激動の2022年を終え、楽観的な人たちの多くは、市場の動きよりも、暗号資産テクノロジーの継続的な発展が世界にもたらす影響によりフォーカスできるチャンスを歓迎している。経済的機会と個人のエンパワーメントを拡大し、金融やカルチャーのあり方を変えるという、かなり大きなインパクトになる可能性があり、もっと注目されてもよいはずだ。
テクノロジーにフォーカスすると書くと通常、分散化の程度がさまざまなネットワーク上で情報を保管・流通させ、エンゲージメントや経済活動の新しい形態を促進することを意味する。だが、いまだに大きく見過ごされてしまっていることは、他の分野でのイノベーションを支える可能性だ。影響は、ブロックチェーン、金融、カルチャーを超えて感じられるだろう。
影響力の根源はマーケットにある。この数カ月のマーケットを象徴している壊滅的な損失、悪徳業者、エクスプロイトによる大きな被害、規制当局の取り締まりなどを考えると、意外に聞こえるかもしれない。また、銀行など機関投資家の参入が進んでいることを考えても、不自然に聞こえるかもしれない。
詳しく説明するために、少し昔話をさせてほしい。
従来の取引所にはないフレキシビリティ
暗号資産市場という熱狂的な世界に新たに参入した人たちは、その元祖を知らないかもしれない。最初のピア・ツー・ピア(P2P)暗号資産取引は実際、オンライン掲示板のようなもので行われた。低コストで立ち上げは簡単、高いレベルの信頼が前提となっていた。
需要の高まりとともに進化したが、初期バージョンはまだ初歩的で、ぎこちなく、少しずつ開発された。そこから、特にプロ投資家が関心を持つようになると、徐々に洗練され、今ではシステム全体でかなりの額の資産の流れを支えるために作られたサービス、ストラクチャー、ベストプラクティスが複雑に融合している。
しかし、旧来の取引所ほど複雑ではない。その1つの要因は、決済と保管が簡素化されていること。また、従来の金融の世界に手を広げているものの、暗号資産プラットフォームはまだほとんどが、規制が整備されていない、ニッチな分野で運営されていることも1つの要因となっている。
さらに、中央集権型オーダーブック、分散型流動性プール、まだテストされていない新しい仕組みなど、さまざまな構成で簡単に始めることができる。従来の取引所にはないフレキシビリティは、暗号資産エコシステムのスーパーパワーの1つだ。
確かにリスクもある。プラットフォーム運営会社の透明性の欠如、規制による保護の欠如、ハッキングやコードのエラーなどがすぐに思い浮かぶ。しかし、親しみが増し、技術的ソリューションが改善され、インターフェイスが進化し、規制当局がさらに関心を寄せるにつれて、リスクの多くは軽減され得る。イノベーションとは、安全策を講じながら、可能性にフォーカスすること。暗号資産市場のフレキシブルな構造が重要だ。
ブロックチェーンベースのプロトコルやアプリケーションが、トークンを作成し、それをユーザーや投資家に分配することで比較的簡単に資金を調達できることは、今ではよく知られている。
ICO(新規コイン公開)は2017年にブームとなり、バブルが崩壊して、厳しい教訓となった。しかしそれ以来、トークンはしばしば、株式と同じように使われ、新しいレイヤー1ブロックチェーンや分散型アプリケーション、クリエイティブな取り組みにおける経済活動をスタートさせたり、促進させている。
暗号資産以外のテクノロジーをサポート
ブロックチェーンベースのプロジェクトのための、ブロックチェーンベースの資金調達は理解できる。しかし私たちは、他の無関係なテクノロジーのための資金調達やエンゲージメントをサポートできる暗号資産の可能性を見落としている。暗号資産市場の構造的フレキシビリティの可能性を見逃している。
次のようなシナリオを想像して欲しい。
- アンゴラの首都ルアンダにある地方銀行が、デジタルの効率性をアンゴラの港にもたらすことを目指すスタートアップへの融資を小口化して、トークン化するプラットフォームを設立。流動性を追加し、資金調達のコストを下げることで、貸し手のリスクを軽減する。
- エチオピアの首都アディスアベバのインキュベーターがエチオピアのイノベーション・テクノロジー省と協力して、垂直農場や人工衛星打ち上げ施設などのアイデアを持った既存のスタートアップが発行するトークンを取引するための取引所を構築する。
- ガーナの首都アクラのベンチャーファンドが、ガーナの証券取引所と協力して、トークンベースの資金調達を扱う暗号資産プラットフォームを開設する。ICO方式だが、政府による監視と十分な情報開示があり、遠隔医療からeラーニングまで、さまざまなプロジェクトを軌道に乗せ、市場を捉えることをサポートする。
発展途上国の政治家は、経済成長におけるテクノロジーの重要性を叫ぶが、投資したくなるような政策を実際に行っている政治家はほとんどいない。中心的な都市以外での資金調達は小さくなりがち。先進国ほど資本プールは潤沢ではなく、地理的な制限と通信網の制限から、ターゲット層の規模も限られがちだ。
だが、すべてがそうとは限らない。流動的で透明性があり、イノベーティブな市場は、地域の発展を促すことができる。とりわけ、国境を超えた投資が可能な場合は、グローバル規模なテクノロジー構想につながる可能性がある。
もちろん、ブロックチェーンは必ずしも、こうした資金調達に必須ではない。だがパブリックブロックチェーンの透明性と不変性は、貸し手、投資家、スタートアップに大きな確信を与え、幅広い参加者の関心を集めることができる。また旧来の取引所よりも立ち上げが簡単なため、市場投入までの時間やコストを削減できる。
私はトレーディングシステムのエンジニアでも、ブロックチェーン開発者でもないため、枠組みについて間違っているところがあるかもしれないが、資産を動かすための仕組みはすでに存在しており、取引所の構築も数年前ほど難しくない。
取引所のバックエンドシステムをプラグアンドプレイで提供するプラットフォームが登場し、取引所に必要なサービス(ウォレット、カストディ、顧客確認、ステーキング、税務会計など)が、ある程度、モジュール化され、簡単に構築できるようエコシステムは進化している。想像するに複雑なのは、銀行や決済サービスとの接続部分だが、ステーブルコインの利用の拡大が一時的な解決策となり得る。
規制はどうなる?
規制当局はどうだろうか? 明らかに、ユーザー保護、資金の流れ、他国の影響力などに関して、何らかの発言権を持ちたがるだろう。また、新しいものにはすべてリスクが伴うが、規制当局はそれを好まない。
しかし、雇用、税収、地域の状況を向上させ、かつ資産の分配に透明性をもたらす現地のテクノロジー企業のための資金調達手段の改善は、アピールがそれほど難しいはずがない。とりわけ政府が変化し、進歩に取り組む機会を求める若い世代の有権者の影響をますます受けるようになればなおさらだ。
またポートフォリオを構成するために、より幅広い資産を望む現地の機関投資家からの圧力や、安定した通貨やアクセスしやすい預金手段などの金融システムが整っていない場所に暮らしている個人投資家からの要望もあるだろう。
考えが甘いかもしれない。変化は困難だから。だが、とにかく変化は起きている。単に現地の人口動態、経済的な優先事項、政治的心理の変化だけではない。
自立のための新しいツールがレジリエンスとリーチを拡大し、私たちが依存する金融分野は再構築が始まっている。高度な金融システムが存在する地域における資金調達やエンゲージメントの確立は、間違いなく、新しい状況を探し求めている地域からの注目を集めることになる。
さらに、周辺地域で人類の発展に貢献し得るプロジェクトに取り組んでいる、聡明な人たちによっても後押しされるだろう。暗号資産市場のフレキシビリティは、トークンの発行、購入、移動が簡単である以上に、あらゆる分野の経済活動を促進する。つまり、暗号資産は当初の目的をはるかに超えた潜在的な影響力を持つスーパーパワーだ。
ノエル・アチェソン(Noelle Acheson)氏:CoinDeskとジェネシス・トレーディング(Genesis Trading)の元リサーチ責任者。
|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:Crypto Technology’s Impact Goes Beyond Crypto Technology