この数週間、暗号資産(仮想通貨)と銀行に関連したニュースがいくつか続いている。
ケイトリン・ロング(Caitlin Long)氏が創業し、まだ事業はスタートしていないカストディア銀行(Custodia Bank)は数週間前、米連邦準備制度への加盟申請を却下された。
暗号資産(仮想通貨)取引所バイナンス(Binance)は、取引している銀行との関係で、2月8日から米ドルの銀行送金を一時停止すると発表した。
ほかにも、FTXとの関係で集団訴訟を起こされたシグネチャー銀行(Signature Bank)や、利用していたカストディアンの事業停止を受けてサービスの一時停止と再開を行った暗号資産銀行ジュノ(Juno)のニュースもあった。
そして、暗号資産業界には大きな非難が寄せられている。
暗号資産と銀行にまつわるニュース
それはある意味、当然だ。
なぜなら、バイナンスは暗号資産業界で最もよく知られたブランド。銀行に対する訴訟は(FTXと関連しているなら特に)派手で、注目を集める。ジュノはFDIC(米連邦預金保険公社)の適用を受ける当座預金口座を提供している(つまり、信頼性の高い銀行と考えられていた)。
だが、バイナンスはアメリカの規制当局としばしば衝突している。アメリカの銀行との関係で苦戦していることは本当に驚くようなことだろうか?
ちなみに、バイナンス顧客に米ドルでの銀行送金を利用する人はほとんどおらず、バイナンスのアメリカ部門はほぼ影響を受けない。つまり、懸念する必要はほぼない。
シグネチャーに対する訴訟は単なる訴訟に過ぎない。俳優のマット・デイモンやNBA選手のステフィン・カリー、元NFLスター選手のトム・ブレイディなど、暗号資産関連の宣伝に関わったセレブに聞けば、暗号資産絡みで訴えられた人の名前がたくさんあがるだろう。
ジュノはFDICの保険が適用される口座で利子を提供しており、2022年がどれほど散々な年であったかを考えれば、運営に支障が出るような影響を外部から受けたことは、そんなに衝撃的なことだろうか?
どれも、それほど大きなニュースではないはずだ。
だが、これらのニュースにカストディア銀行が加わったことは、大きな驚きだ。FRB(米連邦準備制度理事会)に拒否されたというニュースは、他のストーリーをすべて合わせたものよりも大きなリアクションに値する。
カストディア銀行のどこが問題か?
カストディア銀行は、銀行業務に従来とは違う方法で挑戦している。カストディアが目指しているのは、暗号資産と米ドルの決済システムをつなぐ、法令を遵守した架け橋となることだ。そのことを念頭にカストディアの申請を却下したことを言い訳するFRBの以下の声明を読んでほしい。
「同社の斬新なビジネスモデルと、暗号資産に重点を置くという提案は、安全性と健全性にまつわる大きなリスクを提示する。理事会は、そのような暗号資産アクティビティは安全で安定した銀行業務とは相容れない可能性が高いという見解をこれまでにも明確にしてきた」
この説明は、ある程度納得できる。
「これまでにも明確にしてきた」という点は、詐欺、暗号資産企業による不正確な情報開示など、銀行システムに暗号資産がもたらす多くのリスクをあげた1月3日付けの声明のことを指している。
この声明では他にも、カストディ業務に関連する法律上の不透明性、市場ボラティリティ、ステーブルコインの取り付け騒ぎのリスク、影響の波及リスク、「オープン、パブリックで分散型ネットワーク、あるいは同様のシステムのリスク」などの列挙されている。
不合理になるのは、カストディア銀行が提示する戦略やミッションと、FRBの却下理由の説明の文言を比べた時だ。
「軽減することやコントロールすることができない暗号資産に関連するリスクが、銀行システムに波及しないことが重要だ」
しかし、そのようなリスクの軽減、コントロールこそが、カストディア銀行が目指していることだ。カストディアはワイオミング州で認可を受けた特別目的預金金融機関(SPDI:special purpose depository institution)。つまり、資産のカストディを主に行う銀行で、その重点は資産を安全に保管し、取引を効率的に決済することにある。
カストディア銀行はSPDIに認可されていることから、預金の100%以上の価値を持つ、抵当に入っていない流動資産(現金や米国債など)を維持することが義務付けられている。顧客の預金1ドルに対して、カストディアは最低1ドルを準備金として保有することになる。
それはつまり、ほとんどすべての銀行とは異なり、カストディアには、破綻から顧客の預金を保護するためのFDICの保険が必要ないということだ。
多くの銀行は「部分準備」
実は、衝撃的に聞こえるかもしれないが、ほとんどの銀行がFDICを必要としているのは、預金全額に対して同額以上の準備金を保有する義務がないからだ。
ほとんどすべての銀行、とりわけ大手銀行は預金の一部のみを、顧客の引き出しに常に応じられるようにしておく「部分準備銀行制度」を採用している。それが恐ろしく聞こえるとしたら、実際にある程度そうだからだ。私たちが命懸けで学んだとおり、物事は上手くいかなくなるその時までは、上手くいっているものだ。
事態がひどく悪化したり、銀行が問題に直面した場合、顧客は銀行に殺到して預金を引き出そうとする。部分準備の場合、引き出すに対応できる、十分な資金がないかもしれない。つまり、銀行の取り付け騒ぎが起こる。取り付け騒ぎは厄介なものだ。
しかし、資産が十分にあれば、取り付け騒ぎは起こりようがない。話はきわめてシンプルだ。
常識的な規制を
カストディア銀行の件がなければ、冒頭で紹介した暗号資産と銀行に関連したニュースはさほど注目すべき価値があったとは思えない。
暗号資産の多くは、不明瞭な証券取引法に隣接した状態がベースになっており、バイナンス、シグネチャー、ジュノにまつわる不安感はそれだけでは驚くようものではない。
しかし、暗号資産企業にサービスを提供する「完全準備銀行」に対して不安感があるとすれば驚きだ。
この記事は、カストディア銀行のPRを目的としたものではない。完全準備銀行の要件をPRしようというものでもない。ビットコイナーである私が銀行を宣伝するメリットはない。
だが私は、より常識的な規制の必要性を訴えている。そもそもなぜこのような議論が必要なのだろうか? 暗号資産は違法ではないのだから、暗号資産企業に金融サービスを提供しようとする完全に準備資産を用意した認可済みの銀行が、その目的達成を妨げられるべきではない。
「暗号資産」という言葉を目にしたり、耳にした時にFRBのような組織を怖がらせる別の何かがあるというのだろうか。
|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:カストディア銀行のケイトリン・ロングCEO(CoinDesk archives)
|原文:Aspiring Crypto Bank’s Plight Shows Binance’s Issues Are Just Part of the Story