金融市場の上向きなムードをはじめ、経済データや他の指標は、米連邦準備制度理事会(FRB)が当初の予想に反して、アメリカ経済のソフトランディングに成功するかもしれないことを示している。
もしそうなれば、ビットコイン(BTC)を推奨する投資アドバイザーは、この分類の難しい資産を初心者が理解でき、ポートフォリオに保有できるものとして、どう説明するかという点について、また、振り出しに戻ることになった。
私からのアドバイスは次のとおりだ。
そんなことに悩む必要はない。ビットコインに価値がないと言っているわけではない。伝統的金融市場の用語や枠組みの中でビットコインを説明しようとする試みは、すべて失敗に終わるからだ。ビットコインの本当の価値(とその説明)は、別のところにある。
ウォール街で語られている、ビットコイン購入を推奨するストーリーをいくつかあげてみよう。
- 「インフレヘッジ」という説明がかつて一般的だった。昨年、消費者物価が高騰している際、ビットコインが下落したことで、このストーリーはダメになった。
- 上記と関連するが、少しニュアンスの異なる「デジタルゴールド」というストーリーもあった。ビットコインを政治的、経済的な不透明感に直面した際に、長期的な価値保管の手段となる希少なデジタル資産と考えるものだ。だが、これもあまりうまくいっていない。2021年以後に参入した機関投資家・個人投資家の大半が損失に苦しんでいる。
- 最後に、ドル基軸の国際通貨システムの破綻の可能性に備えた投資手段としてビットコインを保有すべきという長期的アイデアがある。現行の金融システムを管理する中央銀行への信頼が、ゆくゆくは消滅するというわけだ。こちらも最近の経済指標を見ると、少なくとも現状では説得力がない。
ドル崩壊というストーリー
3つ目のストーリーを細かく見ていこう。
2022年冬の終わりの経済状況を、経済と通貨におけるアメリカの覇権の終焉を招くような最悪の状況、そして通貨(=ドル)破綻の際の選択肢としてのビットコインという仮説を試す時と考えていた人もいる。
核兵器を保有するロシアはウクライナと戦争中。サプライチェーンは新型コロナウイルスと戦争によって混乱。インフレは40年間で最悪の水準だった。果敢な利上げを開始したFRBがインフレ抑制に失敗するだけでなく、深刻な困難を生み出し、圧倒的な政治的圧力に屈して方針撤回を余儀なくされるという懸念が広がった。
そのような失敗は最終的に、世界で最も強力な中央銀行への信頼喪失と、その延長線としてのドルへの信頼喪失につながると考える人がいた。一方、ビットコインはそのような人間の失敗に左右されない、コード主導の信頼できる代替手段として光輝くとされていた。
2023年の現実
しかし2023年、そのような陰鬱な予想は実現しなかった。IT業界とテックと金融業界における数十万人規模のレイオフにもかかわらず、1月の失業率は53年ぶりの低水準となる3.4%。同月の雇用拡大は事前予想の18万7000増を大幅に上回る51万3000増となった。
インフレ率もまだ高いが落ち着いてきている。米消費者物価指数は昨年12月は年率換算6.5%増と、11月の7.1%増から低下。米サプライマネジメント協会(Institute for Supply Management)が1月に購買担当者を対象に行った調査によると、製造業は12月よりも縮小が深刻化しており、景気後退の可能性が示唆されているが、その他の将来予測はより楽観的なものになってきている。
IMF(国際通貨基金)は先日、2023年の世界経済予測を10月の予測から0.2%高い2.9%成長へと上方修正。さらに、急速に回復している株式と債券の市場は、インフレは落ち着き、経済は厳しい経済破綻を経ずに、対処可能な成長率へと鈍化しているという、良いことばかりのシナリオが登場し始めていると、確信を強めているようだ。
そのような見方は、0.25%の利上げ決定後の会見でパウエルFRB議長が見せた、インフレと金利についての比較的楽観的な見方によってさらに強化された。
そうした予測が正しければ、パウエルFRB議長をはじめとするFOMC(連邦公開市場委員会)のメンバーは、消費者物価の高騰がコロナ関連の「一時的な」問題ではないと気づくのが遅すぎると批判された2021年に失った尊敬の一部を取り戻すだろう。もちろんFRBにはこれからも多くの批判が寄せられるが、FRBやドルに対する根本的な信頼の喪失があったというのは言い過ぎだろう。
つまり、ドル崩壊に対する代替手段としてビットコイン購入を正当化することは少なくとも今回は難しそうだ。
より大きな価値提案
そうなると先週、一時的に2万4000ドル(約312万円)を突破し、過去1年で最高の月となったビットコインをどう考えれば良いのだろう?
シンプルな答えは、世界中の投資家がリスク選好を回復しており、経済情勢が緩和するなか、お金がビットコインを含むリスク資産に流れ込んでいるというものだ。
しかしこれは、あまり満足できない答えでもある。ビットコインに投資するさまざまな根拠の正しさが証明されなかったことをこの記事の最初に見てきたばかりだ。
ビットコインには、なぜ価値があるのか? 人々が支出できるお金を持っているからといって、価値のないものに使うことにはならない。人々にビットコインを買わせ続ける根本的な価値提案は何か?
ウォール街から離れた場所
その答えは、ウォール街からはるかに離れた場所にあると私は考えている。
ビットコインは現在、金融の自由が脅かされている、以下のような発展途上国でその価値を証明している。
- ナイジェリア:政府がデジタル通貨の普及を強制的に進めるために、現金を禁止する厳しい政策を実施。人々は資産を守るためにビットコインに殺到したと報じられた。需要の高さを示す指標の1つは、ナイジェリアでのビットコイン価格がアメリカでのドル建て価格のほぼ2倍になっていることだ。
- レバノン:銀行システムが崩壊寸前で、ワイン価格がビットコインで表記されることもよくあると言われる。国中に広がった、急拵えのマイニング施設で生計を立てる人もいる。
- ベトナム:2022年、チェイナリシス(Chainalysis)の暗号資産普及ランキングでトップとなった。その理由の1つは、ベトナム成人の30%強しか銀行口座を持たず、金融包摂の度合いが世界でも最低水準なことだ。
- チェイナリシスの暗号資産普及トップ10の他の国々:第5位のアメリカ以外は、すべて新興経済国。フィリピン、ウクライナ、インド、パキスタン、ブラジル、タイ、ロシア、中国となっている。
経済状況によって、投資意欲が回復していると感じているなら、そしてビットコインを自分のポートフォリオに加えることを正当化したいと考えているなら、伝統的な西洋の金融市場で一般的なリスクとチャンスという指標で考えようとしない方が良い。
そうではなく、政治、不安定さ、組織、インフラの全般的な失敗によって金融システムが不十分な世界の多くの場所を見てみれば良い。そうした場所でビットコインは実用性を証明している。そうした場所で便利なら、価値があるはずだ。
|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Rachel Sun/CoinDesk
|原文:Fed Policy Win Could Harm Bitcoin’s Wall Street Narrative