SEC(米証券取引委員会)は2月9日、暗号資産(仮想通貨)取引所クラーケン(Kraken)の米顧客向けステーキングサービスが無登録の証券提供にあたると発表。当時、クラーケンは同サービスの提供を直ちに停止し、和解金として3000万ドル(約39億円)を支払うと発表した。
何が問題か?
このニュースは、アメリカにおけるステーキングにどんな影響をもたらすのか、多くの疑問を浮かんでいる。
詳細を考える前に、いくつかの用語を定義しておこう。プルーフ・オブ・ステーク(PoS)は、暗号資産をロック、つまり「ステーキング」する人たちによってノードがサポートされるコンセンサスメカニズムをいう。プルーフ・オブ・ワーク(PoW)と異なる点は、ブロックチェーンの安全性維持に計算能力を注ぎ込むのではなく、「お金」を注ぎ込むことだ。
ステーキングは近年、特に2022年にイーサリアムブロックチェーンがPoWからPoS移行したことでますます注目されている。そしてさまざまな企業がステーキングサービスを提供している。ノードを自分で運用することは、さほど簡単なことではないためだ。
ゲンスラー委員長の発言
コインベース(Coinbase)のブライアン・アームストロングCEOは8日、SECが個人投資家のステーキングを禁止しようとしているとの噂についてツイートし、警鐘を鳴らした。
しかし、SECはクラーケンのようにステーキングサービスを提供し、顧客に利回り提供を約束している企業をターゲットにしているように思える。
状況を確認するために、ゲイリー・ゲンスラーSEC委員長の過去の発言を振り返ってみよう。2022念9月、委員長はステーキングは、ハウィー・テスト(Howey Test:投資商品が証券にあたるかどうかのテスト)の要件に合致する可能性があると述べている。
また、ウォール・ストリート・ジャーナルのインタビューでは仲介事業者に触れ、仲介事業者を通したステーキングは「貸付(レンディング)のラベルを変えたようなもので、きわめて類似している」と述べた。
大きな疑問
クラーケンの発表とアームストロングCEOのツイートの後、SECはアメリカ国内のすべてのステーキングサービスを狙うのか、暗号資産企業はどのような方法でステーキングサービスを提供できるのか、当局の怒りを買うことなくサービスを提供したいと希望する企業に対してSECは何らかのガイダンスを提供するのかといった大きな疑問が飛び交っている。
SECのある関係者は、クラーケンとの和解発表後の記者会見で、SECは基本的にステーキングサービスの提供を他の種類の証券の提供と見ていると語った。
つまり、ステーキングサービスを提供しようとする企業は、SECに証券プラットフォームとして登録し、認可を受け、定期的に情報開示を行う必要がある。
この場合の証券とは、投資プログラムそのもの、つまりクラーケンが商品を提供する際に行った説明と、ユーザーと交わした契約を指すと別の関係者は述べた。
反対意見
SECの中には激しい反対意見もある。ヘスター・ピアース(Hester Peirce)理事は、表面上は認可の問題に思えるが、事態はより複雑だろうと指摘した。
「ここで問題となっているステーキングサービスなどの提供は、ステーキングプログラム全体の認可が必要なのか、それとも各暗号資産のステーキングプログラムについて個別の認可が必要なのか、さらにはクラーケンにとって会計上の影響はどうなるのかなど、複雑な問題が山積み」(ピアース理事)
SECの関係者は、今回の件がステーキングサービス全体に何らかの影響を与えるかどうかについて、コメントを控えた。
もう1つの要素
SECのクラーケンに対する訴えのもう1つの要素は、同社がユーザーに対するステーキング報酬の内容を規定していたことだ。クラーケンのサービスは、プロトコルの実際の報酬を投資家に送るだけではなかった。
これが今回の大きな要因だったかもしれない。弁護士のゲイブ・シャピロ(Gabe Shapiro)氏が指摘するように、この件は「法的に大きな違いを生む」ことになりそうだ。
SECの関係者は記者会見で、この点についてはあまりコメントできないが、憶測し過ぎないようにと語った。
|翻訳:coindesk JAPAN
|編集:増田隆幸
|画像:SEC(Shutterstock)
|原文:What Does Kraken’s SEC Settlement Mean for Crypto Staking?