ビットコイン(BTC)やイーサリアム(ETH)など、主要暗号資産は2023年現時点まで、きわめて幸先の良いスタートを切っている。ビットコインは年初から約36%上昇、イーサリアムも約30%上昇した。
暗号資産市場が「底を打った」と考える理由はますます力強くなっている。マクロ経済データにも、今年は2022年の詐欺や大惨事の連続に比べて、はるかに明るい年になると示すものがある。
基本的なトレンド
これがおそらく、暗号資産が底を打ったとする根拠として最も説得力が強いものだろう。悪人と、その影響を伝播させるようなレバレッジ投資の影響はもう出し切った、というものだ。
心理的なレベルでは確かに、アレックス・マシンスキー(Alex Mashinsky)氏やドー・クォン(Do Kwon)氏、スリー・アローズ・キャピタル(Three Arrows Capital)やサム・バンクマン-フリード(Sam Bankman-Fried)氏が退場したことは、新しい始まりのチャンスのように感じられる。
新しい始まりは、新型コロナウイルスのパンデミックが促進した教育と熱意のおかげで、より強力なベースラインから始まっている。ビットコインは2022年11月9日、1万6000ドル(約200万円)で当面の底値を記録したが、2021年後半の高値から大きくさげているものの、2020年9月よりも60%以上高いものだった。
これは、大切な教訓だ。暗号資産は10年以上、ボラティリティは高いが一貫した成長を続けている。今年は重要な規制上のリスクが議論されているが、2021年のバブル的な上昇や、レバレッジに飢えた詐欺師たちを除けば、基本的なトレンドは続いているようだ。
アメリカのソフトランディング
だが、詐欺師たちを追放したことは主要な下落リスクを一掃したことを意味するものの、新たな強気相場の基盤にはならない。この先1年で最も大切なことは、マクロ経済の状況。特にインフレと利上げが暗号資産や他のリスク資産にもたらす影響だ。
インフレの状況は世界的に複雑だが、ビットコインとイーサリアムの現在の上昇は、アメリカはインフレを抑制するだけでなく、雇用に大きな打撃を与えずにインフレを止める「ソフトランディング」に成功するのではないかとの期待の高まりを反映しているだろう。
2022年に専門家たちは、パウエル議長率いる米連邦準備制度理事会(FRB)が2021年にアピールした「一時的なインフレ」という主張を完全に放棄したように見えた。しかし振り返ると、インフレはかなり一時的なものだったようだ。アメリカでのインフレ率は6カ月連続で低下している。
2022年12月の前月比の数字はとりわけポジティブで、消費者物価指数(CPI)は前月比で0.1%低下。一部の必需品は、FRBの2%のインフレ目標すら下回り、食品価格も前月比でわずか0.2%の上昇にとどまった。ガソリン価格は前月比9.4%下落している。この1年強のインフレを相殺するほどではないが、新しい安定したベースラインを築きつつあることは確かだ。
こうして、FRBが利上げペースを弱めるのではという期待が広がった。2022年の4回連続での0.75%利上げは、歴史的に見てもかなり積極的なものだったが、市場は今、2月の0.25%の利上げを完全に織り込み済みで、今年下半期には利上げがまったくなくなる可能性もある。
現在、前月比ではデフレ状態にあるにもかかわらず、利上げが議論されていること自体が驚きかもしれないが、この点はもう1つの好ましいデータを強調するものでもある。最新のレポートでは、失業率は歴史的に低水準の3.5%を維持しているが、賃金の上昇は若干遅いなど、雇用データが依然として強いため、FRBはある程度の圧力を維持する必要がある。
これはまさに、経済を壊滅的に減速させず、失業者を大量発生させることなく、インフレを抑え込む伝説のような「ソフトランディング」が確かな可能性を見せている状況だ。暗号資産などのリスク資産にとってもグッドニュースだ。
ヨーロッパと中国の混乱
ヨーロッパの状況はもっと複雑だ。ヨーロッパの1月の製造業・サービス業の指標は期待を上回り、6月以来初のプラスの経済成長への回帰を示している。
しかしヨーロッパは、アメリカほどソフトランディングとなる可能性は高くないだろう。欧州中央銀行(ECB)はいまだにインフレを懸念しているようで、この先もより積極的な利上げの継続を示唆している。
しかしこれも、グローバル経済の3つ目の中枢である中国に比べれば、はるかに良い見通しだ。中国はインフレ、さらには景気後退よりもさらに陰鬱な瀬戸際が迫り続けている。
まず、12月に「ゼロコロナ政策」が終了して以来、コロナ感染者数は劇的に減少したが、もっと恐ろしい急増が起こるかもしれない。さらに中国は依然として発展途上にある金融システムの基盤を脅かす、住宅相場の暴落に直面している。
2020年の負債を抱えた腐敗した開発業者への取り締まりを受けて、住宅価格は低迷を続け、12月には下落が加速した。FRBによると中国では、住宅は家計資産の45%と、アメリカの25%を大きく上回る割合を占めている。つまり、住宅価格の下落は、中国の消費にとってきわめてマイナスとなる。
広範なアンチ暗号資産政策がいまだに実施されていることを思えば、中国の先行きが暗号資産市場に直接影響を与えることはない。しかし中国は、グローバル経済に大きな影響を持つことから、付随する影響は大きくなる。
新型コロナウイルスによる混乱があまりに深刻で、中国の製造分野に打撃を与え続け、インフレを世界的に悪化させるかもしれない。一方で、住宅価格低迷を引き金とする中国の景気後退は、世界的な価格圧力を緩和するかもしれない。しかし同時に、世界的な成長と経済的な熱意も引き下げるかもしれない。
投機の衝動と戦う
金利と価格圧力に触れた以上、そこに内在する問題も指摘しなければならないだろう。中央銀行の利上げを主に心配する暗号資産投資家たちは、暗黙のうちに国債などの安全な投資対象と比較した、暗号資産価格の投機的要因に注目している。
だがいまや、そうした考え方から距離を置くときなのかもしれない。2020年〜2022年にかけての暗号資産のストーリーの1つは、2020年のロックダウン中に暗号資産について学んだ大量の新規参入者たちが、2021年に投機ブームを引き起こし、2022年にバブルが弾けたというものだ。
完璧な世界ならば、熱狂や暴落なしに、好奇心が継続し、確かな普及が続いたはずだ。莫大なリターンの期待を伴う熱狂によって、投機家は、エキサイティングな新しいトークンや、莫大なリターンを約束するカリスマを持った人物たちに惹かれてしまう傾向がある。
2022年は、そのような動物的本能に従うことのきわめて大きなリスクを冷徹に見せつけてくれる教訓の1年となった。昨年の今頃、テラ(LUNA)やFTTを保有していた人に聞いてみればわかるだろう。
|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:FRBのパウエル議長(Helene Braun/CoinDesk)
|原文:Why Is Crypto Bouncing Back?