NFTを知的財産ビジネスの主力にするには【オピニオン】

暗号資産関連の政策を動かしてきたのは多くの場合、証券取引法だった。だがNFTについては、知的財産権を優先する必要がある。すべてのNFTを金融資産として扱ってしまうと、知的財産にまつわるアメリカの絶対的なポジションを損なうことになる。

アメリカにおける知的財産の重要性

画一的なアプローチが及ぼす差し迫ったリスクは、NFTの商業的な可能性を傷つけることだ。NFTは知的財産を作成、使用、収益化する方法を進化させるだけでなく、アーティスト/ブランドとユーザーのエンゲージメントにも変化をもたらす。政策によって、NFTを通じてポートフォリオを拡大しているアーティストやブランドを後押しし、保護することがきわめて大切だ。

知的財産はアメリカ経済の重要な要素だ。米特許商標庁によると、製造業、放送、アーティストなど、知的財産保護を重要になる業界はアメリカのGDPの41%以上、労働人口の3分の1を占める。米商工会議所のグローバル・イノベーション・ポリシー・センター(Global Innovation Policy Center:GIPC)によると、アメリカの知的財産の価値は、世界の他のどの国の名目GDPよりも大きい6兆6000億ドル(約860兆円)で、アメリカの商品輸出の52%を占めている。

効果的な知的財産制度は、クリエイターや企業が新しい知的財産を生み出し、イノベーティブな方法でその権利から利益をあげることを促進する。こうした取り組みは動き始めており、米特許商標庁は昨年、NFTに関する情報を求めた。

産業界やアーティストの取り組み

産業界では、NFTは新しい研究開発の取り組みから、旧来の方法を超えデジタルマーケティング、そして知的財産を収益化するまったく新しい方法に至るまで、キャズムを乗り越えようとしている。ナイキ、ティファニーをはじめとする有名ブランドが2022年、NFTを販売し、何千億ドルもの収益を獲得した。ナイキの場合には、売上高が10億ドル(約1300億円)を超えた。

NFTは企業の収益に直接的に貢献し、企業が消費者とつながる方法を変容させている。過去にはファンフィクション(ファンによる二次創作)が、知的財産権保持者からの侵害行為に対する停止通告や訴訟につながったこともあったが、今ではアメリカのコミック大手DCコミックス(DC Comics)がパームNFTスタジオ(Palm NFT Studio)と連携して、NFT保有者にコミックのストーリー決定に参加してもらう取り組みを行なっている。企業はNFTの新規発行を通じて、ブランドのファンコミュニティを一晩で生み出し、保有者は限定特典などを通じて、ブランドに長期的に関わり続けることができる。

アーティストも、魅力的な実験によってファン層を広げている。デジタルイラストレーターのヤム・カルカイ(Yam Karkai)氏は、アート、表現、包摂、機会均等を称えるNFTコレクション「World of Women(WoW)」を立ち上げた。

WoWは著名タレントエージェント、ガイ・オゼアリー(Guy Oseary)氏に加わり、リース・ウィザースプーン(Reese Witherspoon)氏のメディア企業Hello Sunshineと契約。Web3における女性のエンパワーメントに取り組む財団も設立した。

アメリカに拠点を置くアーティストのタイラー・ホッブズ(Tyler Hobbs)氏とダンデライオン・ウィスト・マネ(Dandelion Wist Mané)氏は、独自のアルゴリズムを開発し、多くのコレクターをNFTの共同クリエイターとなってもらうプロジェクトQQLを立ち上げた。NFTブームが去っていた2022年後半、コレクションは完売し、1700万ドル(約22億円)近くの売上げを記録。イノベーティブで知的財産を主軸にしたNFTに対する需要は一時的なブームに終わらない可能性を示した。

知的財産権の行使

クリエイターはメタバース進出にあたって、すでに著作権や商標に関する法律を使って自らの権利を行使している。例えば、最新の評価額が40億ドル(約5200億円)を記録したユガ・ラボ(Yuga Labs)は、商標権侵害で、コピーを作成したアーティストのライダー・リップス(Ryder Ripps)氏を訴えた。

ナイキとストックX(StockX)の裁判では、ナイキはストックXが無許可でNFTを作成して商標を侵害したと主張している。

その一方で、作品を無制限に再利用できるクリエイティブ・コモンズ・ライセンス(CC0)が人気を集めている。

アメリカの知的財産権制度は、NFTによる知的財産の商業化の拡大を支えるだけでなく、NFTは権利執行のツールにもなっている。NFTを使った令状が発行され、偽造品対策のためのユースケースも開発が進んでいる。

規制による制約

しかし、NFTやその取引に使うスマートコントラクトを、楽曲をコピーして友人に送ることを防ぐソフトウェアのような旧来のデジタル権利管理ツールのように使うことはお勧めしない。

右クリックして、NFTと関連づけられた画像をコピー&ペースとすることはできる。だからと言って、認証された保有者が獲得するすべての体験にアクセスすることもできなければ、NFTが価値を維持することもない。

NFTから画像を取り出すことは、真正性の証明のないサイン入りの記念品のコピーを手にすることと変わらない。なにより、クリエイターの権利を侵害する可能性がある。

すべてのNFTが、知的財産に重点を置いたものではない。昨年、借り手がNFTを担保として使い、プロジェクトが「投資家」に高利回りを提供する金融化されたNFTが台頭した。これらは、貸付、証券取引、その他の金融規制の対象になるかもしれない。

米証券取引委員会(SEC)のゲンスラー委員長は、大半の交換可能なトークンは証券であるとのスタンスをとっている。SECや州の証券規制当局がNFT市場に関して同様の包括的な見解を示した場合、知的財産主導のNFTの勢いは削がれることになるだろう。

証券に関わる規制の制約は、NFTの目的ではなく、NFTが使用しているテクノロジーを理由に課されることになる。NFTの譲渡可能性は大きく制限されてしまうかもしれない。

SECに任せない

NFTを証券という枠に押し込めることは、企業やクリエイターが新しいテクノロジーを活用する気力を削ぎ、アメリカの知的財産制度が実現している経済的利益と相反する。GIPCによると、現在のアメリカのような効果的な知的財産保護を備えた経済は、イノベーティブな結果を産む可能性が70%高く、ベンチャーキャピタルやプライベートエクイティを惹きつける可能性も40%高い。

さらに、証券取引法は消費者保護に適した枠組みではない。他の新興業界と同様、詐欺師たちは新規参入者やバグを抱えたベータ版のツールにつけ込もうと待ち構えている。

2021年のNFTブーム最盛期には、多くのプロジェクトが壮大なキャッチフレーズやロードマップを掲げて登場したが、起業家が資金の持ち逃げ(ラグプル)をして、約束は果たされないままだった。このような事態は防がなければならず、米司法省はいくつかのNFTプロジェクトを告訴することで、効果的にラグプルに対処できることを示した。

アメリカには消費者保護のための強力なシステムが存在する。多くの権利保有者はすでに、製品やサービスに適用される消費者保護法を理解しており、NFT向けに既存のガイドライン、コントロールと評価のプロセスを調整することができる。

NFT分野の規制をSECに主導させるのではなく、NFTの成長は、アーティスト、ブランド、ファンがNFTの可能性を解き放つようにインセンティブを与えつつ、消費者へのダメージに対処し、価値ある次の時代を切り開く、知的財産を意識した政策アプローチによって導かれるべきだ。

そうでなければ、クリエイターや知的財産権保有者がNFTで何が実現できるかを目撃する前に、NFT制作の拠点がアメリカから国外へと場所を移してしまうだろう。

ダイアナ・スターン(Diana Stern)氏:パームNFTスタジオ(Palm NFT Studio)のジェネラルカウンセルを務める。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Cam Thompson/CoinDesk
|原文:Better Policy Can Turn NFTs Into an Intellectual Property Powerhouse