希少性が経済モデルの中心となっている今の経済体制では、資本の蓄積が優先事項となる。そして、資本を蓄積・展開するために発明され、最も成功している手段が「株式会社」だ。株式会社は民間セクターのほとんどを占めている。
しかし、資本が希少なものでなくなった場合は、どうなるのだろうか？ 株式会社は必要か？ それ以外の、優れた何かを見つけるべきだろうか？
常に希少なものは多くない。だが、1つあるとすれば、人間の関心だ。自律分散型組織（DAO）と協同組合は、関心やエンゲージメントを集めるためのはるかに優れた手段かもしれない。
協同組合という仕組み
DAO、協同組合、ステーキングシステム内では、重要な決断はメンバーの利益のためにメンバーによって行われ、エンゲージメントに対する報酬は、エンゲージメントの度合いと建設的な参加に応じてメンバーに還元される。
暗号資産エコシステムが成長軌道へと戻っていくための、明確で前向きなルールの欠如について、活発な議論が交わされている。そのようなルールは、優れた参加者を惹きつけるために欠かせない。
2022年に起こった悪いことのほぼすべてはすでに違法だったことからもわかるとおり、必要となる新しいルールはそれほど多くはない。同意なく顧客の預金を流用したり、価格の吊り上げたり、同じ資産で複数回の借り入れを行うことは、すでに違法だ。
ありがたいことに、DAOが実世界で存在を確立するために使用できる法的枠組みや組織構造はすでに存在する。「協同組合」だ。
協同組合はすでに長い歴史がある。株式会社の方が規模は大きいが、世界の協同組合トップ300は、合計収益が1兆ドル（約130兆円）を超えている。
DAOは独占的IT大手に対抗できる
DAO、法的には「協同組合」はメンバーが所有する。そして株式会社とは異なり、重要な決断については、各メンバーが投票権を持つ。しかし、利益は参加度合いに応じてメンバーに分配されるため、最も貢献度の高いメンバーが最も多くを受け取る。
協同組合は、私がWeb2時代の最大の問題と考えているものを修復することができる。いわゆる、独占的で、略奪的IT大手だ。多くのWeb2企業のストーリーは例えば次のようなものになる。
頭の良い起業家がデジタルマーケットプレースで買い手と売り手をつなげるアプリケーションを思いつく。エコシステム全体で情報、製品、決済を調整するデジタルインフラの開発に多額の資金と長い年月を投資する。高度な分析、評判の管理システム、コミュニティエンゲージメントの成長にも投資する。
これらはすべて良いことだ。オンラインオークションからライドシェア、ショッピングまで、あらゆるものを摩擦のないデジタル体験にするインフラを開発するには、膨大な投資が必要だった。問題はその成功にある。
このようなシステムは、自然な独占状態に似ているからだ。支配的になるにつれて、価格を上げ、ゆっくりとだが確実に、エコシステムに価値を加えることから、価値を引き出すことに重点がシフトしていった。
私たちには、未来を見据えたポリシーやアプローチが必要だ。その未来とは豊かさの未来だ。
IT大手が協同組合であれば
IT大手のすべてが株式会社ではなく協同組合だったと想像してみて欲しい。当初の投資に良いリターンを返した後、残った利益を協同組合がネットワーク参加者に分配し始めたと想像してみて欲しい。
良いアイデアのように聞こえるが、この豊かな未来の想像図に欠陥があるとしたら、それは、私たちは常にこの最終ゴールに近づいているが、決して到達していないことだ。
良いアイデアにも、チームと投資家、顧客と利益が必要だ。
協同組合は、きわめて良い選択肢になるかもしれない。弁護士事務所Orrick, Herringron & Sutcliffeが発表したホワイトペーパーは、協同組合がDAOにとって理想的な法的モデルかどうかを検証し、営利企業と協力して、資本を蓄積し、投資家にリターンを提供できる方法を説明している。
協同組合は株式を購入し、営利企業を完全に所有することさえできる。営利の投資家に株式を売却してリターンを提供し、コミュニティから常に価値を抽出することへの圧力を軽減しつつ、投資家がデジタルエコシステムをほぼ完全にコントロールすることを防ぐことができる。
環境や社会に配慮した公益性の高い企業に与えられる国際認証B Corpを取得した企業から協同組合、DAOまで、企業の未来は、コミュニティの力を解き放ち、関心とエンゲージメントを蓄積し、それを公益のために活用する未来だ。それを可能にするポリシーとシステムがもっと必要だ。
ポール・ブローディ（Paul Brody）氏：EY（アーンスト・アンド・ヤング）のグローバル・ブロックチェーン・リーダー。
｜翻訳・編集：山口晶子、増田隆幸
｜画像：Shutterstock
｜原文：Policymakers Should Embrace DAOs in the New Future of Abundance
