開設、財産の購入や所有ができず、訴訟を起こしたり、訴訟を起こされたり、従業員を雇用することもできない。
もちろん、すべてのDAOが銀行口座の開設を望むわけではない(オンチェーンで財務管理を簡単に行うことができるから)が、大半のDAOは少なくとも、自分たちのロゴに対する知的財産権や登録商標の保有を望むだろう。
3つ目は、ゼネラル・パートナーシップが利益を上げた場合、参加者個人が、その利益に対する税金に責任を負うこと。ゼネラル・パートナーシップの10%を所有している場合、利益の10%に対して税金を払うことになる。ほとんどの人はこの点を認識していない。
DAOの大半を占める、法人化されていないDAOは、自分たちで知っているか知らないかは関係なく、これら3つの問題すべてを抱えている。
そうしたDAOはメンバーに対して、DAOの利益に対する税金の支払いを義務付けていない。税務当局がやって来て、DAOのメンバーが支払うべき税金を支払っていないことを突き止めるのは時間の問題だ。
そして法人化されていないDAOやそのメンバーに対する訴訟が増えるに従って、個人的責任を避けるために従うべきだった法律に従っていなかったことに気づくだろう。
DAOが法律に従うには?
2021年初期には、DAOが法人化するために利用できる良い選択肢はなかった。国や州が提供していたものは、DAOがあまりに多く妥協しなければならないような選択肢ばかりだった。例えば、メンバーの本名と住所のリストを作ったり、組織に対して権力を持つ取締役会や理事会を選出したり、会議での決定事項を文章の形で記録することが義務付けられたりした。
しかし2022年、事態は一変した。DAOは現在、当局や法的システムにかかわる選択肢を手にしており、いくつかの法域では、組織の最新進化形態としてDAOを認知している。
アメリカのワイオミング州とテネシー州、マーシャル諸島共和国では、DAOのLLC(有限責任会社)という、従来のLLCのメリットをすべて備え、非常に柔軟性がありパワフルな、DAOのための選択肢が用意されている。
さらに、Unincorporated Nonprofit Association(UNA:法人格のない非営利団体)や、コロラド州のLimited Cooperative Associations(LCA:有限協同組合)も活用されている。スイス、ケイマン諸島、英国領ヴァージン諸島での財団設立を選択したDAOもある。
2022年初め以降、何百ものDAOが前述の法域で法人化を行い、銀行サービスへのアクセスを手にし、メンバーは個人的責任から保護され、多くの場合、DAOが税金を支払えるようになっている。非営利組織の場合、法人化すれば、通常、所得税を支払わなくて済む。
法律に従うことで、分散化が犠牲になるのか?
法人化を検討する際にDAOメンバーがしばしば持つ懸念は、法人化によってDAOの分散化の度合いが低下し、Web3の中核的価値に反するのではないかという点だ。法人となることで、法人化されていないDAOに比べると検閲耐性の低い、単一障害点が生まれるという懸念だ。
しかし、法人化の目的は、DAOを訴えたいと考える人に対して、責任追求のターゲットを作り出すことにあることを考えてほしい。法人が訴訟を起こされ、資産を失い、破綻に追い込まれたとしても、DAOのメンバーが自らのトークンやガバナンスのためのスマートコントラクト、さらにはやり直しの機会を見極め、事業を再開する力を失うことにはならない。
法人化は、それ以前に存在しなかったターゲットを生み出すわけではない。単にターゲットをDAOメンバーから逸らすだけだ。
法人化のもう1つのメリットは、法人のガバナンス書類(組織規約や運営合意書など)を使って、組織がガバナンスや運営において分散型となるよう義務付けることができる点だ。法人化されていないDAOの場合、少数の個人グループや強力な第三者が過剰に権力を掌握して、実質的に組織を中央集権化しても対抗手段を持たない。
暗号資産コミュニティが最近の出来事から教訓を学ぶとしたら、どれほど規制を受けているように見えたり、信頼できるように見えても、中央集権型組織は私物化される可能性があり、人間の欲望を隠すことができるということ。
セルシウス・ネットワーク(Celsius Network)やFTXといった、2022年が鳴らした警鐘が、資産と意思決定の分散化の必要性を示し、DAOの再興につながることを願いたい。
DAOツールに対する投資が加速するなか、DAOはより無駄を省いて効率的になり、テレグラムでメッセージをチェックするくらい、参加は簡単になるだろう。
こうした次のレベルに到達するための方法の1つは、DAOが成熟し、グローバル経済に統合できるように、既存の法的システムと必要に応じて交わっていくことだ。そのために、分散化を諦める必要はなく、そうすることで2023年はDAOの年となっていく。
アダム・ミラー(Adam Miller)氏:DAOの法人化をサポートするMIDAOの共同創業者兼CEO。
|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
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|原文:2023: The Year DAOs Follow the Law?